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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第8章 魔王が近すぎるシード

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魔王軍補給庫で支払い忘れたら終わりです

魔王軍補給庫には、夢みたいなアイテムが並んでいました。

夢みたいな値札もついていました。

そして、会計前の一歩は命取りです。


 魔王城の門は見るだけで危険。


 これは、わたしの中で重要な攻略情報になった。


 つまり、正面から近づかない。


 村の裏手を回る。畑の脇を抜ける。城壁の影を避けて、赤い射線を踏まない。門番の視界に入らない。


 泣きながらでも、学習は進む。


「ログル、わたし今、勇者というより不審者じゃない?」

「魔王軍側の判定では、すでに不審勇者です」

「称号として定着させないで」


 城壁の外側を進むと、小さな建物が見えた。


 黒い旗。木の看板。窓口。棚。値札。


 看板には、こう書かれている。


【魔王軍補給庫】

【関係者以外も購入可】

【無断持出は番犬対応】


 わたしは足を止めた。


「お店」

「はい」

「安全地帯?」

「ローグライクのお店は、安全とは限りません」

「お店まで疑わせるな!」


 でも、入らない選択肢はなかった。


 補給庫の中には、魔王軍の黒い制服を着たアリアがいた。受付嬢だった時と同じ顔。砦の補給係だった時と同じきびきびした動き。


 でも、今回は魔王軍側だ。


「いらっしゃいませ。代金は前払いでも後払いでも結構です。ただし、支払い前の商品を持ったまま庫外へ出た場合、自動で備品無断持出判定となります」

「説明が丁寧!」

「魔王軍は規則説明を省略いたしません」

「神様より信用できる」

「なお、事故で押し出された場合も判定は発生します」

「そこは情状酌量して!」


 わたしは棚を見た。


 そして、息が止まりかけた。


【超天使の種】

【強化の壺】

【分裂の壺】

【腹減らずの腕輪】

【白紙の巻物】

【帰還の巻物】

【保存壺】

【合成壺】

【身代わりの杖】

【場所替えの杖】


 棚がまぶしい。


 宝石ではない。金貨でもない。


 それより危険な光だ。


「ログル」

「はい」

「ここ、天国?」

「魔王軍補給庫です」

「天国より品ぞろえいい」

「値札を見てください」

「見たくない」


 値札を見た。


 わたしは静かに棚へ背を向けた。


「帰ろう」

「賢明です」

「見たら負ける」

「かなり負けかけていました」

「腹減らずの腕輪がわたしを呼んだ」

「腕輪は呼びません」

「呼んだ。おなかに直接」


 腹減らずの腕輪。


 満腹度が減りにくくなる夢の装備。


 食料不足のシードで、空腹の怖さは骨身にしみている。腐った食べ物も、怪しい草も、爆発するキノコも、全部わたしの胃と死因図鑑に刻まれている。


 あれがあれば、どれだけ楽になるだろう。


 だが、値段は楽ではない。


「ログル」

「はい」

「一回、持つだけ」

「やめてください」

「買わない。持つだけ。重さを見るだけ」

「それが危険です」

「でも、腹減らず......」

「勇者様」

「はい」

「手が伸びています」

「止めて」


 ログルが尻尾で、わたしの手首をぺちんと叩いた。


 わたしは我に返る。


「危ない。今、欲で死ぬところだった」

「まだ死んでいません」

「言い方が不穏」


 その時だった。


 補給庫の外から、訓練用の鉄球が転がってきた。


 魔王軍の兵士が遠くで叫ぶ。


「すみませーん! 訓練球、そっち行きましたー!」


「そっちに行かせるな!」


 鉄球が入口の段差にぶつかり、跳ねた。


 わたしの背中に、どん、と当たる。


 一マス。


 体が押し出される。


 その瞬間、わたしの手は、なぜか腹減らずの腕輪をつかんでいた。


 庫外。


 所持状態。


【備品無断持出判定】


 アリアが、にこやかなまま判子を取り出した。


「盗難処理に移行します」

「違う! 腹は減ってるけど盗む気はない!」

「魔王軍規則では、所持状態で庫外へ出た事実を重視します」

「事実が刃物!」


 床が開いた。


 盗賊番ゴーレムが四体せり上がる。


 通路の奥から、番犬ケルベロスもどきが走ってくる。


 天井に弓兵の射線が並ぶ。


 棚では、超天使の種がきらきら光っている。


「ログル」

「はい」

「あれ飲めば助かる?」

「未払い品です」

「飲んだら?」

「罪状が増えます」

「死ぬより先に書類が増える世界、やだ」


 わたしは、床に落ちていた【高飛び草もどき】をつかんだ。


「これも未払いでは?」

「今さら!」


 飲む。


 視界が跳ねる。


 次の瞬間、わたしは番犬部屋にいた。


 三つ首。


 十五匹。


 全部、こっちを見ている。


「はい」

「はい」

「犬」

「犬です」

「たくさん」

「たくさんいます」

「異議申し立てしたい」

「死後にしましょう」


 番犬たちが、同時に吠えた。


【死亡ログ】

【死因:腹減らずの腕輪を持ったまま庫外へ押し出され、備品無断持出判定になった】

【評価:お腹より先に規則が減りませんでした】

【死亡回数:52】

【ロスト:腹減らずの腕輪/高飛び草もどき/理性】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 ネムは死亡受付の机で、魔王軍から送られてきた書類を読んでいた。


「今回は備品無断持出です」

「盗んでない!」

「異議申し立て欄があります」

「あるの!?」

「三十営業日以内に回答です」

「シード終わってる!」


 ネムは、追加の紙をめくる。


「魔王軍補給庫から、請求書も来ています」

「死んだのに!?」

「腕輪は回収済みですが、草は消費しています」

「高飛び先が犬部屋だった草にお金払いたくない!」


 拠点に戻ったわたしは、反省会テーブルに看板を置いた。


【支払い前に持つな】


 少し考えて、さらに書き足す。


【腹減らずの腕輪は、心に刺さる】


 ログルが真顔で言った。


「次からは、値札を見てから呼吸してください」

「呼吸にも手順がいるの?」

「今回の棚では必要です」


【今回の死亡ログ】

死亡時レベル:Lv2

死亡時HP:0/19

死亡時満腹度:88

今回の死因:【腹減らずの腕輪を持ったまま庫外へ押し出され、備品無断持出判定になった】

評価:【お腹より先に規則が減りませんでした】

ロスト:【腹減らずの腕輪】【高飛び草もどき】【理性】

新規獲得:【支払い前に深呼吸 Lv.1】【備品持出判定警戒 Lv.1】【押し出し泥棒警戒 Lv.1】【レア棚耐性 Lv.1】


【今回の勇者ステータス】

現在シード:シード066

死亡回数:52回

クラス:地図師候補/盗賊適性 発現

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済みスキル:【未識別警戒 Lv.4】【罠感知 Lv.3】【射線確認 Lv.3】【投擲前確認 Lv.1】【間合い管理 Lv.1】

今回の新規獲得・更新:【支払い前に深呼吸 Lv.1】【備品持出判定警戒 Lv.1】【押し出し泥棒警戒 Lv.1】【レア棚耐性 Lv.1】


【ローグライクあるあるメモ】

店に強化の壺、分裂の壺、腹減らず系の腕輪、白紙系の巻物が並ぶと、プレイヤーの理性はだいたい試されます。

買えれば勝ち筋。盗めれば夢。でも、逃げ道も支払い確認もないまま外へ出ると、番犬や盗賊番が来ます。

コヨリは盗む気がありませんでした。世界は気持ちより位置と所持品を見ます。ひどい。


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