魔王軍の地下通路は、逃げ道の顔をした処刑場です
魔王城の地下には、古い門の気配があります。
ただし、地下通路は逃げ道の顔をした処刑場。
場所替えも巻物も、使う前に床を見ましょう。
魔王軍の苦情書類は、死因図鑑の隣に置かれた。
並べると、なかなか味わい深い。
死因図鑑。
魔王軍苦情書類。
どちらも、神様の雑な運営から生まれた紙だ。
「ログル、これ、同じ棚に置いていい?」
「分類は違いますが、原因は近いです」
「じゃあ近くで」
魔王ゼルドとベルの話で、魔王城の地下に古い門がある可能性が出てきた。
王都地下で見た、あの古い扉に似たもの。
帰るための手がかりかもしれない。
でも、すぐ行けるわけではない。
魔王城の地下通路は、逃走用でもあり、処刑用でもあるらしい。
「逃走用と処刑用を兼ねるな」
「魔王城ですので」
「便利設備みたいに言わないで」
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
地下通路は、湿った石の匂いがした。
壁には黒い松明が並び、床には古い罠の線が薄く走っている。まっすぐな道は少なく、角が多い。射線を切れる場所も多いが、その分、角の向こうに何がいるか分からない。
わたしは地図を頭に浮かべる。
赤線。青線。黒丸。犬。判。泣。
「泣の記号、地下でも使いますか」
「使う。むしろ増える」
前方に盾ゴブリンがいた。
後方からは、番犬の足音。
手持ちは【場所替えの杖】。残り一回。
「これ、盾ゴブリンと場所替えすれば抜けられる」
「場所替え先の床を見てください」
「床?」
「黒いです」
「黒い床はだいたい悪い」
番犬の足音が近づく。
一手ごとに、距離が詰まる。
わたしの手が震えた。
「でも、使わないと噛まれる」
「使うなら、移動後の処理を想定してください」
「想定する時間が怖い!」
杖を振る。
光が走る。
わたしと盾ゴブリンの位置が入れ替わった。
成功。
足元が黒く光った。
【帰還拒否床】
周囲の扉が一斉に閉まる。
「ログル」
「はい」
「場所替えは成功した」
「はい」
「成功したのに詰んだ」
「はい」
「成功って何?」
「位置交換です」
「生存まで含めて!」
閉じ込められた部屋に、番犬が入ってきた。
【死亡ログ】
【死因:場所替え先が帰還拒否床だった】
【評価:移動先の床も対象です】
【死亡回数:56】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
次の周回。
わたしは地下通路で、未識別の巻物を拾った。
巻物の紙は古く、文字は読めない。だが、表紙に小さな地図のような模様がある。
「地図の巻物かも」
「未識別です」
「でも今ほしい」
「今ほしい物ほど、違います」
「それは人生の話?」
地下通路は入り組んでいる。地図がほしい。とてもほしい。
でも未識別。
安全地帯で読むべきだ。
分かっている。
分かっているのに、わたしは巻物を開いた。
「読む前に深呼吸」
「しました」
「もう一回」
「時間が」
「勇者様」
「読んだ!」
【謁見の間拡張の巻物】
ごごご、と壁が消えた。
地下通路が、広大な一部屋になる。
隠れていた壁も、曲がり角も、射線を切っていた柱も、全部消える。
遠くの弓兵が見えた。
遠くの魔法兵が見えた。
遠くの投石兵が見えた。
全員から、わたしも見えていた。
わたしは巻物を丁寧に畳んだ。
「返品したい」
「使用済みです」
赤線が、床を埋めた。
【死亡ログ】
【死因:未識別巻物で地下通路を大部屋化し、全射線を通した】
【評価:地図が見える前に敵にも見えました】
【死亡回数:57】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
拠点で、わたしは反省会テーブルに二枚の札を置いた。
【場所替え先の床を見る】
【未識別巻物は安全地帯で読む】
ログルは、札を見てうなずいた。
「非常に重要です」
「重要なこと、だいたい死んでから分かる」
「死因学習です」
「学習方法が痛い」
でも次は違った。
場所替えの杖を手にしても、すぐ振らない。移動先の床を見る。黒いなら使わない。
未識別巻物を拾っても、危険地帯では開かない。安全な角で、ログルに仮名をつけてもらう。
地下通路の赤線は避ける。青線へ戻る。罠床は小石で確認。番犬の足音がしたら、戦わず角を曲がる。
倒すより、逃げる。
逃げるより、先に逃げ道を見る。
わたしの地図は、少しずつ処刑場を通路に変えていった。
「ログル」
「はい」
「わたし、魔王城でずっと逃げてる」
「はい」
「勇者とは」
「生きて情報を持ち帰る人、という定義でもよいと思います」
「それ、好き」
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【今回の死亡ログ】
死亡回数:57回
今回の死因1:【場所替え先が帰還拒否床だった】
評価:【移動先の床も対象です】
今回の死因2:【未識別巻物で地下通路を大部屋化し、全射線を通した】
評価:【地図が見える前に敵にも見えました】
新規獲得:【場所替え先確認 Lv.1】【帰還拒否床警戒 Lv.1】【大部屋化警戒 Lv.1】【射線再確認 Lv.1】
【今回の勇者ステータス】
現在シード:シード066
死亡回数:57回
クラス:地図師候補/盗賊適性 発現
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
獲得済みスキル:【未識別警戒 Lv.4】【射線確認 Lv.3】【投擲前確認 Lv.1】【逃走ルート記録 Lv.1】【モンスターハウス初手停止 Lv.1】
今回の新規獲得・更新:【場所替え先確認 Lv.1】【帰還拒否床警戒 Lv.1】【大部屋化警戒 Lv.1】【射線再確認 Lv.1】
統合候補:【逃走ルート記録】【場所替え先確認】【赤線青線記録】→【ルート選択 Lv.1】
【ローグライクあるあるメモ】
場所替えは便利ですが、移動先が安全とは限りません。
そして未識別巻物は、必要な時ほど違う効果を引きます。大部屋化は便利な場面もありますが、射線が全部通る場所で読むとだいたい危険です。
コヨリは地図が欲しかっただけです。敵にも地図を見せました。つらい。




