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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第8章 魔王が近すぎるシード

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地図師は、逃げ道から描きます

魔王城は近い。

でも近いからこそ、逃げ道が大事です。

地図師候補コヨリ、泣きながら地図を描きます。


 拠点の壁に、魔王城外縁の白地図が貼られた。


 最初は、ただの白い紙だった。そこにわたしが、死んだ場所、罠の位置、門番の視界、番犬の部屋、補給庫の場所を書き込んでいく。


 地図というより、苦情の絵日記に近い。


「普通、地図って目的地へ行くために描くよね」

「今回は目的地から逃げるために描きます」

「目的地が最悪だからね」


 わたしは記号を決めた。


 ×は死んだ場所。


 犬は番犬ケルベロスもどき。


 判は盗賊番ゴーレム。


 赤線は射線。


 青線は逃げ道。


 黒丸は警報床。


 飯は補給庫。


 泣は行きたくない場所。


 ログルが地図を見上げる。


「泣、が多すぎます」

「正確な地図だから」

「魔王城のほぼ全域に泣がついています」

「正確な地図だから」


 地図師候補。


 最初に覚えることは、勇敢な進み方ではない。


 死なない逃げ方だ。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 シードへ戻り、わたしは村の裏手から魔王城外縁へ向かった。


 門前は通らない。補給庫には近づきすぎない。赤線は踏まない。番犬の吠える声がしたら、ひとまず逆方向へ一歩。


 地図があるだけで、少しだけ世界が読める。


「ログル、今のわたし、ちょっと賢い?」

「はい。少なくとも、門を見学していた時よりは」

「比較対象が低い」


 外縁通路を抜けると、地下へ続く階段が見えた。


 黒い石段。古い空気。奥から、冷たい魔力が流れてくる。


 魔王城の地下。


 目的地に近づいた気がした。


 そして、その階段の横に宝箱があった。


 金色の縁。赤い留め具。呼吸はしていない。たぶん。


「階段」

「はい」

「宝箱」

「はい」

「階段」

「はい」

「宝箱」

「勇者様、階段です」

「でも、宝箱が呼んでる」

「呼んでいる宝箱は、だいたい敵です」


 分かっている。


 分かっているのに、足が一歩ずれた。


 階段ではなく、宝箱へ。


 床が沈む。


「あ」


 階段が、がこん、と壁の向こうへ引っ込んだ。


 宝箱が口を開ける。


 横の壁から、番犬ケルベロスもどきが出る。


 天井から赤線が降りる。


 ログルが静かに言った。


「欲です」

「まだ何も言ってない!」

「顔に出ています」


 宝箱が跳びかかった。


【死亡ログ】

【死因:階段横の宝箱を見て逃げ道を捨てた】

【評価:階段は命、宝箱は欲】

【死亡回数:53】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 ネムの受付で、わたしは机に突っ伏した。


「階段は命」

「はい」

「宝箱は欲」

「はい」

「分かりやすいけど、心に痛い」

「では、死因図鑑に太字で」

「やめて」


 拠点へ戻り、わたしは地図に宝箱マークを書いた。


 その横に、赤く大きく書く。


【後で】


 ログルが首を傾げる。


「開ける気はあるのですね」

「逃げ道確保後なら、まだ可能性が」

「欲です」

「地図師にも夢は必要」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 次の周回では、わたしは慎重に進んだ。


 宝箱には近づかない。階段もすぐ降りない。まず周囲を見る。番犬の視界、弓兵の射線、足元の床。


 安全そうな角に入り、地図を更新する。


 わたしは腰の小さな炭筆を取り出し、床に地図の追加を書こうとした。


「勇者様」

「何?」

「書き込みは行動扱いです」


 炭筆が床についた。


 一手。


 敵ターン。


 城壁の上の弓兵が、こちらを見た。


「あ」


 赤線が通る。


【死亡ログ】

【死因:危険地帯で地図を書いて敵ターンを進めた】

【評価:メモは安全地帯で】

【死亡回数:54】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 拠点で、わたしは地図の横に新しい看板を置いた。


【地図は安全地帯で書く】


 ログルが満足そうにうなずく。


「良い学習です」

「死なないと地図も描けないの、効率悪すぎない?」

「死因込みで精度が上がっています」

「嫌な精度」


 でも、次の周回では違った。


 わたしは危険地帯で書かない。頭の中に仮の線を引く。赤線、青線、黒丸、犬、判、泣。


 安全な角へ逃げ込んでから、一気に記録する。


 魔王城の外縁が、少しずつ白地図から変わっていく。


 行くためではなく、逃げるための地図。


 倒すためではなく、生きて情報を持ち帰るための地図。


「ログル」

「はい」

「地図師って、かっこいい職業かと思ってた」

「違いましたか」

「今のところ、泣きながら逃げ道を書く係」

「かなり正確です」


【今回の死亡ログ】

死亡回数:54回

今回の死因1:【階段横の宝箱を見て逃げ道を捨てた】

評価:【階段は命、宝箱は欲】

今回の死因2:【危険地帯で地図を書いて敵ターンを進めた】

評価:【メモは安全地帯で】

新規獲得:【階段前欲張り警戒 Lv.1】【安全地帯メモ Lv.1】【逃走ルート記録 Lv.1】【赤線青線記録 Lv.1】


【今回の勇者ステータス】

現在シード:シード066

死亡回数:54回

クラス:地図師候補

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済みスキル:【危険察知 Lv.4】【足元確認 Lv.3】【罠感知 Lv.3】【射線確認 Lv.3】【門前警戒 Lv.1】【レア棚耐性 Lv.1】

今回の新規獲得・更新:【階段前欲張り警戒 Lv.1】【安全地帯メモ Lv.1】【逃走ルート記録 Lv.1】【赤線青線記録 Lv.1】

統合候補:【門前警戒】【警報床警戒】【逃走ルート記録】→【外縁地図作成 Lv.1】


【ローグライクあるあるメモ】

階段の横に宝箱があると、だいたい人は迷います。

逃げれば生きる。開ければ何か出る。欲は強い。

さらに、危険地帯でメニュー操作やメモをしたつもりが一手扱いになると、敵ターンで一気に崩れます。安全確認、大事。


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