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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第7章 魔物使いシードとドラゴン幼体

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臆病竜の巣と魔物休憩所

ピヨラは弱い。怖がり。泣き虫。

でも、怖いまま誰かを守れる子です。

魔物使いシード、決着です。


 臆病竜の巣は、森の奥にあった。


 地面からは細い煙が上がり、木の根の間を赤い火花が走っている。熱はある。けれど、燃え広がるほどではない。巣そのものが、幼いドラゴンに火の扱いを覚えさせるための訓練場になっているらしい。


 ただし、その訓練場は、火を怖がるピヨラには最悪だった。


「ピヨ......帰る」

「わかる」

「ピヨ、火、いっぱい」

「わかる」

「コヨリも帰る?」

「帰りたい。でも、奥の制御石を見ないと、たぶん魔物休憩所が作れない」

「ピヨ......休憩、ほしい」

「だよね。休憩所、大事だよね」


 ログルは足元の火花床を見て、静かに言った。


「勇者様。右の赤い床は踏まないでください。左は煙で視界が落ちます。前方五マス、爆ぜ毛玉。奥に巣守り反応」

「情報が全部いや」

「今回は成功周回です」

「成功って言葉、たまに圧がある」


 コヨリのレベルは9まで上がっていた。HPもそこそこある。だが、それで安全になる世界ではない。火花床を踏めば焼けるし、爆ぜ毛玉を真正面からなでれば爆ぜる。ピヨラが通路を塞げば、後ろから倍速ウサギに殴られる。


 強くなったのではない。


 少しだけ、死に方を覚えた。


 コヨリは小石袋改を確認し、草食スライムまんじゅうを半分だけ取り出す。遠投の腕輪は持っていない。持っていたら、たぶん何かを世界のかなたへ投げる。自分を信用しすぎないのも攻略だ。


