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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第7章 魔物使いシードとドラゴン幼体

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ピヨラ、火がこわい

ドラゴン幼体ピヨラ登場。

火を吹けるかもしれない。

本人は火がこわい。


 焼けた草の匂いがした。


 火事というほどではない。草むらの先が、ほんの少し黒く焦げているだけだ。けれど、焦げ跡のまわりには、小さな足跡がいくつも残っていた。丸い足跡。ふらふらした尻尾の跡。転んだような羽の跡。


 コヨリはしゃがみこんだ。


「ドラゴン?」

「幼体反応です。かなり小さいです」

「小さいドラゴン」

「勇者様、顔がゆるんでいます」

「ゆるんでない」

「口元が戻っていません」

「戻し方を忘れた」


 茂みがかさりと揺れた。


 出てきたのは、小さなドラゴンだった。翼は体に対して大きすぎて、片方だけ地面に引きずっている。角はまだ丸く、尻尾も自分のものなのに持て余していた。目は涙でいっぱいだ。


「ピヨ......火、こわい......」


 コヨリは、その場で固まった。


「ドラゴンが」

「はい」

「火を」

「はい」

「怖がってる」

「はい」

「担当者、呼んで」


 空から、やけに明るい声が降ってきた。


「個性だよ!」

「神様、便利な言葉で逃げないで」

「火を怖がるドラゴン、かわいいでしょ?」

「かわいいけど! かわいいけど、本人が泣いてるでしょ!」


 ピヨラはくしゃみをした。小さな火花が鼻先でぱちんと散る。本人がそれに驚き、翼で顔を隠した。


「ピヨ、こわい。火、こわい」

「大丈夫、大丈夫。火、消すから」


 コヨリはこども杖を握った。前に覚えた【霜ふり床】なら、火花を消せる。属性迷宮では床が滑って大変だったが、今回は草むらだ。少し冷やすだけならいける。


 ログルの耳がぴくっと動いた。


「勇者様」

「なに」

「床の傾斜を確認してください」

「傾斜?」

「少し下っています」

「ほんの少しじゃん」

「ほんの少しで死ぬ世界です」

「それは知ってるけど!」


 ピヨラがまた火花を出した。泣きそうな目でコヨリを見る。


 コヨリは杖を振った。


霜ふり床(しもふりゆか)!」


 白い冷気が草の上を走った。火花は消えた。そこまではよかった。


 次の瞬間、草の上に薄い氷が張った。


 ピヨラの足が滑る。


「ピヨ!?」


 コヨリの足も滑る。


「はい事故の匂い!」


 肩のりコウモリが驚いて飛び、倍速ウサギがその影に反応して走り、草食スライムが慌てて跳ねた。全部が一手ずつ動く。コヨリが杖を振った一手に、世界がまとめて返事をした。


 ピヨラが滑りながらコヨリにしがみつく。翼が顔に当たる。尻尾が鍋のふたに絡む。かわいい。重い。前が見えない。


「ログル!」

「左に落とし穴です」

「見えない!」

「右に草食スライムです」

「どっちもいや!」


 コヨリは足を踏ん張ろうとした。だが、氷の床は踏ん張りを拒否した。善意を拒否した。物理が冷たかった。


 ピヨラごと、落とし穴へ落ちた。


【死因:ピヨラを助けようとして霜ふり床で一緒に滑った】

【評価:善意にも摩擦係数が必要です】

【死亡回数:45 → 46】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 ネムは、今回の死因ログを読み上げてから、少しだけ声をやわらげた。


「ピヨラさんは無事です」

「そこだけはよかった」

「ただし、次シードでは覚えていません」

「......うん」


 コヨリは受付の床に座りこんだ。


 ピヨラは泣き虫だった。火を怖がっていた。コヨリのことも、次に会ったら覚えていないかもしれない。


 でも、コヨリは覚えている。


 ログルが、隣に座った。


「記録しますか」

「する」

「名前は」

「ピヨラ。火がこわいドラゴン」

「はい」


 ログルの宝石に、小さな光が浮かんだ。


【記憶因子:微弱反応】


「今の、なに?」

「未確定です。帰還因子の一部に似ています」

「帰るための?」

「たぶん、記憶に関係するものです」

「......忘れないことも、帰る材料になるの?」

「可能性はあります」


 コヨリは、白い床に指で書いた。


【ピヨラ】

【火がこわい】

【でも、助けたい】


 それから立ち上がり、真顔で天井を見た。


「神様」

「な、なにかな?」

「火を怖がるドラゴンを作るなら、滑らない床もセットでください」

「そこ?」

「そこです。命の床です」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 次の周回。コヨリは、すぐには魔法を使わなかった。


 ピヨラが火花を出して泣いても、まず足元を見た。傾斜。草。石。逃げ道。背後の落とし穴。


「ログル、冷やす場所は?」

「ピヨラさんの足元ではなく、火花が落ちた先だけです」

「ピンポイント」

「はい」

「できる?」

「勇者様なら、たぶん」

「たぶんを言うなあ。こわいから」


 コヨリは息を吸い、杖を低く構えた。


「小さく。ちょっとだけ。床じゃなくて、火花」


 冷気が細く走る。火花だけが白く消えた。ピヨラは驚き、涙目のままコヨリを見上げた。


「ピヨ......こわくない?」

「こわいよ」

「ピヨ?」

「わたしも毎回こわい。でも、今は一緒にこわがろ」


 ピヨラは、そっとコヨリの袖をくわえた。


【新規獲得:ピヨラ記録 Lv.1】

【新規獲得:善意の前に足元確認 Lv.1】


 ログルは、その光を静かに記録した。


【今回の死亡ログ】

死亡時レベル:Lv3

死亡時HP:0/24

今回の死因:【ピヨラを助けようとして霜ふり床で一緒に滑った】

評価:【善意にも摩擦係数が必要です】

死亡回数:46回


【今回の勇者ステータス】

現在シード:シード041

クラス:魔物使い候補

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】

【足元確認 Lv.3】

【罠感知 Lv.3】

【魔法安全確認 Lv.1】

【霜ふり床 Lv.1】

【魔物なでなで Lv.1】

【ふれあい距離管理 候補】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【ピヨラ記録 Lv.1】

新規獲得:【善意の前に足元確認 Lv.1】

帰還伏線:【記憶因子:微弱反応】


【登場人物紹介】

ピヨラ:火がこわいドラゴン幼体。自分の火花で泣く。かわいいが、翼と尻尾の当たり判定は広い。

アドミニス:火を怖がるドラゴンを「個性」で済ませようとした主神。床の安全性は考えていない。

ログル:ピヨラの記録と記憶因子の反応を静かに保存した。


【ローグライクあるあるメモ】

救助や回復行動でも、床・罠・地形を確認しないと事故ります。氷床、滑る床、落とし穴、味方の位置が重なると、善意の一手がそのまま死因になることも。今回は「助けようとして自分も巻き込まれる」タイプのあるあるです。


コヨリとピヨラを見守っていただける方は、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!

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