魔物まんじゅうを食べる前に、変身先を確認しよう
魔物使いらしく変身アイテムが登場。
相手の気持ちを知る前に、弱点を知ろう。
未識別を食べるな。何度目だ。
ミーナは、手のひらに乗る小さなまんじゅうを出した。
白い皮に、肉球の焼き印。中からは、ほんのり甘い匂いがする。見た目だけなら完全におやつだった。
コヨリは一歩下がった。
「食べ物だ」
「食べ物ですね」
「食べ物の顔をしたトラブルだ」
「勇者様の判断が正しいです」
ミーナは笑った。
「魔物使いなら、相手の気持ちを知るのも大事だよ。これは魔物まんじゅう。食べると、少しだけ魔物の性質を借りられる」
「借りる?」
「変身です」
「ログル、食べ物に変身効果がついてる」
「はい」
「おやつ欄じゃなくて罠欄じゃん」
ログルは宝石を光らせる。
「未識別状態です。どの魔物の性質かは不明」
「じゃあ食べない」
「賢明です」
「わたしは成長した」
「はい」
その瞬間、ピヨラが横から鼻を近づけた。
「ピヨ、あまい」
「だめ! ピヨラ、食べちゃだめ!」
コヨリは慌ててまんじゅうを取り返そうとした。ピヨラは食べていない。そこまではよかった。
問題は、コヨリがつかんだまんじゅうが、指から滑り、跳ね、なぜか自分の口に入ったことだった。
「んむっ」
「勇者様」
「食べてない。これは事故。口に入っただけ」
「嚥下しました」
「言い方が医学!」
視界がぐにゃりと歪む。
体が縮む。手が消える。足も消える。かわりに、頭の上に傘のようなものが広がる。地面がやけに近い。
コヨリは、まねっこキノコになった。
「......ログル」
「はい」
「今のわたし、かわいい?」
「危険です」
「かわいいか聞いた」
「小さいです」
「評価を逃げた」
まねっこキノコの体は、動くたびに胞子が出る。攻撃力は低い。ただし、周囲の声まねができるらしい。
試しに、コヨリはログルの声をまねた。
「勇者様、今のは確認不足です」
「似ていますが腹が立ちます」
「自分の声で言われると刺さるね」
ピヨラがあたりを見回した。
「ピヨ、コヨリいない」
「ここ」
「キノコしゃべった」
「わたし!」
「キノコ、こわい!」
ピヨラの目に涙がたまる。鼻先に火花が浮かぶ。
コヨリは、自分のキノコボディを見た。どう見ても火に弱い。
「あ」
「相性最悪です」
火花が落ちた。
【死因:まねっこキノコに変身し、ピヨラの火花で焼かれた】
【評価:相手の気持ちを知る前に弱点を知りましょう】
【死亡回数:47 → 48】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
死亡受付で、コヨリは妙に冷静だった。
「敗因を分析します」
「どうぞ」
「未識別変身アイテムの誤飲。変身先の弱点未確認。同行魔物との相性不一致」
「正確です」
「あと、キノコ姿のわたしは少しかわいかった」
「評価欄に不要です」
「書いて」
「書きません」
ネムは事務的に死因ログを閉じた。
「今回、未識別警戒の更新候補ですね」
「食べるつもりはなかった」
「事故食いも警戒対象です」
「そんな食べ方まで管理するの?」
「コヨリさんの場合は」
「個別対応やめて」
拠点で、ログルはまんじゅうの模型を置いた。
「魔物まんじゅうは、投げて識別できます」
「食べ物を投げるの、行儀悪くない?」
「命のほうが大事です」
「正論が強い」
「また、変身中は弱点も引き継ぎます」
「相手の気持ちっていうか、相手の弱点まで借りるの、重すぎる」
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
次の周回。コヨリは魔物まんじゅうを食べなかった。
ピヨラからも遠ざけた。手に持つ前に深呼吸した。ログルと一緒に、指差し確認もした。
「魔物まんじゅう、未識別」
「はい」
「投げる先、爆ぜ毛玉じゃない」
「はい」
「ピヨラの口に入らない距離」
「はい」
「わたしの口にも入らない」
「非常に大事です」
コヨリはまんじゅうを小石のように投げた。草食スライムに当たると、まんじゅうはぷるんと震え、薄い緑色に変わった。
【識別:草食スライムまんじゅう】
食べると、少しの間だけ体が弾力を持つ。ただし、跳ねすぎると罠を踏む。
「便利だけど事故るやつ」
「ローグライクらしい性能です」
「褒め言葉みたいに言わないで」
コヨリは半分だけ食べた。体がぷるんと弾む。倍速ウサギの攻撃を一度だけ受け流す。だが調子に乗って跳ねる前に、壁に手をついた。
「跳ねない。跳ねない。わたしは今、スライムではなく勇者」
「よい自己暗示です」
「魔物使い、精神管理が忙しい」
【新規獲得:魔物まんじゅう識別 Lv.1】
【新規獲得:変身先確認 Lv.1】
【新規獲得:弱点も引き継ぐ Lv.1】
【今回の死亡ログ】
死亡時レベル:Lv5
死亡時HP:0/34
今回の死因:【まねっこキノコに変身し、ピヨラの火花で焼かれた】
評価:【相手の気持ちを知る前に弱点を知りましょう】
死亡回数:48回
【今回の勇者ステータス】
現在シード:シード041
クラス:魔物使い候補
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済みスキル】
【未識別警戒 Lv.3】
【食材識別 Lv.2】
【魔法安全確認 Lv.1】
【ピヨラ記録 Lv.1】
【おとも位置確認 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【魔物まんじゅう識別 Lv.1】
新規獲得:【変身先確認 Lv.1】
新規獲得:【弱点も引き継ぐ Lv.1】
新規獲得:【誤飲警戒 Lv.1】
統合候補:【魔物まんじゅう識別】【変身先確認】【弱点も引き継ぐ】→【変身事故警戒 Lv.1】
【登場人物紹介】
魔物まんじゅう:食べると魔物の性質を借りる。未識別で食べるとだいたい事故る。
まねっこキノコ:声まねできるキノコ。火に弱い。ログルの声まねは精神に刺さる。
ピヨラ:キノコになったコヨリを認識できず、火花で焼いてしまった。本人に悪気はない。
【ローグライクあるあるメモ】
変身アイテムやモンスター肉系は、強力な能力を得られる一方で、姿・弱点・操作感まで変わる事故要素です。戻るタイミング、弱点、仲間との相性を確認しないと、強化のつもりが死因になります。今回は「未識別変身+弱点引き継ぎ」の回でした。
少しでも楽しんでいただけたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります。コヨリの次の事故も、たぶん学びになります!




