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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第8章 魔王が近すぎるシード

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魔王様、労働環境の件でお話があります

魔王城の裏口から、ついに魔王ゼルドと対面。

魔王は怖い。

でも、書類に埋もれた魔王はちょっと気の毒です。


 魔王城外縁の地図が、だいぶ埋まってきた。


 門は危険。

 補給庫は欲と規則が危険。

 階段横の宝箱は危険。


 危険地帯で地図を書くのも危険。

 つまり、だいたい危険。


「ログル、この地図、危険しか書いてない」

「安全な場所もあります」

「どこ?」

「今いる拠点です」

「攻略先に安全地帯をください」


 それでも、進まなければ情報は増えない。


 わたしは地図に青線を引いた。


 村の井戸裏から、城壁の影を通り、補給庫の裏を抜ける。番犬の昼寝時間を待ち、盗賊番ゴーレムの巡回が西へ行った瞬間に、裏口へ入る。


 勇者というより、不審者の動線だ。


 でも、これが一番死ににくい。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 裏口の扉は、拍子抜けするほど普通だった。


 黒い鉄扉ではなく、木の扉。取っ手も普通。罠の匂いは薄い。


「普通すぎる」

「警戒しますか」

「する。普通は罠」


 足元を見て、壁を見て、取っ手に小石をぶつける。何も起きない。


 わたしは扉を開けた。

 中は、執務室だった。

 大きな机。高い背もたれの椅子。黒い旗。重そうな本棚。


 そして、書類の山に埋もれた魔王がいた。

 黒いマント。立派な角。鋭い目。威厳はある。


 ただし、机の上には【勇者接近警報報告書】【番犬餌代請求書】【補給庫盗難処理控え】【門前罠修理依頼】が積まれていた。


 魔王ゼルドは、顔を上げた。


「幼き勇者よ、正面門から来ないとは珍しい」

「正面門は死にます」

「余もそう思う」

「魔王さんも?」

「門前警報の音がうるさくて、余の昼休みが三回消えた」


 わたしは、椅子に座った。


「魔王さん、ちょっと相談があります」

「奇遇だな。余もある」

「神様の仕様が雑です」

「完全に同意する」


 会話が成立した。

 魔王と勇者なのに。

 むしろ、神様相手より話が早い。


 横の扉が開き、サキュバス秘書ベルが入ってきた。眼鏡をかけ、きっちりした黒い制服を着て、書類束を抱えている。


「魔王様、勇者様接近に関する苦情書類です。なお、神様側への提出分はまた差し戻されました」

「差し戻し理由は?」

「『勇者と魔王は戦うものだから』とのことです」

「雑!」


 ゼルドは深いため息をついた。


「余は初期村の隣に魔王城を置くなと三度申請した」

「魔王さん側も嫌だったの?」

「毎朝、村のにわとりの声で目が覚める魔王の気持ちが分かるか」

「ラスボスの朝としては庶民的すぎる」


 ベルが資料を机に置く。


「さらに、勇者様が門前で死亡されるたび、魔王軍側にも報告処理が発生します」

「わたしが死んでも魔王さんに迷惑が?」

「はい。死亡報告、警報履歴、罠修理、番犬出動記録が必要です」

「死ぬだけで仕事を増やしてる......」


 わたしは少しだけ申し訳なくなった。


 でも、悪いのはたぶん神様だ。


「魔王さん」

「何だ」

「わたし、魔王を倒せば元の世界に帰れるって言われた」


 ゼルドの顔が、すっと真面目になる。


「余の側に、そのような仕様書は届いていない」


 ベルも資料をめくった。


「魔王軍の契約書にも、勇者様の帰還処理についての記載はありません」

「じゃあ、神様の説明、また雑?」


 ログルが、わたしの肩の上で静かに答えた。


「少なくとも、未確認です」


 わたしは叫ばなかった。


 机の端を、ぎゅっと握る。


「......魔王さんを倒しても、帰れないかもしれないんだ」


 魔王ゼルドは、少しだけ目を伏せた。


「余を倒して扉が開くなら、余はその仕様を知らされているはずだ」

「知らされてない?」

「ない」


 ベルが小さく咳払いをした。


「念のため申し上げますが、魔王軍は勇者様の帰還を妨害する契約も結んでおりません」

「魔王軍、神様より説明が丁寧すぎる」


 その時、空から明るい声が落ちてきた。


「勇者と魔王が話し合ってる! イベントの雰囲気が違うね!」


 わたしとゼルドは同時に言った。


「帰れ」

「帰れ」


 アドミニスの声が弾む。


「じゃあ、緊張感を足しておくね!」


 床が開いた。


「足すな!」


 わたしだけが、真下へ落ちた。


 落下先は、広い訓練室だった。


 盗賊番ゴーレム。番犬ケルベロスもどき。遠距離魔法兵。盾ゴブリン。倍速コウモリ。


 床には罠。壁には射線。天井には警報の赤ランプ。


 完全に、訓練用モンスターハウスだ。


「勇者様、一歩動く前に打開策を」

「話し合い中にモンスターハウス出すな!」


 叫んだ。


 その叫びが行動扱いになった。


 敵が動いた。


「あ」


【死亡ログ】

【死因:魔王との相談中に訓練モンスターハウスへ落とされた】

【評価:会議室にも安全確認が必要です】

【死亡回数:55】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 死亡受付で、ネムは少し眠そうに言った。


「今回は会議中事故です」

「会議室の床が抜けるとは思わないでしょ」

「神様案件ですね」

「全部それ」


 拠点に戻ると、テーブルの上に紙片が残っていた。


 魔王軍の苦情書類の断片。


 そこには、こう書かれていた。


【初期村隣接配置に関する再々抗議】


 わたしはそれを見て、ため息をついた。


「魔王さんも、苦労してるんだね」

「はい」

「敵?」

「現時点では敵対対象です」

「でも、苦情仲間?」

「その表現なら、かなり近いです」


【今回の死亡ログ】

死亡時レベル:Lv5

死亡時HP:0/34

死亡時満腹度:63

今回の死因:【魔王との相談中に訓練モンスターハウスへ落とされた】

評価:【会議室にも安全確認が必要です】

新規獲得:【魔王会話ログ Lv.1】【強制イベント警戒 Lv.1】【落下先確認不能 Lv.1】【モンスターハウス初手停止 Lv.1】


【今回の勇者ステータス】

現在シード:シード066

死亡回数:55回

クラス:地図師候補/盗賊適性 発現

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済みスキル:【危険察知 Lv.4】【罠感知 Lv.3】【射線確認 Lv.3】【逃走ルート記録 Lv.1】【階段前欲張り警戒 Lv.1】

今回の新規獲得・更新:【魔王会話ログ Lv.1】【強制イベント警戒 Lv.1】【モンスターハウス初手停止 Lv.1】

拠点登録:【魔王軍苦情書類の断片】

帰還情報:【魔王討伐条件に疑義】


【ローグライクあるあるメモ】

モンスターハウスは、入った瞬間に一歩動くかどうかが命です。

囲まれた時ほど、まず持ち物、通路、巻物、杖、罠の位置を見るのが大事。

コヨリは叫びました。叫びが一手扱いになりました。これはかなりつらい。


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