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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第6章 射線の谷と弓使いクラス

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遠投の腕輪は、装備したまま杖を投げてはいけない

便利アイテムほど、外し忘れると怖い。

遠投の腕輪と場所替えの杖。

ローグライク的には、やってはいけない組み合わせです。


 拠点の反省会テーブルに、わたしは五つの確認項目を書いた。


【一歩下がった?】

【手に持っている物、合ってる?】

【腕輪、装備してる?】

【それ、投げる物?】

【杖は振るもの】


「ログル。これで完璧」

「完璧という言葉は、勇者様の死亡率を上げる傾向があります」

「じゃあ、そこそこ完璧」

「不安です」


 今回は谷の中腹まで進めるようになった。射線はまだ怖い。矢はまだ外れる。爆ぜ岩は二度と隣で撃たない。たぶん。


「たぶんは?」

「死因です」

「自分で言って悲しい!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 谷の途中に、小さな横穴があった。


 湿った土の匂いがする。奥で水が落ちる音がして、壁には古い矢傷が残っていた。わたしが横穴の入口で足を止めると、ログルの宝石が黄色く光った。


「宝箱反応があります」

「ミミック?」

「呼吸はしていません」

「宝箱の呼吸確認が日常になってるの、嫌だなあ」


 箱を開けると、銀色の小さなピンが入っていた。花の形をした、きれいな留め具だ。触れると、拠点の壁に書いた【帰る】の文字が、胸の奥で少しだけ温かくなる。


【白銀の帰還ピン】

【座標石に反応する補助具】

【リセット外登録候補】


「レア!」

「はい。大事にしてください」

「投げない。絶対投げない。こんな大事なの投げるわけないじゃん」

「念のため、しまい瓶へ」

「その前にちょっと見たい」


 わたしは白銀の帰還ピンを手に持ったまま、横穴を出た。


 その時、岩陰から弓コボルトが顔を出した。


「敵!」

「小石を」

「分かってる!」


 わたしは小石を投げたつもりだった。


 手から離れたのは、白銀の帰還ピンだった。


 しかも、わたしの手首には、さっき拾って試し装備した腕輪が光っていた。


【遠投の腕輪】


 遠投の腕輪は、こういう時だけ仕事が早い。


 白銀の帰還ピンは弓コボルトの頭上を越え、谷を越え、向こうの崖を越え、雲の下へ消えていった。


「あ」


 しばらく、風の音だけがした。


「ログル」

「はい」

「今の、戻ってくる?」

「名前は帰還ですが、投げた物を帰還させる効果ではありません」

「名前詐欺ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 弓コボルトの矢が飛んできた。鍋のふたでぎりぎり受ける。心のほうは受けられない。


