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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第7章 魔物使いシードとドラゴン幼体

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魔物が友好的な世界は、安全とは言っていない

射線の谷を越えたコヨリ。

次の世界は、魔物がやけに人懐っこい。

なお、人懐っこさと安全性は別ステータスです。


 拠点の作戦ボードに、ぷにっとした肉球の印が浮かんだ。


 赤い射線でも、罠の黒線でも、属性迷宮の嫌な虹色でもない。薄い桃色の肉球だ。見ているだけなら、今までで一番かわいい。


 だからこそ、コヨリは一歩下がった。


「ログル」

「はい」

「これ、信用していい肉球?」

「肉球に善悪の判定はありません」

「じゃあ、神様の罠?」

「その可能性は高いです」

「肉球を疑う幼女、もうだいぶ末期じゃない?」


 ログルは否定しなかった。否定してほしかった。


 ボードの横には、今回の候補クラスが薄く表示されている。


【クラス適性:魔物使い(まものつかい)候補】


「魔物使い」

「はい。魔物の敵意を読み、距離を取り、時には一時的に同行させる職です」

「いいじゃん! かわいい魔物と仲良くできるやつ!」

「ただし」

「出た。ただし。異世界で一番こわい接続詞」

「敵意が低いことと、接触ダメージがないことは別です」

「仲良しでも殴られるの?」

「大型犬が全力で喜んで飛びつくと、幼女は倒れます」

「例えが急に生活感ある!」


 コヨリはため息をつき、短弓、小石袋改、こども杖、鍋のふたを確認した。前回増えた射線訓練場のおかげで、矢の向きと壁の位置を見る癖はついている。だが、肉球マークは射線より読みづらい。


「今回は、何で死なないようにする?」

「近づきすぎないことです」

「それ、友達作りとしてどうなの」

「生存重視です」


 白い床がほどけ、コヨリの足元に草の匂いが戻ってきた。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 初期村ミルカは、今まで見たどのミルカよりものんびりしていた。


 村の入口では、草色のスライムが水桶を押している。肩に乗るほど小さなコウモリが、洗濯物の端をくわえて飛んでいる。畑のそばでは、ふわふわした毛玉の魔物が、子どもたちと一緒に転がっていた。


 コヨリは村道の真ん中で固まった。


「ログル。村が平和」

「はい」

「平和なの、こわい」

「勇者様の警戒心が順調に育っています」

「育ちたくなかった」


 背後から、どん、と大きな桶が置かれる音がした。


「腹が減ってちゃ、魔物にも好かれないよ。ほら、食べな」


 振り向くと、そこにはミーナがいた。


 パン屋ではない。今回は腰に革手袋を吊るし、肩には魔物用のブラシをかけている。村の魔物飼育係らしい。だけど、顔は同じだった。食べ物を差し出す手つきも、同じだった。


 コヨリは、受け取った丸パンを見つめる。


「......また、違うミーナさんだ」

「ん? あたしに会ったことあるのかい?」

「あるような、ないような」

「変な子だねえ。まあ、食べな。泣くなら食べてからにしな」

「そこは、同じなんだ」


 ログルが、コヨリの足元で静かに尻尾を丸めた。


「記録しますか」

「うん。あとで」


 コヨリはパンをかじった。温かい。前の世界のミーナは覚えていない。今のミーナも、次の世界では違うかもしれない。それでも、パンはちゃんと甘かった。


 その横を、草食スライムがぷるんと通る。


「かわいい」

「勇者様、近づきすぎないでください」

「わかってる。今回は接客でいく」


 コヨリはしゃがみこみ、両手を膝にそろえた。できるだけ丁寧に、営業スマイルを作る。


「こんにちは。勇者コヨリです。本日はご機嫌いかがでしょうか、スライム様」

「なぜ接客口調に?」

「初対面の魔物には礼儀がいるでしょ」

「礼儀より距離です」


 草食スライムは、ぷるぷる震えた。うれしそうだった。敵意はない。ログルの宝石も赤く光っていない。


 コヨリは一歩近づく。


 草食スライムも一歩近づく。


 世界が、かちりと鳴った。一手一動。コヨリが一手進めば、相手も一手動く。


「よし、まだ安全」

「勇者様、接触範囲です」

「ちょっと手を伸ばすだけ」


 コヨリが手を出した瞬間、スライムは大喜びで跳ねた。


 ぼよん。


 やわらかい衝撃が体に当たる。かわいい音のくせに、威力は丸太だった。コヨリは後ろへ吹っ飛び、木の幹に背中を打ちつけた。


【HP:15 → 3】


「......友好度と質量は別パラメータ」

「はい」

「今、かなり学んだ」

「下がってください」


 コヨリは下がろうとした。だが、背中は木に当たっている。逃げ道がない。


 草食スライムが、もう一度うれしそうに跳ねた。


「ログル」

「はい」

「これ、なつかれてる?」

「はい」

「助けて」

「一手、足りません」


 ぼよん。


 画面が白くなった。


【死因:友好的な草食スライムに喜ばれて圧死した】

【評価:好意にも質量があります】

【死亡回数:43 → 44】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 死神ネムは、死因ログを見て少しだけまばたきをした。


「敵意なしですね」

「じゃあ事故じゃん!」

「はい。友好的事故です」

「そんな保険会社みたいな分類やめて」


 ネムは事務用の判子を押した。ぽん、という軽い音がした。


「新しい死因欄に入れておきます」

「入れなくていい!」

「好意による接触ダメージ」

「分類名がつらい!」


 拠点に戻ると、ログルは床にコヨリとスライムの駒を置いた。コヨリの駒の後ろには木の模型。


「ここで後ろを確認していれば、生存率が上がりました」

「スライム相手に退路確認する勇者、どうなの」

「生き残る勇者です」

「正論で押してくるなあ」


 コヨリは拠点の壁に、新しい看板を貼った。


【魔物はかわいい】

【でも距離を取れ】

【あと質量を見ろ】


 ログルは三行目を見て、うなずいた。


「大事です」

「かわいいに殺されるとは思わなかった」

「次は、かわいいから一歩下がりましょう」

「前回の反省、ここでも使うのやめて」

【今回の死亡ログ】

死亡時レベル:Lv1

死亡時HP:0/15

今回の死因:【友好的な草食スライムに喜ばれて圧死した】

評価:【好意にも質量があります】

死亡回数:44回


【今回の勇者ステータス】

現在シード:シード041

クラス:魔物使い候補

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】

【危険察知 Lv.3】

【足元確認 Lv.3】

【罠感知 Lv.3】

【未識別警戒 Lv.3】

【射線確認 Lv.3】

【一歩下がろう Lv.1】

【投擲前確認 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【魔物距離感 Lv.1】

新規獲得:【接触ダメージ警戒 Lv.1】

新規獲得:【なでる前に観察 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ:友好的なスライムに営業スマイルで接近し、友好的に死んだ幼女勇者。

ログル:今回は「かわいいより距離」と主張する解析神獣。だいたい正しい。

ミーナ:今回のシードでは魔物飼育係。どの世界でも、だいたい食べ物をくれる。


【ローグライクあるあるメモ】

敵意がない、または中立っぽい存在でも、接触や位置取りを間違えると普通に事故ります。仲間候補・友好NPC・召喚獣でも、通路や移動ルールを読み違えると死因になります。今回は「かわいい=安全ではない」回でした。


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