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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第6章 射線の谷と弓使いクラス

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HP1、となり、撃たない勇気

弓使いだから撃つ。

......とは限りません。

今回は、撃たないことを覚えます。


 わたしは、拠点の床に寝転がっていた。


 見上げる天井には、ログルが投影した射線図が浮かんでいる。赤い線、青い逃げ道、黄色い危険予測。最近の拠点は、だんだん作戦室みたいになってきた。


「ログル」

「はい」

「弓使いって、もっと楽しい職だと思ってた」

「楽しい場面もあります」

「だいたい死んでる」

「学習効率は高いです」

「命を教材にしないで!」


 床の端に、アリアさんがくれた古い短弓が置いてある。隣には、木の矢、鉄の矢、銀の矢。それから、わたしが泣きながら書いた標語。


【一歩下がろう】

【撃つ前に隣を見る】

【遠投の腕輪は外す】


 標語が増えるたびに、わたしの死に方も増えている。


「でも、次は行ける気がする」

「勇者様」

「なに」

「その言葉を言った時は、まず足元を見てください」

「信用がない!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 谷の中盤には、反射岩地帯があった。


 岩の表面が黒く光っている。風が吹くたびに、岩肌に刺さった古い矢羽がかさかさ揺れた。普通の岩なら矢を止める。けれど、この岩は角度によって矢をはじく。


 アリアさんは、砦の上からわたしに言った。


「反射を使えば、曲がり角の敵も撃てるよ」

「便利!」

「自分に返ってくることもあるよ」

「便利の後ろに死因つけないで!」


 見張り台の横には、少年が立っていた。


 カイに似ていた。


 初めての村で木剣をくれた、あの少年と同じ顔。同じようにまっすぐな目をしている。けれど、今回は弓を持ち、わたしのことを知らない顔で見ていた。


「近づかれたら、撃つより逃げろ」

「弓兵なのに?」

「弓兵だから」


 短い言葉だった。


 胸の奥が、少しだけ変な感じになった。


 覚えているのは、わたしだけだ。たぶん、ログルも記録としては知っている。でも、目の前のカイは知らない。


 わたしは笑ってごまかした。


「逃げるのは得意!」

「得意と言えるほど成功率は高くありません」

「ログル、今いい感じだったのに!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 反射岩の前で、盾コボルトが通路をふさいだ。