「指差し確認」

「はい」

「魔物まんじゅう、識別済み」

「はい」

「ピヨラ、わたしの後ろ。通路ではすみっこ」

「ピヨ、すみっこ」

「爆ぜ毛玉、真正面からなでない」

「はい」

「火花床、踏まない」

「はい」

「神様、信用しない」

「それは常時です」


 巣の奥から、低い咆哮が響いた。


 煙の向こうに、巨大な竜の影が浮かぶ。生きた親ドラゴンではない。古い巣の管理魔法と、竜の記録が混ざった試練の影だ。


【解析名:巣守りドラゴン】

【判定:試練モンスター】

【火を恐れない竜のみ合格】


 コヨリは真顔でログを見た。


「不合格基準が雑」

「ピヨラさんを弾く設計です」

「そんな試験、こっちから不合格にしてやる」


 巣守りドラゴンが翼を広げる。火花床が増えた。爆ぜ毛玉が二体、煙の中でふくらみ始める。肩のりコウモリが鳴き、ピヨラがびくっと震えた。


「ピヨ、こわい」

「うん」

「ピヨ、火、こわい」

「うん。こわいままでいい」


 コヨリは、ピヨラに戦えとは言わなかった。


 命令すれば、ピヨラは前に出るかもしれない。火を吐けるかもしれない。勝てるかもしれない。


 でも、それは、コヨリが神様にされていることと同じだった。


 死んでも次があるから、使う。怖くても、戦わせる。記録に残るから、試す。


 それは違う。


「ピヨラ、戦わなくていい」

「ピヨ?」

「こわいなら、こわいままでいい。わたしも毎回こわい」

「コヨリも?」

「うん。すっごくこわい。でも、帰りたいから一手ずつ進む」


 ログルは何も言わなかった。宝石だけが、静かに光っている。


 巣守りドラゴンが火炎を吐く。直線。前に嫌というほど見た射線だ。コヨリは一歩下がらず、横へ一マス。ピヨラはすみっこ。火炎は二人の間を抜け、後ろの火花床を広げた。


「射線よし。心臓よくない」

「生存しています」

「それだけでえらい」


 コヨリは草食スライムまんじゅうをかじった。体に弾力が宿る。巣守りドラゴンの翼圧を、ぷるんと受け流す。調子に乗って跳ねたくなるが、足元に罠の赤い線が見えた。


「跳ねない。今は跳ねない。スライムごっこ禁止」

「よい判断です」


 爆ぜ毛玉が通路を塞ぐ。コヨリは真正面からなでない。横へ回り、首の下を一度だけなでる。すぐ一歩下がる。


 ぱち、と静電気だけが散る。


「なでなで成功」

「成功ログに入れます」

「死なないなでなで、尊い」


 煙幕が濃くなる。見えない。攻撃したくなる。だが、コヨリは撃たない。前に覚えた。見えない時の銀の矢は、だいたい後ろで何かを爆発させる。


「撃たない」

「はい」

「一歩下がる」

「足元、右は安全です」

「右、よし」


 コヨリが右へ動く。煙の向こうで、巣守りドラゴンの火炎が岩へ当たった。岩が割れ、天井から黒い巣石が落ちる。


 その奥に、古い制御石が見えた。


「ログル、あれ?」

「巣の管理核です。貫通させる必要はありません」

「銀の矢じゃない」

「はい」

「鉄の矢」

「はい」

「余計なことをしない」

「とても大事です」


 コヨリは鉄の矢をつがえた。


 その時、ピヨラが震えながら前を向いた。火はまだ怖い。煙も怖い。巣守りドラゴンも怖い。けれど、小さな鼻先に、淡い火花が灯った。


「ピヨ......こわい。でも、コヨリ、見えないの、こわい」

「ピヨラ?」


 火花は攻撃ではなかった。煙を少しだけ払う、弱くて温かい光だった。


 視界が開く。


 制御石が、まっすぐ見えた。


「ありがとう」


 コヨリは鉄の矢を放った。


 矢は制御石に刺さり、ひびを入れる。貫通しない。爆発しない。余計な敵を巻き込まない。ただ、必要なものだけを壊した。


 巣守りドラゴンの影が、静かにほどけていく。


【クラス解放:魔物使い(まものつかい)

【拠点施設解放:魔物休憩所】

【拠点仮登録:ピヨラの寝床】

【帰還因子:記憶 初期反応】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 拠点に戻ると、白い床の隅に小さな寝床ができていた。


 まだ、ピヨラ本人がいるわけではない。次のシードで同じピヨラに会える保証もない。ただ、焦げた草の匂いが少し残っている。小さな翼が休めるくらいの、丸い寝床だった。


 コヨリは木の札を置いた。


【ピヨラ】

【火がこわい】

【でも、えらい】


「記録しました」

「うん」

「次に同じピヨラさんに会える保証はありません」

「知ってる」


 コヨリは、寝床の前にしゃがみこんだ。


「でも、忘れない場所が増えた」

「はい」

「拠点って、そういう場所なんだね」


 ログルの宝石に、淡い光がともる。名前でも、座標でも、扉でもない。もっと小さくて、温かいもの。


 記憶。


 帰るために必要なものが、少しずつ形を持ち始めていた。


 その横で、リュシアが看板を立てた。


【魔物休憩所】

【噛む子は事前申告】

【爆ぜる子は屋外】

【通路を塞ぐ子はすみっこ練習】


 コヨリは真顔でうなずいた。


「大事」

「非常に大事です」

「あと、火がこわい子には、すべらない床」

「追加しましょう」


 ログルは看板の下に、小さく書き足した。


【こわいままでも、休んでよい】


 コヨリはそれを見て、少しだけ笑った。


「ログル、今のいいね」

「記録に残すほどではありません」

「残す」

「......はい」

【今回のクリアログ】

クリア時レベル:Lv9

クリア時HP:18/58

持ち帰り成功:【魔物まんじゅう識別メモ】【ピヨラの寝床記録】

拠点登録:【おとも呼び台 仮設】【ピヨラの寝床 仮登録】

解放施設:【魔物休憩所】

獲得因子:【帰還因子:記憶】初期反応


【今回の勇者ステータス】

現在シード:シード041

死亡回数:48回

クラス:魔物使い

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】

【危険察知 Lv.3】

【足元確認 Lv.3】

【罠感知 Lv.3】

【未識別警戒 Lv.3】

【射線確認 Lv.3】

【一歩下がろう Lv.1】

【投擲前確認 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

クラス解放:【魔物使い】

新規獲得:【魔物なでなで Lv.2】

新規獲得:【おとも管理 Lv.1】

新規獲得:【ふれあい距離管理 Lv.1】

新規獲得:【変身事故警戒 Lv.1】

新規獲得:【ピヨラ記録 Lv.1】

統合:【おとも位置確認】【味方通路塞ぎ警戒】【指示ターン警戒】→【おとも管理 Lv.1】

統合:【魔物まんじゅう識別】【変身先確認】【弱点も引き継ぐ】→【変身事故警戒 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ:魔物を使い潰さない選択をした幼女勇者。死に覚えが、少しだけ優しさにもなった。

ログル:記録係であり相棒。ピヨラの寝床と記憶因子の反応を静かに残した。

ピヨラ:火がこわいドラゴン幼体。怖いまま、小さな火で煙を払った。

リュシア:魔物休憩所の看板担当。噛む子と爆ぜる子の管理に理解がある。


【ローグライクあるあるメモ】

最終盤では、これまでの事故で覚えた小技が全部つながります。射線確認、足元確認、未識別チェック、仲間の位置管理、変身アイテムの弱点確認。単体では地味な確認でも、積み重なるとボス攻略の決め手になります。今回は「強い一手」ではなく「余計なことをしない一手」が勝ち筋でした。


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