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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第8章 魔王が近すぎるシード

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初期村の隣に魔王城を置かないでください

新しいシードは、初期村の隣に魔王城。

近い。近すぎる。

便利な立地は、勇者にはだいたい罠です。


 拠点の作戦ボードに、初期村ミルカの地図が浮かんでいた。


 白い線で描かれた村。井戸。畑。村道。そこまでは、いつもの初期村に近い。


 問題は、畑のすぐ横に、黒い城の影が置かれていることだった。


 わたしは、しばらく黙った。

 ログルも黙った。

 白い拠点に、気まずい沈黙が落ちた。


「ログル」

「はい」

「この黒いの、何?」

「魔王城です」

「はぃぃ!?村の隣の?」

「はい」

「歩いてどれくらい?」

「勇者様の歩幅で、およそ三十歩です」

「観光地なら便利。勇者なら最悪」


 わたしは作戦ボードの前に座り込んだ。


 近い。

 近すぎる。


 魔王城は、山の向こうとか、荒野の果てとか、黒い霧の奥とか、そういう遠いところにあるべきだ。初期村の畑の横に置くものではない。


「ログル、これってバグ?」

「神様は仕様と言うと思います」

「先に言われた。むかつく」


 けれど、行かないと進まない。


 わたしは深呼吸して、シードに入った。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 初期村ミルカの空気は、妙に普通だった。


 村人は洗濯物を干している。畑ではおばあさんが鍬を持っている。井戸の横ではにわとりが走っている。


 その全部の背後に、黒い魔王城がそびえていた。


 朝の日差しを浴びる初期村と、空気を重くする魔王城。


 混ぜてはいけない背景素材を、神様が同じ画面に置いた感じだった。


「初期村の景観にラスダンを混ぜるな」

「勇者様、額の宝石にクラス反応が出ています」


 ログルの額に、小さな文字が浮かぶ。


【クラス適性:地図師候補】

【盗賊適性:微弱反応】


「勇者じゃないの?」

「勇者で正面突破すると、だいたい死ぬ配置です」

「見た目で分かるやつだ」


 わたしは村の入口に立ち、魔王城を見た。


 門だけ見て帰ろう。


 そう思った。


 わたしは本当に、それだけのつもりだった。


 だって、初見の魔王城に入るほど、わたしも雑ではない。門の位置、門番の数、射線、罠っぽい床。それだけ確認する。


 これなら安全確認だ。


 たぶん。


「勇者様」

「言わないで」

「その『たぶん』は、かなり危険です」

「分かってる。でも見ないと地図が描けない」


 一歩。


 敵は動かない。


 二歩。


 城壁の上で、黒い影がひとつ動いた。


 三歩。


 地面に、薄い赤線が走った。


「射線」

「はい。右の城壁からです」

「射線の谷で見たやつ!」

「経験が活きています」

「活きてるのに行きたくない!」


 わたしは岩陰を使って、赤線を避けた。


 門の前には、小さなゴブリンが立っていた。槍を持ち、鉄兜をかぶり、妙に礼儀正しい姿勢をしている。


「入城許可証はありますか」

「ないです」

「謁見予約はありますか」

「ないです」

「魔王軍関係者ですか」

「違います」

「勇者様ですか」

「違います」

「勇者様です」

「ログル!」


 ログルが小さく耳を伏せた。


「事実確認です」

「今は事実を伏せる場面!」


 門番ゴブリンは、胸元から笛を取り出した。


「規則により、勇者接近警報を発令します」

「まだ接近しかしてない!」


 ピーッ、と音が鳴った。


 城壁の上で、黒い影が一斉にこちらを向く。


 赤い射線。青白い魔法陣。門の横から、三つ首の番犬が顔を出した。


 右の首が火を吐き、左の首が氷を吐き、真ん中の首が眠そうにあくびをした。


「ログル」

「はい」

「門を見ただけ」

「はい」

「入ってない」

「はい」

「なのに?」

「警報です」


 わたしは後ろへ一歩下がった。


 床が光った。


【来客誘導罠】


 ぐい、と足元が引っ張られ、わたしは門の真正面に戻された。


「接客がしつこい!」


 もう一歩、横へ逃げる。


 床が光る。


 また門の正面。


 さらに一歩。


 また門の正面。


「神様ァ! 店員さんより門番の接客が強引なんだけど!」


 城壁の上から矢が降った。


 番犬が走る。


 門番ゴブリンは淡々と、わたしの額に判子を押した。


【不審勇者】


「判子押されたああああああああああああああ!」


 次の瞬間、視界が白く飛んだ。


【死亡ログ】

【死因:魔王城の門を見学して勇者接近警報を鳴らした】

【評価:観光ではありません】

【死亡回数:49】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 死神ネムは、受付の机に置かれた死亡ログを見て、少しだけ首を傾けた。


「今回は見学死です」

「見学死って何」

「見ただけで死ぬやつです」

「初期村の隣に置くな、そんなもの」


 ネムは判子を押した。


「不審勇者判定、記録しておきます」

「その称号いらない」

「返却不可です」

「額から消して!」


 拠点へ戻ると、わたしは反省会テーブルに看板を置いた。


【魔王城は見るだけでも危険】


 ログルがその横に、小さく書き足す。


【門前罠あり】


 わたしはさらに下へ書いた。


【門番は礼儀正しいが通報する】


「よし」

「よしではありませんが、情報としては有用です」

「地図って、こういう泣きながら作るものなんだね」

「今回の地図は、かなり涙でにじみそうです」


 その後も私は、いろんな理由で魔王城に近づいては、死んだ。

 死亡回数+3。だって城が近すぎるんだもん!!

【今回の死亡ログ】

死亡時レベル:Lv1

死亡時HP:0/15

死亡時満腹度:96

今回の死因:【魔王城の門を見学して勇者接近警報を鳴らした】

評価:【観光ではありません】

新規獲得:【門前警戒 Lv.1】【警報床警戒 Lv.1】【不審者判定警戒 Lv.1】


【今回の勇者ステータス】

現在シード:シード066

死亡回数:51回

クラス:地図師候補

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済みスキル:【危険察知 Lv.4】【足元確認 Lv.3】【罠感知 Lv.3】【射線確認 Lv.3】【間合い管理 Lv.1】【おとも管理 Lv.1】

今回の新規獲得・更新:【門前警戒 Lv.1】【警報床警戒 Lv.1】【不審者判定警戒 Lv.1】


【ローグライクあるあるメモ】

入口、階段、店、門。安全そうな場所ほど、踏んだ瞬間に判定が走ることがあります。

今回は魔王城の門前がそれでした。まだ入っていないのに警報。ひどい。

でも「一歩踏んだら敵対」は、とてもそれっぽい事故です。


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