 正面から撃つと盾に弾かれる。横の黒岩に鉄の矢を当てれば、反射して背中へ当たる。そういう盤面だ。


「ログル。これ、いける?」

「角度が合えば」

「角度!」

「勇者様、ほんの少し右です」

「ほんの少しがむずかしい!」


 わたしは右へ一歩。射線は通った。鉄の矢を放つ。


 かん、と岩に当たった音がした。


 矢は予想より浅く跳ねた。盾コボルトではなく、わたしの鍋のふたに当たった。


「ひゃっ!」


 転んだ。


 起き上がるのに一手。盾コボルトが近づく。さらに横から倍速ヤマネコが飛び込んできた。


 HP1。


 目の前に敵。手には木の矢。


「撃つより下がってください」

「でも、となり!」

「だから下がります」

「撃てば倒せるかも!」

「外した後を考えてください」

「考えたら泣く!」


 わたしは撃った。


 木の矢は、倍速ヤマネコのひげを揺らしただけだった。


 敵ターン。


【死亡ログ】

【死因:反射矢で自分を転ばせ、HP1で木の矢を外した】

【評価:曲芸は練習してから】

【死亡回数:41 → 42】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 すぐ再挑戦した。


 今度はうまく進めた。反射岩は使わない。使うなら先に角度を確認する。見えている罠は踏まない。遠投の腕輪は外してある。


 それでも、谷は優しくない。


 弓コボルトが二マス先にいた。HP1。手には銀の矢。敵は倒せる。


 けれど、横の通路から倍速ヤマネコが来ていた。


「勇者様、隣を見てください」

「弓コボルトが撃ってくる!」

「倒しても、ヤマネコが来ます」

「でも倒さないと撃たれる!」

「逃げ道は右です」

「右、罠っぽい!」

「王都で見た転び罠です。敵に踏ませられます」


 分かっていた。


 でも、目の前の弓コボルトが弓を引く動きに、わたしの手が先に動いた。


 銀の矢が当たる。


 弓コボルトは倒れた。


 けれど、わたしの一手で倍速ヤマネコが二回動いた。


 隣接。攻撃。


【死亡ログ】

【死因:遠くの敵を倒して、となりの敵に倒された】

【評価:射線より近所づきあいを見ましょう】

【死亡回数:42 → 43】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 拠点で、わたしは木の矢をにぎって泣いた。


「当てたのに死んだ!」

「当てても、次の敵ターンは来ます」

「弓使い、むずかしい!」

「はい」

「剣士の時より考えること多い!」

「遠くを見るぶん、近くを忘れやすいです」


 ログルは、床に駒を置いた。


 前に弓コボルト。横に倍速ヤマネコ。右に転び罠。後ろに岩陰。


「撃つと死にます」

「弓使いなのに?」

「撃つと死にます」

「じゃあ、どうするの」

「撃たない」


 撃たない。


 その言葉は、弓を持っているわたしには、ちょっと変に聞こえた。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 同じ盤面が、もう一度来た。


 HP1。前に弓コボルト。横から倍速ヤマネコ。右に転び罠。手には銀の矢。


 撃てば、前の敵は倒せる。


 でも、となりの敵に倒される。


 足元にマス目が浮かぶ。世界が止まる。息が浅くなる。ログルの宝石が青と赤で道を示した。


「撃たない」


 わたしは矢を下ろした。


 右へ一歩。


 転び罠の横ぎりぎりに立つ。倍速ヤマネコが二回動く。勢いよく突っ込む。罠を踏む。


 ころん、と転んだ。


「今!」


 鉄の矢を撃つ。


 命中。


 レベルアップの光が、わたしの体を包んだ。


【レベルアップ】

コヨリはLv5になった。

HPが少し回復した。


 弓コボルトの矢が飛ぶ前に、わたしは岩陰へ下がった。


 生きている。


「ログル」

「はい」

「撃たないの、えらい?」

「とても」

「もっとほめて」

「死亡ログではなく、成功ログです」

「それ、いちばんうれしいやつ!」


 わたしは弓を握り直した。

 撃つために、撃たない。

 遠くを倒すために、まず隣を見る。


 ちょっとだけ、弓使いが分かった気がした。



【今回の死亡ログ】

死亡時レベル:Lv5

死亡時HP:0/35

死亡時満腹度:62

今回の死因:【遠くの敵を倒して、となりの敵に倒された】

評価:【射線より近所づきあいを見ましょう】

新規獲得:【反射矢警戒 Lv.1】【撃たない判断 Lv.1】【撃つ前に隣を見る Lv.1】


【今回の勇者ステータス】

現在シード:シード052

死亡回数:43回

クラス:弓使い候補

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】

【恐怖耐性 Lv.1】

【危険察知 Lv.3】

【罠感知 Lv.3】

【未識別警戒 Lv.3】

【射線確認 Lv.3】

【弾数管理 Lv.1】

【一歩下がろう Lv.1】

【遠投警戒 Lv.1】

【モンスターハウス警戒 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【反射矢警戒 Lv.1】

新規獲得:【撃たない判断 Lv.1】

新規獲得:【撃つ前に隣を見る Lv.1】

更新:【近接拒否 Lv.1】→【近接拒否 Lv.2】

統合候補:【近接拒否】【壁ぎわ逃げ】【撃たない判断】【一歩下がろう】→【間合い管理 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ:弓を持ちながら撃たない勇気を覚えた。なお覚えるまで二回死んだ。

ログル:となりを見ろと言い続けた相棒。成功ログを増やしたかった。

アリア:砦の補給係。遠隔職ほど逃げろという現場派。

カイに似た少年:谷の見張り役。どこかで見た顔だが、今はまだ深く触れない。


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