なでなでは攻撃コマンドではありません
魔物使い候補になったコヨリ。
最初のスキルは、なでなで。
ただし、なでる向きと距離を間違えると死にます。
拠点の反省会テーブルに、魔物のぬいぐるみが三体並んでいた。
草食スライム。肩のりコウモリ。ふわふわの白い毛玉。
コヨリは最後の毛玉を指さした。
「これ、かわいい」
「はい」
「でも、このぬいぐるみだけ妙に硬い」
「内部に小型の安全爆発機構があります」
「ぬいぐるみに安全爆発って単語を入れないで」
ログルは真面目に、毛玉ぬいぐるみを横向きにした。
「今回、魔物使い候補として最初に覚える可能性が高いのは【魔物なでなで】です」
「名前だけなら平和」
「ただし、相手の習性、機嫌、向き、距離、爆発範囲を読む必要があります」
「なでなでの説明に爆発範囲を入れるな」
「入ります」
コヨリは椅子に座ったまま、じっと天井を見た。
「魔物使いって、魔物を仲間にする職だよね」
「はい」
「魔物と仲良くする職だよね」
「はい」
「なでるだけで死ぬの、職業訓練としておかしくない?」
「神様の調整です」
「はい有罪」
作戦ボードの肉球が点滅する。再突入の時間だった。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
村の奥にある牧草地で、コヨリは魔物たちを観察していた。
草食スライムには近づきすぎない。肩のりコウモリには上から手を出さない。倍速ウサギには背中を見せない。前回の死を活かしている。えらい。自分で自分をほめたい。
その時、草むらの向こうで「もふ」と小さな声がした。
白い毛玉がいた。
丸い。小さい。ふわふわ。足は見えない。目は黒豆みたいで、こちらを見ているだけでちょっと嬉しくなる。
コヨリは真顔になった。
「ログル」
「はい」
「名前は」
「爆ぜ毛玉です」
「名前が犯行予告」
爆ぜ毛玉は、もふ、と鳴いて一歩近づいた。
コヨリは一歩下がる。
爆ぜ毛玉も一歩近づく。
「追ってくる」
「好意反応です」
「好意の圧が強い」
「静電気反応も上昇しています」
「恋と静電気は似てるって聞いたことない」
コヨリはさらに一歩下がり、柵に背中をぶつけた。
「逃げ場なし」
「なでなでで敵意を下げる手があります」
「真正面から?」
「おすすめしません」
「じゃあ、横から?」
「はい。右側に半歩ずれてから、首の下です」
「半歩ってなに。マス目世界で半歩ってなに」
「気持ちです」
爆ぜ毛玉が頬を赤くする。ふくらむ。ふわふわが、ふわっ、ふわっ、と危険な速度で膨張している。
コヨリは焦った。
「待って待って、かわいいのに導火線が早い!」
右へずれる前に、手を出した。
なでた。
真正面から。
爆ぜ毛玉は、照れた。
「もふ」
ぱん。
かわいい音だった。威力はかわいくなかった。
【死因:爆ぜ毛玉を真正面からなでて爆ぜられた】
【評価:かわいいにも導火線があります】
【死亡回数:44 → 45】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
死神ネムの受付机に、コヨリは両手をそっと置いた。
「質問です」
「はい」
「かわいい魔物に爆発機能をつけた担当者は誰ですか」
「豊穣神メリメルさんと戦神バルガさんの共同実装ですね」
「最悪の共同開発」
「毛並み担当と難易度担当です」
「会議室で隣に座らせちゃいけない二人!」
ネムは死因図鑑に、爆ぜ毛玉の小さなスタンプを押した。押した瞬間、スタンプが小さくぱんと鳴った。
コヨリは無言で一歩下がった。
「学習が早いですね」
「笑っていいのか怒っていいのかわからない」
拠点酒場では、リュシアが白くて丸いパンを皿に載せて待っていた。
「ちび勇者ちゃん、爆ぜ毛玉パンよ」
コヨリは皿を見た。
パンを見た。
リュシアを見た。
無言で皿をログルの後ろに押しやった。
「食べても爆ぜないわよ」
「その説明が必要なパン、もう怖い」
「中はクリーム」
「爆発しない?」
「しない」
「静電気は?」
「ない」
「担当者は?」
「料理担当あたし」
「じゃあ食べる」
コヨリは小さくかじった。甘かった。悔しい。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
次の周回では、コヨリは爆ぜ毛玉の正面に立たなかった。
右へ一歩。柵の影。爆ぜ毛玉のふくらみ方を見る。手を出す前に、ログルの宝石を見る。赤くない。だが黄色く点滅している。
「黄色は?」
「注意です」
「赤じゃないからヨシ!」
「その言い方は危険です」
「指差し確認。爆ぜ毛玉、右側よし。退路よし。爆発範囲、たぶんよし」
「たぶんを消してください」
「爆発範囲、ログル確認よし」
「はい」
コヨリは横から、そっとなでた。
爆ぜ毛玉は、もふ、と小さく鳴いた。ふくらむ。だが、すぐしぼむ。静電気がぱちっと草を揺らしただけで終わる。
コヨリは息を止めていたことに気づいた。
【新規獲得:魔物なでなで Lv.1】
【新規獲得:なでる向き確認 Lv.1】
「ログル」
「はい」
「なでなでって、こんなに緊張するもの?」
「通常は違います」
「だよね」
爆ぜ毛玉が、もう一度なでてほしそうに近づいてくる。
コヨリは営業スマイルを作った。
「本日のふれあい受付は終了しました」
「勇者様、上手です」
「命がかかってる接客、上達したくなかった」
【今回の死亡ログ】
死亡時レベル:Lv2
死亡時HP:0/19
今回の死因:【爆ぜ毛玉を真正面からなでて爆ぜられた】
評価:【かわいいにも導火線があります】
死亡回数:45回
【今回の勇者ステータス】
現在シード:シード041
クラス:魔物使い候補
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済みスキル】
【危険察知 Lv.3】
【足元確認 Lv.3】
【罠感知 Lv.3】
【未識別警戒 Lv.3】
【一歩下がろう Lv.1】
【魔物距離感 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【魔物なでなで Lv.1】
新規獲得:【爆ぜ毛玉警戒 Lv.1】
新規獲得:【なでる向き確認 Lv.1】
統合候補:【接触ダメージ警戒】【なでる向き確認】→【ふれあい距離管理 Lv.1】
【登場人物紹介】
爆ぜ毛玉:かわいい。ふわふわ。嬉しくなると爆ぜる。担当者は反省してほしい。
リュシア:死亡後に爆ぜ毛玉パンを出す酒神。保護者だが、たまに遊び心が強い。
ネム:死因分類が淡々としているので、余計につらい受付担当。
【ローグライクあるあるメモ】
敵の能力名や見た目には、事故のヒントがあることが多いです。「爆ぜ」「眠り」「混乱」「倍速」などの名前を甘く見ると、だいたい死因になります。今回は、能力名を見たのに真正面から触ってしまう、見えている危険を踏む系のあるあるでした。
続きが気になると思っていただけたら、ブックマーク登録や評価、コメント、レビューで応援していただけると嬉しいです!