「レアアイテムが! わたしの帰還っぽいやつが!」

「生きていれば、次のレアを拾えます」

「今のレアがよかったあああああ!」


 泣きながら逃げた先で、今度は本当に打開アイテムを拾った。


【場所替えの杖】

【残り回数:三】


 敵と自分の位置を入れ替える杖。通路の敵をどかす。階段前の敵と入れ替わる。詰み盤面をひっくり返す。


 見た瞬間、ログルが真顔になった。


「勇者様。これは振る杖です」

「うん」

「投げる物ではありません」

「うん」

「今、腕輪は?」

「遠投」

「外してください」

「はい!」


 わたしは腕輪を外そうとした。


 その瞬間、崖上から矢が飛んだ。


「ひゃっ!」


 手がすべった。


 場所替えの杖が、わたしの手から飛んだ。


「投げましたね」

「投げちゃった!」


 杖は遠投の腕輪でまっすぐ飛び、先頭の谷スライムに当たった。


【場所替え発動】


 わたしと谷スライムの位置が入れ替わる。


「えっ」


 杖は止まらない。遠投の効果で、その後ろの矢ガラスにも当たる。


【場所替え発動】


 わたしと矢ガラスの位置が入れ替わる。


「えっ、えっ」


 さらに後ろの弓コボルト。


【場所替え発動】


 崖上へ。


「待って待って待って!」


 さらに奥の盾コボルト。


【場所替え発動】


 谷底へ。


 さらにその奥、黒い影。


【場所替え発動】


 知らない扉の前へ。


 杖が扉の向こうにいた何かに当たった。


【場所替え発動】


 次の瞬間、わたしは部屋の真ん中に立っていた。


 空気が濃い。


 周囲にいる敵が、浅い階層の顔をしていない。


 深層狙撃鬼。谷底処刑弓。爆ぜ岩王。倍速ヤマネコ改。経験値喰らい上位種。あと、見たことないけど絶対に嫌な目をしている壺割り小僧。


「ログル」

「はい」

「ここ、なに?」

「特殊モンスターハウスです」

「深層っぽい敵しかいないんだけど」

「はい」

「わたし、今Lv3なんだけど」

「はい」

「これ、わたしが悪い?」

「かなり」

「はい」


 敵ターンが来た。


 まず倍速ヤマネコ改が二回動いた。


 その後のことは、あまり見たくなかった。


【死亡ログ】

【死因:遠投の腕輪を装備したまま場所替えの杖を投げ、深層特殊モンスターハウスへ連続場所替えされた】

【評価:杖は振るものです】

【ロスト:場所替えの杖/白銀の帰還ピン/銀の矢束】

【死亡回数:39 → 40】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 死神ネムは、死亡ログを読んでから少しだけ黙った。


「今回の死因、長いですね」

「短くして」

「遠投場所替え事故」

「それでもつらい!」

「ロスト欄もあります」

「読まないで!」

「場所替えの杖、白銀の帰還ピン、銀の矢束」

「うわああああああああああああ! レアアイテム返してえええええええ!」


 拠点に戻ったわたしは、床に新しい確認項目を書き足した。


【指差し確認】

【遠投の腕輪、外した?】

【杖は振るもの】

【手に持っているの、本当に小石?】


 リュシアが酒場側からのぞき込んで、からから笑った。


「ちび勇者ちゃん、工場みたいになってきたね」

「もう声出し確認する! 遠投の腕輪、装備よし! ......じゃない! 外せえええええ!」


 ログルが、そっと場所替えの杖の絵を死因図鑑に描いた。


「次は、投げる前に見ましょう」

「うん」

「腕輪も見ましょう」

「うん」

「レアアイテムは、拾ったらしまいましょう」

「うん......」


 白銀の帰還ピンが飛んでいった空を思い出す。


 帰るためのものを、わたしは自分の手で投げた。


 ギャグみたいな死に方なのに、少しだけ胸が痛かった。


「ログル」

「はい」

「次に帰れそうなもの拾ったら、すぐしまう」

「はい。ぼくも確認します」



【今回の死亡ログ】

死亡時レベル:Lv3

死亡時HP:0/24

死亡時満腹度:74

今回の死因:【遠投の腕輪を装備したまま場所替えの杖を投げ、深層特殊モンスターハウスへ連続場所替えされた】

評価:【杖は振るものです】

ロスト:【場所替えの杖】【白銀の帰還ピン】【銀の矢束】

新規獲得:【遠投警戒 Lv.1】【遠投の腕輪装備確認 Lv.1】【指差し確認 Lv.1】【投げる前に持ち物を見る Lv.1】【杖は振るもの Lv.1】


【今回の勇者ステータス】

現在シード:シード052

死亡回数:40回

クラス:弓使い候補

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】

【恐怖耐性 Lv.1】

【危険察知 Lv.3】

【足元確認 Lv.3】

【罠感知 Lv.3】

【未識別警戒 Lv.3】

【射線確認 Lv.2】

【弾数管理 Lv.1】

【矢種確認 Lv.1】

【一歩下がろう Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【遠投警戒 Lv.1】

新規獲得:【遠投の腕輪装備確認 Lv.1】

新規獲得:【指差し確認 Lv.1】

新規獲得:【投げる前に持ち物を見る Lv.1】

新規獲得:【杖は振るもの Lv.1】

統合候補:【遠投警戒】【遠投の腕輪装備確認】【指差し確認】【投げる前に持ち物を見る】【杖は振るもの】→【投擲前確認 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ:レアアイテムと杖を投げた。遠投の腕輪に人生を振り回された幼女勇者。

ログル:ずっと外せと言っていた。言ったが、矢が飛んできた。

リュシア:拠点酒場のお姉さん神。指差し確認を見て楽しそうだった。

ネム:長い死因ログを短くしてくれた。短くしてもつらい。


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