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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第6章 射線の谷と弓使いクラス

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遠矢の見張り塔と座標の欠片

射線の谷、決着です。

死因ログ、矢、罠、魔法、遠投確認を全部使います。

遠くを見るために、まず自分の立ち位置を見ます。

 成功周回という言葉を、わたしはあまり信用していない。


 成功しそうな時ほど、だいたい変な死因が生えるからだ。

 でも、今回のわたしは少し違った。


「遠投の腕輪、装備なし」

「確認しました」

「手に持っているの、小石」

「確認しました」

「杖は振るもの」

「はい」

「爆ぜ岩は一歩下がる」

「はい」

「モンスターハウスで気持ちよくならない」

「とても大事です」


 指差し確認を終え、わたしは谷へ入った。


 序盤で無理をしない。木の矢で削る。鉄の矢は硬い敵用に残す。銀の矢は、奥まで見える時だけ使う。遠投の腕輪は装備しっぱなしにしない。使う時だけつけて、使ったら外す。


 地味だ。


 すごく地味だ。


 でも、地味な確認で、わたしは死ななかった。


 爆ぜ岩は一歩下がって撃つ。経験値喰らいは眠り玉で止めてから処理する。モンスターハウスでは銀の矢を撃つ前に、奥の黒い敵を見る。


【レベルアップ】

コヨリはLv7になった。


【レベルアップ】

コヨリはLv8になった。


【レベルアップ】

コヨリはLv9になった。


 HPに余裕がある。満腹度も、拠点厨房で作ったスープ小瓶のおかげで持っている。


「ログル。強くなった?」

「このシード内では」

「死んだら?」

「Lv1、HP15です」

「神様ァ! ここだけ何回聞いてもつらい!」


 ログルは笑わなかった。


「でも、死因ログは残ります」

「うん」

「今回、勇者様は確認で生きています」

「確認、強い?」

「かなり」


 強い武器より、確認。


 勇者らしさはないけれど、生きている。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 谷の最奥に、塔が立っていた。


