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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第7章 魔物使いシードとドラゴン幼体

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なでなでは攻撃コマンドではありません

魔物使い候補になったコヨリ。

最初のスキルは、なでなで。

ただし、なでる向きと距離を間違えると死にます。


 拠点の反省会テーブルに、魔物のぬいぐるみが三体並んでいた。


 草食スライム。肩のりコウモリ。ふわふわの白い毛玉。


 コヨリは最後の毛玉を指さした。


「これ、かわいい」

「はい」

「でも、このぬいぐるみだけ妙に硬い」

「内部に小型の安全爆発機構があります」

「ぬいぐるみに安全爆発って単語を入れないで」


 ログルは真面目に、毛玉ぬいぐるみを横向きにした。


「今回、魔物使い候補として最初に覚える可能性が高いのは【魔物なでなで】です」

「名前だけなら平和」

「ただし、相手の習性、機嫌、向き、距離、爆発範囲を読む必要があります」

「なでなでの説明に爆発範囲を入れるな」

「入ります」


 コヨリは椅子に座ったまま、じっと天井を見た。


「魔物使いって、魔物を仲間にする職だよね」

「はい」

「魔物と仲良くする職だよね」

「はい」

「なでるだけで死ぬの、職業訓練としておかしくない?」

「神様の調整です」

「はい有罪」


 作戦ボードの肉球が点滅する。再突入の時間だった。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 村の奥にある牧草地で、コヨリは魔物たちを観察していた。


 草食スライムには近づきすぎない。肩のりコウモリには上から手を出さない。倍速ウサギには背中を見せない。前回の死を活かしている。えらい。自分で自分をほめたい。


 その時、草むらの向こうで「もふ」と小さな声がした。


 白い毛玉がいた。


 丸い。小さい。ふわふわ。足は見えない。目は黒豆みたいで、こちらを見ているだけでちょっと嬉しくなる。


 コヨリは真顔になった。


「ログル」

「はい」

「名前は」

「爆ぜ毛玉です」

「名前が犯行予告」


 爆ぜ毛玉は、もふ、と鳴いて一歩近づいた。


 コヨリは一歩下がる。


 爆ぜ毛玉も一歩近づく。


「追ってくる」

「好意反応です」

「好意の圧が強い」

「静電気反応も上昇しています」

「恋と静電気は似てるって聞いたことない」


 コヨリはさらに一歩下がり、柵に背中をぶつけた。


「逃げ場なし」

「なでなでで敵意を下げる手があります」

「真正面から?」

「おすすめしません」

「じゃあ、横から?」

「はい。右側に半歩ずれてから、首の下です」

「半歩ってなに。マス目世界で半歩ってなに」

「気持ちです」


 爆ぜ毛玉が頬を赤くする。ふくらむ。ふわふわが、ふわっ、ふわっ、と危険な速度で膨張している。


 コヨリは焦った。


「待って待って、かわいいのに導火線が早い!」


 右へずれる前に、手を出した。


 なでた。


 真正面から。


 爆ぜ毛玉は、照れた。


「もふ」


 ぱん。


 かわいい音だった。威力はかわいくなかった。


【死因:爆ぜ毛玉を真正面からなでて爆ぜられた】

【評価:かわいいにも導火線があります】

【死亡回数:44 → 45】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 死神ネムの受付机に、コヨリは両手をそっと置いた。


「質問です」

「はい」

「かわいい魔物に爆発機能をつけた担当者は誰ですか」

「豊穣神メリメルさんと戦神バルガさんの共同実装ですね」

「最悪の共同開発」

「毛並み担当と難易度担当です」

「会議室で隣に座らせちゃいけない二人!」


 ネムは死因図鑑に、爆ぜ毛玉の小さなスタンプを押した。押した瞬間、スタンプが小さくぱんと鳴った。


 コヨリは無言で一歩下がった。


「学習が早いですね」

「笑っていいのか怒っていいのかわからない」


 拠点酒場では、リュシアが白くて丸いパンを皿に載せて待っていた。


「ちび勇者ちゃん、爆ぜ毛玉パンよ」

 コヨリは皿を見た。

 パンを見た。

 リュシアを見た。

 無言で皿をログルの後ろに押しやった。


「食べても爆ぜないわよ」

「その説明が必要なパン、もう怖い」

「中はクリーム」

「爆発しない?」

「しない」

「静電気は?」

「ない」

「担当者は?」

「料理担当あたし」

「じゃあ食べる」


 コヨリは小さくかじった。甘かった。悔しい。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 次の周回では、コヨリは爆ぜ毛玉の正面に立たなかった。


 右へ一歩。柵の影。爆ぜ毛玉のふくらみ方を見る。手を出す前に、ログルの宝石を見る。赤くない。だが黄色く点滅している。


「黄色は?」

「注意です」

「赤じゃないからヨシ!」

「その言い方は危険です」

「指差し確認。爆ぜ毛玉、右側よし。退路よし。爆発範囲、たぶんよし」

「たぶんを消してください」

「爆発範囲、ログル確認よし」

「はい」


 コヨリは横から、そっとなでた。


 爆ぜ毛玉は、もふ、と小さく鳴いた。ふくらむ。だが、すぐしぼむ。静電気がぱちっと草を揺らしただけで終わる。


 コヨリは息を止めていたことに気づいた。


【新規獲得:魔物なでなで Lv.1】

【新規獲得:なでる向き確認 Lv.1】


「ログル」

「はい」

「なでなでって、こんなに緊張するもの?」

「通常は違います」

「だよね」


 爆ぜ毛玉が、もう一度なでてほしそうに近づいてくる。


 コヨリは営業スマイルを作った。


「本日のふれあい受付は終了しました」

「勇者様、上手です」

「命がかかってる接客、上達したくなかった」


【今回の死亡ログ】

死亡時レベル:Lv2

死亡時HP:0/19

今回の死因:【爆ぜ毛玉を真正面からなでて爆ぜられた】

評価:【かわいいにも導火線があります】

死亡回数:45回


【今回の勇者ステータス】

現在シード:シード041

クラス:魔物使い候補

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】

【危険察知 Lv.3】

【足元確認 Lv.3】

【罠感知 Lv.3】

【未識別警戒 Lv.3】

【一歩下がろう Lv.1】

【魔物距離感 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【魔物なでなで Lv.1】

新規獲得:【爆ぜ毛玉警戒 Lv.1】

新規獲得:【なでる向き確認 Lv.1】

統合候補:【接触ダメージ警戒】【なでる向き確認】→【ふれあい距離管理 Lv.1】


【登場人物紹介】

爆ぜ毛玉:かわいい。ふわふわ。嬉しくなると爆ぜる。担当者は反省してほしい。

リュシア:死亡後に爆ぜ毛玉パンを出す酒神。保護者だが、たまに遊び心が強い。

ネム:死因分類が淡々としているので、余計につらい受付担当。


【ローグライクあるあるメモ】

敵の能力名や見た目には、事故のヒントがあることが多いです。「爆ぜ」「眠り」「混乱」「倍速」などの名前を甘く見ると、だいたい死因になります。今回は、能力名を見たのに真正面から触ってしまう、見えている危険を踏む系のあるあるでした。


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