木の矢、鉄の矢、銀の矢
矢には種類があります。
木、鉄、銀。素材が変われば死に方も変わります。
当てても死ぬ。それが射線の谷です。
拠点の床には、赤い線が増えた。
一本目は、前回わたしが踏んで死んだ射線。二本目は、ログルが予測した崖上からの射線。三本目は、わたしが「たぶん安全」と言って、ログルに「たぶんは死因です」と返された線。
床が、だんだん不吉なあみだくじみたいになっている。
「ログル。これ、全部覚えるの?」
「全部覚える必要はありません」
「よかった」
「踏む前に見ればいいです」
「もっとむずかしい!」
作戦机の上に、三種類の矢が置かれた。
木の矢。軽い。たくさん拾える。威力は低め。
鉄の矢。重い。強い。外すと心も重い。
銀の矢。貫通する。後ろまで抜ける。後ろに何がいるか知らないと地獄。
「銀、強そう!」
「その感想がもう危ないです」
「だって銀だよ? 高そうだよ?」
「値段と安全性は一致しません」
「異世界、そういうところ現実的!」
ログルは木の矢を一本くわえて、わたしの前に置いた。
「まずは木の矢からです」
「軽い。幼女向け」
「軽率向けではありません」
「言い方!」
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
再び矢鳴り谷。
今回は入口で死ななかった。岩陰から岩陰へ移動し、足元のマス目と、崖上の影を交互に見る。ログルの宝石が赤く光ったら止まる。青く光ったら進む。
少しだけ、分かってきた。
「わたし、成長してる?」
「はい。前より死ににくい方向へ進んでいます」
「ほめ方が死因図鑑!」
最初に出てきたのは、山ネズミだった。
小さい。速い。かわいい顔で、こちらを噛む気満々だ。
わたしは木の矢をつがえる。距離は三マス。ここなら安全だ。
「撃ちます」
「はい」
木の矢は山ネズミに当たり、ぽこんと小さな音を立てた。倒れない。山ネズミは一マス近づく。
もう一本。外れた。山ネズミがまた近づく。
もう一本。かすった。山ネズミが、わたしの目の前に来た。
HPは1。
「ログル」
「下がってください」
「木の矢なら軽い! 軽いってことは当たる!」
「その理屈は、だいぶ軽いです」
「うるさい! いけえええ!」
木の矢は、山ネズミの耳の横をすんっと抜けた。
わたしの一手は終わった。
山ネズミの一手が来た。
ぽこん。
【死亡ログ】
【死因:HP1で木の矢を空振りした】
【評価:軽い命中率でした】
【死亡回数:36 → 37】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「木の矢、軽すぎた」
「判断が軽かったです」
拠点で反省して、すぐ再挑戦した。
次は鉄の矢だ。重いぶん強い。強いなら倒せる。倒せるなら生きる。
「わたし、今度こそ学んだ」
「その言い方は、死亡ログ上かなり危険です」
谷スライムが通路に出た。ぷるぷるしているが、近づくと体当たりしてくる。わたしは鉄の矢を構えた。
距離二マス。
撃つ。命中。谷スライムの体が大きくへこんだ。けれど倒れない。
スライムが一マス近づく。
HPは1。
「下がってください」
「鉄の矢ならいける!」
「重さで命中率は上がりません」
「でも気持ちは強い!」
「気持ちはダメージ計算に入りません」
わたしは鉄の矢を引いた。重い。腕がぷるぷるする。弦を離した瞬間、矢は半マスずれて壁に刺さった。
敵ターン。
谷スライムが、ぺちん。
【死亡ログ】
【死因:HP1で鉄の矢を空振りした】
【評価:重いのは矢ではなく判断ミス】
【死亡回数:37 → 38】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
死神ネムは、木のスタンプと鉄のスタンプを死因図鑑に押した。
「素材別死亡、二件目です」
「そろえるな!」
「次は銀ですか」
「予告しないで!」
でも次は銀だった。
谷の中腹で、通路に敵が一直線に並んでいた。
先頭に、丸くて赤い岩みたいな魔物。
その後ろに谷スライム。さらに矢ガラス。奥に弓コボルト。最後尾に経験値虫。
見た瞬間、わたしの目が光った。
「一直線!」
「勇者様、先頭の敵を見てください」
「銀の矢なら貫通!」
「先頭の敵が」
「後ろまで一網打尽!」
「勇者様」
「勝った!」
ログルの宝石が、今までで一番嫌な色で光った。
「先頭の敵、爆ぜ岩です」
「え?」
「ダメージを受けると爆発します」
聞こえた。
でも、銀の矢はもう放っていた。
矢は赤い岩魔物に刺さり、そのまま抜けた。谷スライムを抜き、矢ガラスを抜き、弓コボルトを抜き、奥の経験値虫まで射抜く。
【レベルアップ】
コヨリはLv4になった。
最大HPが少し上がった。
HPが少し回復した。
「やった! 一網打尽! 見た!? 今のわたし、弓使い!」
「勇者様」
「ほめて!」
「一歩下がっていれば、ほめました」
「え?」
赤い岩魔物に、ひびが入った。
ぱきん、と音がした。
わたしは、まだ隣接一マスに立っていた。
「待って」
「はい」
「これ、下がって撃つやつ?」
「はい」
「一歩?」
「一歩です」
「一歩下がればよかったうわあああああああああああん!」
爆風が、わたしを白く包んだ。
【死亡ログ】
【死因:銀の矢で爆ぜ岩を貫通し、隣接爆風に巻き込まれた】
【評価:一歩下がれば助かりました】
【死亡回数:38 → 39】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
拠点に戻ると、わたしは床に大きく書いた。
【一歩下がろう】
ログルがその横に、わたしの駒と爆ぜ岩の駒を置く。わたしの駒を一マス後ろにずらす。
「これで生存です」
「一マスゥ......」
「はい。一マスです」
「その一歩が命より重いいいいいいいい!」
ログルは少しだけ笑ったように見えた。
「次は、その一歩を使いましょう」
【今回の死亡ログ】
死亡時レベル:Lv4
死亡時HP:0/26
死亡時満腹度:83
今回の死因:【銀の矢で爆ぜ岩を貫通し、隣接爆風に巻き込まれた】
評価:【一歩下がれば助かりました】
新規獲得:【弾数管理 Lv.1】【矢種確認 Lv.1】【爆ぜ岩警戒 Lv.1】【一歩下がろう Lv.1】
【今回の勇者ステータス】
現在シード:シード052
死亡回数:39回
クラス:弓使い候補
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済みスキル】
【恐怖耐性 Lv.1】
【危険察知 Lv.3】
【足元確認 Lv.3】
【罠感知 Lv.3】
【未識別警戒 Lv.3】
【魔法安全確認 Lv.1】
【属性識別 Lv.1】
【盤面確認 Lv.1】
【射線確認 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【弾数管理 Lv.1】
新規獲得:【矢種確認 Lv.1】
新規獲得:【爆ぜ岩警戒 Lv.1】
新規獲得:【一歩下がろう Lv.1】
レベルアップ候補:【射線確認 Lv.1】→【射線確認 Lv.2】
【登場人物紹介】
コヨリ:木、鉄、銀で見事に死亡パターンを増やした幼女勇者。銀は当てたのに死んだ。
ログル:一歩下がれば助かる盤面を見ていた相棒。言ったが、矢のほうが早かった。
ネム:素材別死亡スタンプ係になりつつある死神。
爆ぜ岩:ダメージを受けると爆発する岩系モンスター。一歩下がれば教材、隣接すれば死因。
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