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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第6章 射線の谷と弓使いクラス

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モンスターハウスで気持ちよくなってはいけない

銀の矢、再び。

今度は気持ちよく一掃します。

ただし、敵も育ちます。

 拠点の死因図鑑室に、太い文字が増えた。


【遠投の腕輪は外す】

【レアアイテムはしまう】

【杖は振る】

【一歩下がろう】


 わたしはその前で正座していた。


「勇者様、復唱を」

「遠投の腕輪は外す。レアアイテムはしまう。杖は振る。一歩下がろう」

「よろしいです」

「これ、勇者の訓練じゃなくて事故防止講習だよね」

「死亡率は下がります」

「勇者らしさは?」

「後で拾います」


 ログルが冷静すぎる。


 でも、今回は本当に反省した。レアアイテムを飛ばすのは心に来る。帰るための手がかりっぽいものを自分で投げた瞬間の「あ」は、しばらく夢に出そうだった。


「ログル。今度こそ、持ち帰る」

「はい。生きて持ち帰りましょう」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 谷の奥へ進むと、空気が急に湿った。


 細い通路の先に、大きな洞穴がある。入口の床だけ、他の石より少し沈んでいた。壁には爪の跡があり、床には小さな足跡がいくつも重なっている。


 わたしは足を止めた。


「ログル」

「はい」

「これ、踏むとだめな床?」

「かなりだめそうです」

「じゃあ踏まない」


 そう言って一歩下がろうとした。


 背後から矢ガラスが飛んできた。


「きゃっ!」


 避けた足が、沈んだ床に乗った。


 かちり。


 洞穴の奥で、無数の目が開いた。


「ログル」

「はい」

「これ、なに?」

「モンスターハウスです」

「家って言うな! 住人の歓迎が怖いいいいいいいい!」


 部屋いっぱいに敵がいる。


 山ネズミ。谷スライム。矢ガラス。弓コボルト。盾コボルト。経験値虫。奥には、黒い体の経験値喰らいがいた。


 入口はすでに敵でふさがれている。逃げ道はない。


 HPは21。レベルは3。手持ちは木の矢三本、鉄の矢二本、銀の矢三本。眠り玉ひとつ。スープ小瓶ひとつ。


 足元にマス目が浮かぶ。敵の動きがゆっくりになる。


「会議!」

「右奥から左手前まで、射線が通っています」

「銀の矢?」

「はい。貫通します。ただし、奥に経験値喰らいがいます」

「倒せばいい?」

「倒しきれなければ、周囲の経験値を吸います」

「名前からして嫌!」


 敵がじりじり迫る。


 銀の矢を撃てば、前列をまとめて倒せる。レベルが上がれば、HPも回復する。ここで撃たなければ囲まれる。


「ログル」

「はい」

「撃つ」

「奥まで見てください」

「見た。嫌だった。でも撃つ!」


 銀の矢を放った。


 矢は山ネズミを抜き、谷スライムを抜き、矢ガラスを抜き、弓コボルトを抜いた。


【レベルアップ】

コヨリはLv4になった。

HPが少し回復した。


【レベルアップ】

コヨリはLv5になった。

最大HPが上がった。


【レベルアップ】

コヨリはLv6になった。

HPが少し回復した。


 気持ちいい。


 すごく、気持ちいい。


「見た!? ログル、見た!? 今のわたし、完全に弓使い!」

「勇者様、奥の敵が」

「レベル上がった! HPも増えた! これは勝ち!」

「それを人は慢心と呼びます」


 経験値喰らいが、倒れた敵の光を吸った。


 黒い体が、ぶくりと膨らむ。


【敵レベルアップ】

経験値喰らいは経験値喰らい上位種になった。


 上位種の背後にいた黒弓兵が、その光をさらに吸う。


【敵レベルアップ】

黒弓兵は深層狙撃鬼Lv18になった。


【敵レベルアップ】

深層狙撃鬼は谷底処刑弓Lv24になった。


「敵も上がるの!?」

「はい」

「わたしだけでいいじゃん!」

「世界は公平に性格が悪いです」


 谷底処刑弓が弓を引いた。


 わたしはLv6。HPもさっきよりある。少し強くなった。だから、一歩前に出て鉄の矢で倒そうとした。


 その一歩で、射線が通った。


 谷底処刑弓の矢が、わたしの胸へまっすぐ飛んだ。


 レベルが上がっても、射線に立てば死ぬ。

 その当たり前を、矢が教えてくれた。


【死亡ログ】

【死因:モンスターハウスで敵も育てた】

【評価:大量レベルアップは楽しいですが、敵にも適用されます】

【死亡回数:40 → 41】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 拠点に戻って、わたしは壁に書いた。


【レベルアップは罠】


 ログルが前足で、そっと横線を引いた。


「そこまでではありません」

「でも死んだ」

「正確には、レベルアップ後に慢心して射線へ立ったため死亡しました」

「長い!」

「短くすると、調子に乗った死です」

「それもつらい!」


 死神ネムも同じことを言った。


「今回は調子に乗った死です」

「受付まで同じ評価しないで!」

「常連様ですので、傾向が分かります」

「常連扱いやめてえええええ!」


 わたしは床に、モンスターハウスの配置を駒で並べた。敵が多い。赤い駒がぎっしりだ。奥に黒い駒を置くと、ログルがそれを指した。


「次は、この黒い駒を先に止めます」

「経験値喰らい」

「はい。銀の矢で気持ちよくなる前に、敵が育つか確認してください」

「気持ちよくなる前に確認......」

「大事です」


 わたしは、床にもう一つ書いた。


【モンスターハウスで気持ちよくなってはいけない】


 勇者の標語ではない。


 でも、命の標語ではある。

【今回の死亡ログ】

死亡時レベル:Lv6

死亡時HP:0/39

死亡時満腹度:68

今回の死因:【モンスターハウスで敵も育てた】

評価:【大量レベルアップは楽しいですが、敵にも適用されます】

新規獲得:【モンスターハウス警戒 Lv.1】【敵レベルアップ警戒 Lv.1】【貫通先確認 Lv.1】


【今回の勇者ステータス】

現在シード:シード052

死亡回数:41回

クラス:弓使い候補

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】

【恐怖耐性 Lv.1】

【危険察知 Lv.3】

【罠感知 Lv.3】

【未識別警戒 Lv.3】

【射線確認 Lv.2】

【弾数管理 Lv.1】

【一歩下がろう Lv.1】

【遠投警戒 Lv.1】

【指差し確認 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【モンスターハウス警戒 Lv.1】

新規獲得:【敵レベルアップ警戒 Lv.1】

新規獲得:【貫通先確認 Lv.1】

更新候補:【射線確認 Lv.2】→【射線確認 Lv.3】


【登場人物紹介】

コヨリ:大量レベルアップで気持ちよくなった。直後に敵も育って死んだ。

ログル:奥の敵を見ろと言っていた。気持ちよさには勝てなかった。

経験値喰らい:倒れた敵の経験値を吸う嫌な敵。名前の時点で警戒対象。

谷底処刑弓:育った結果、浅い階層にいてはいけない火力になった弓敵。


コヨリのローグライク死に覚えを楽しんでいただけたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!

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