初死亡おめでとう!
死にました。
でも終わりません。
神様の本性が少し見えます。
白い。
また白い。
こよりは、白い空間の真ん中で目を覚ました。
自分の手を見る。
小さいままだ。
勇者服もそのまま。
ただし、草の汚れも血の感触も残っていない。
「......生きてる?」
「初死亡おめでとう!」
ぱちぱちぱちぱち。
目の前でアドミニスが拍手していた。
満面の笑みだった。
こよりは無言で起き上がった。
「いやあ、早かったね。僕の予想より少し早い」
「殴っていい?」
「神様を?」
「うん」
「その元気があれば大丈夫!」
「大丈夫じゃない!」
こよりは叫んだ。
「黒い狼! 大きいの! 速いの! チュートリアル村の薬草採取で出していい敵じゃない!」
「うーん、そこはシードの揺らぎかな」
「シード?」
「世界の初期値だよ。同じ世界でも、地形とか敵配置とかイベント順が少し変わるんだ」
「少し?」
「今回は、黒狼が森の浅いところまで来ていた」
「少しじゃない!」
こよりの前に、黒いカウンターのようなものが現れた。
その向こうに、眠そうな顔の少女が座っている。黒いパーカー。手には分厚い帳簿。
「死亡受付番号一番。コヨリさんですね」
「受付あるの!?」
「あります。死ぬ方が多いので」
「多いの!?」
少女はあくびをした。
「ぼくは死神ネム。死亡処理、死因図鑑、リスポーン事務を担当しています」
「リスポーンって言った」
「聞かなかったことにしますか?」
「聞いたよ!」
ネムは帳簿をめくった。
「死因、チュートリアル外の黒狼。初回死亡としては、わりと標準よりひどいです」
「標準があるの?」
「あります。転倒、毒草、スライム窒息、村長の家の階段落ちなど」
「勇者の死因じゃない!」
アドミニスが明るく指を鳴らした。
空中に光の文字が出る。
【死亡ボーナス処理】
【死亡回数:1】
【死因経験:黒狼】
【解放候補:恐怖耐性 Lv.1】
【解放候補:黒狼の爪筋回避 Lv.1】
【解放候補:死ぬ前に一言ツッコむ】
「最後のスキルなに!?」
「才能があるみたい」
「いらない才能!」
ネムは淡々と印を押した。
【死亡ボーナス確定】
【恐怖耐性 Lv.1】を獲得しました。
【黒狼の爪筋回避 Lv.1】を獲得しました。
【死ぬ前に一言ツッコむ】を獲得しました。
体の奥が、少しだけ温かくなる。
怖さが消えたわけではない。
痛かった記憶も、消えていない。
けれど、黒狼の爪がどこから来たのか、ぼんやり思い出せた。
左。
横。
沈む動作からの回り込み。
次に会ったら、少しだけ避けられるかもしれない。
少しだけ。
「これ、死ぬたびに強くなるってこと?」
こよりが聞くと、アドミニスはうなずいた。
「そう。死に覚え攻略だよ」
「最初に言って!」
「言ったら怖がるかなって」
「死んでから言う方が怖い!」
こよりは拳を握った。
「元の世界へ帰るには、魔王を倒すんだよね」
「基本的にはね」
「基本的には?」
「可能性は高い」
「またそれ!」
アドミニスの笑顔は変わらない。
でも、こよりは気づいた。
この神様は、嘘をついている顔ではない。
もっと嫌な顔だ。
全部は言っていない顔だ。
ネムが帳簿を閉じた。
「では、次のシードへ移行します。死亡処理は完了。再出発してください」
「ちょっと待って。心の準備が」
「死亡処理は流れ作業です」
「死神の仕事が事務的すぎる!」
白い床に、また光の円が広がる。
こよりは歯を食いしばった。
怖い。
すごく怖い。
でも、元の世界に帰る方法があるなら、行くしかない。
「次は、黒狼に近づかない」
こよりは自分に言い聞かせた。
「薬草だけ採って帰る。村から出ない。危ない森には行かない」
アドミニスが手を振る。
「その意気だよ、勇者ちゃん!」
「神様は、ちゃんと反省して!」
「検討するね!」
「検討で逃げるな!」
また床が消えた。
こよりは落ちながら叫んだ。
「次は絶対、死なないから!」
ネムの眠そうな声が、遠くで聞こえた。
「だいたい皆さん、そう言います」
【今回の勇者ステータス】
現在シード:シード001終了
死亡時レベル:Lv1
死亡時HP:0/15
次回開始:Lv1/HP15
クラス:勇者
獲得スキル:【恐怖耐性 Lv.1】【黒狼の爪筋回避 Lv.1】【死ぬ前に一言ツッコむ】
死亡回数:1
ロスト:【薬草三つ】【思いやりの木剣】※未登録品