 石造りの古い見張り塔だ。けれど、ただの建物ではない。塔の壁に開いた矢穴が、わたしの動きに合わせて、ゆっくり向きを変えた。


 まるで、目だ。


 風が塔の穴を抜けるたび、笛のような音が鳴る。岩肌の影が細く伸び、その影の中に赤い射線が浮かび上がった。


「ログル」

「はい」

「あれ、塔じゃないよね」

「塔型の敵です」

「建物まで敵になるの!?」

「この谷では、立っているものはだいたい撃ってきます」

「立つなって言ったくせに、塔は立ってるじゃん! ずるい!」


【敵性解析】

【遠矢の見張り塔】

【射線連動型/罠塔/遠距離攻撃特化】

【直線射線:木の矢】

【連続射線:鉄の矢】

【損傷後:銀の貫通矢】


「銀の矢まで撃ってくるの!?」

「はい」

「それ、わたしのネタ!」

「敵も使います」

「著作権!」


 正面から近づけば撃たれる。左右の岩陰を使えば近づけるが、途中にモンスターハウス誘導床がある。塔の足元には、座標石らしい反応がある。


 座標。


 その言葉だけで、胸が少し熱くなった。


 帰るには、名前、縁、扉、そして座標がいる。まだ全部は分からない。でも、場所を示す何かが、あの塔の下にある。


「ログル。あれ、持って帰れる?」

「生きて塔を止められれば」

「じゃあ止める」


 わたしは矢をつがえなかった。


 まず、見た。


 塔の矢穴。岩陰。罠床。敵の位置。自分のHP。満腹度。手持ちの小石。鉄の矢。銀の矢。霜ふり床の魔法。スープ小瓶。遠投の腕輪。


 足元のマス目が、青く光った。


「右へ二マス。次に小石です」

「遠投?」

「装備してから、投げるのは小石」

「投げるのは小石!」

「投げたら外す」

「外す!」


 遠投の腕輪をつける。小石を投げる。小石は谷を越え、遠くの古いスイッチに当たった。岩壁から石の板がせり出し、塔の正面射線が一瞬ふさがる。


「外す!」


 腕輪を外す。


 自分で自分をほめたい。


 盾コボルトが迫る。鉄の矢で倒す。矢ガラスが上から来る。霜ふり床を使う。氷で滑った矢ガラスが、モンスターハウス誘導床を踏みそうになったので、慌てて木の矢で止める。


「敵に踏ませるのもだめ?」

「今踏ませると、勇者様も囲まれます」

「罠利用、むずかしい!」


 塔が二度目の射線を合わせた。


 鉄の矢が飛ぶ。


 わたしは一歩下がる。矢は目の前の岩に刺さる。岩が少し割れた。


「あれ、支柱?」

「はい。塔の制御核まで、支柱が一直線です」

「銀の矢?」

「ただし、先頭に爆ぜ岩王がいます」

「一歩下がる!」


 わたしは下がった。さらにもう一歩、岩陰へ寄る。


 爆ぜ岩王に銀の矢を撃つと、爆発する。けれど、今回は爆風の外だ。銀の矢は爆ぜ岩王を貫き、支柱を削り、塔の内側の制御核へ届いた。


 塔が大きく揺れる。


 けれど、まだ止まらない。


 損傷した塔の矢穴が、銀色に光った。


「貫通矢が来ます」

「岩陰、だめ?」

「貫通します」

「ずるい!」


 HPは3。スープ小瓶は一本。弓を撃てば倒せるかもしれない。でも撃てば、その一手で塔も撃つ。


 撃つか。

 撃たないか。


 わたしは、矢を下ろした。


「撃たない」

「右へ一歩です」

「右、罠ある」

「王都で見た転び罠です。塔の矢で起動できます」

「じゃあ、踏ませる!」


 右へ一歩。


 塔の銀矢が飛ぶ。わたしを貫くはずだった矢は、罠床の石板をかすめた。転び罠が跳ね上がり、塔の足元の支柱を横から叩く。


 支柱が傾く。


 今度こそ、射線が通った。


「今!」


 わたしは銀の矢を放った。

 矢は、支柱、制御核、その奥の青い石をまっすぐ貫いた。


 塔の矢穴から光が消える。

 風の音が、ただの風に戻った。


【クラス解放】

【弓使い】


【拠点施設解放】

【射線訓練場】


【拠点登録】

【短弓】

【小石袋改】


 塔の足元から、小さな石が転がった。


 透明な石の中に、点と線が浮かんでいる。地図ではない。けれど、どこかを示している。


【帰還因子候補】

【座標の欠片:初期反応】


 わたしはそれを拾って、両手で包んだ。


「ログル。これ、場所?」

「座標に近い反応です」

「帰るのにいるやつ?」

「可能性はあります」

「じゃあ、持って帰る」

「はい。今回は、生きて持ち帰りましょう」


 塔の上に、見張りの少年が立っていた。カイに似た顔で、こちらを見ている。彼はわたしを知らない。それでも、小さく手を上げた。


 わたしも手を振った。

 覚えているのは、わたしだけかもしれない。


 でも、この石は残る。拠点に持ち帰れば、消えない。

 帰るための線が、ほんの少しだけ見えた気がした。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 拠点に戻ると、アドミニスの声が明るく響いた。


「いやあ、遠隔職もいい感じに育ってきたね!」


 わたしは座標の欠片を抱えたまま、天井へ叫んだ。


「神様ァ! 育ったのはわたしじゃなくて死因ログだああああああああああああ!」


 ログルが、珍しくすぐ否定しなかった。


「でも、勇者様」

「なに」

「成功ログも増えました」


 その言葉だけで、ちょっと泣きそうになった。


【今回のクリアログ】

クリア時レベル:Lv10

クリア時HP:11/61

クリア時満腹度:31

持ち帰り成功:【座標の欠片】【短弓】【小石袋改】

ロスト:【白銀の帰還ピン】

拠点登録:【短弓】【小石袋改】【座標の欠片 仮登録】

解放施設:【射線訓練場】

獲得因子:【帰還因子候補:座標の欠片 初期反応】


【今回の勇者ステータス】

現在シード:シード052

死亡回数:43回

クラス:弓使い 解放

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】

【恐怖耐性 Lv.1】

【危険察知 Lv.3】

【足元確認 Lv.3】

【罠感知 Lv.3】

【未識別警戒 Lv.3】

【魔法安全確認 Lv.1】

【属性識別 Lv.1】

【盤面確認 Lv.1】

【射線確認 Lv.3】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【弓使い基礎 Lv.1】

新規獲得:【遠隔戦術 Lv.1】

新規獲得:【間合い管理 Lv.1】

新規獲得:【投擲前確認 Lv.1】

新規獲得:【貫通事故警戒 Lv.1】

統合:【射線確認】【弾数管理】【貫通先確認】→【遠隔戦術 Lv.1】

統合:【近接拒否】【壁ぎわ逃げ】【撃たない判断】【一歩下がろう】→【間合い管理 Lv.1】

統合:【遠投警戒】【遠投の腕輪装備確認】【指差し確認】【投げる前に持ち物を見る】【杖は振るもの】→【投擲前確認 Lv.1】

統合:【爆ぜ岩警戒】【貫通先確認】【爆風範囲確認】→【貫通事故警戒 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ:弓使いクラスを解放。遠くを見るために、自分の立ち位置を見ることを覚えた。

ログル:成功ログを増やしたかった相棒。今回はちゃんと増えた。

アリア:砦の補給係。短弓と谷の基礎を教えてくれた。

カイに似た少年:谷の見張り役。同じ顔、違う人生の伏線。

遠矢の見張り塔:塔型の射線ボス。建物なのに撃ってくる。ずるい。


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