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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第6章 射線の谷と弓使いクラス

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まっすぐ立つと撃たれます

射線の谷、開幕です。

今回は、敵が見える前に撃たれます。

幼女に対する配慮、今回もありません。


 拠点(きょてん)の床に、赤い線が走った。


 最初は傷かと思った。けれど、線は一本では終わらなかった。白い床の上を、細い赤線が何本も伸びて、交差し、重なり、わたしの足元の少し先でぴたりと止まる。


 ログルの額の宝石が、じり、と嫌な色で光った。


「ログル。その赤いの、なに」

射線(しゃせん)です」

「しゃせん」

「まっすぐ立つと撃たれます」

「じゃあ立たない!」

「移動しないと進めません」

「神様ァ! 立っても歩いても殺すなああああああああああああああ!」


 作戦机の上には、いつもの木剣ではなく、小さな短弓が置かれていた。子供用に見える。けれど、弦に触れた指先がぴりっとした。


【初期装備】

【短弓】

【木の矢:五本】

【小石袋】

【鍋のふた】


【クラス適性:弓使(ゆみつか)い候補】


「弓って、遠くから攻撃できるやつだよね」

「はい」

「つまり安全」

「勇者様がそう思った時点で、安全ではありません」

「なんでわたしの感想が死因になるの!?」


 ログルは短弓の横に前足を置いた。ふわふわの足なのに、妙に重そうに見える。


「遠くを攻撃するには、まず自分がどこに立っているかを見る必要があります」

「床なら見てる。王都の罠で、もう床とは仲良くなった」

「今回は、床だけでは足りません」

「増やすな。見る場所を増やすな」


 白い光が足元から広がった。転送の光だ。


「勇者様」

「なに」

「今回こそ、生きて戻りましょう」

「それ毎回言って」

「毎回、本気です」


 その言い方が少しだけやさしくて、わたしは短弓をぎゅっと握った。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 次に足がついた場所は、初期村ミルカの外れだった。


 村そのものは平和に見えた。パン屋の煙突から白い煙が上がっているし、井戸の横でおばさんが洗濯物を絞っている。道端のにわとりが、わたしの足元を横切って、ぴよ、と鳴いた。


 普通すぎる。


 だから信用できない。


「平和な村ほど、チュートリアル詐欺の匂いがする......」

「前より疑い深くなりましたね」

「死因ログのおかげです!」

「誇るところではありません」


 王都グランベルへ続く道は、村の北にある谷を抜けるらしい。村人は気軽に「谷を抜ければすぐだよ」と言った。すぐ、という言葉はだいたい罠だ。


 谷の入口には、小さな砦があった。砦というより、石を積んだ見張り小屋に近い。風が岩肌をなでるたび、ひゅう、と細い音が鳴る。その音に、かすかな金属音が混じっていた。


「止まってください」


 ログルが低く言った。


 わたしの右足は、まだ地面につく前だった。足元の砂が、風で少しだけ流れる。次の瞬間、すん、と乾いた音がして、わたしのつま先の前に矢が刺さった。


「ぎゃああああああああああ!」

「まだ当たっていません」

「当たってから叫んだら遅いでしょ!」


 砦の上から、女の人が顔を出した。


「あら。止まれたんだ。えらいね」


 その顔を見て、わたしは一瞬だけ固まった。


 アリアさんだ。


 前に見たギルド受付嬢と同じ顔。けれど今回は、肩に矢筒を下げ、革の胸当てをつけた補給係だった。わたしを見ても、知っている顔はしない。


「王都へ行くなら、矢鳴(やな)り谷を抜けるしかないよ。射線を踏むと撃たれるから、赤い石の横には立たないこと」

「説明が雑に怖い!」

「大丈夫。慣れれば足音で分かるから」

「慣れる前に死ぬやつ!」


 アリアさんは短弓の構え方を教えてくれた。肘を張りすぎない。引きすぎない。近づかれたら撃つより逃げる。


「弓なのに逃げるの?」

「弓だから逃げるの」


 かっこいい。けれど、幼女には難しい。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 谷へ入った瞬間、空気が変わった。


 岩肌に挟まれた道は、まっすぐではない。右へ曲がり、左へ折れ、途中で細くなっている。上を見ると、崖の縁に黒い影が動いた気がした。


 足元に青白いマス目が浮かぶ。


 一手一動ワンターン・ワンアクションの盤面だ。


「勇者様。次の一歩で、左上から射線が通ります」

「左上ってどこ!? 上に左とかある!?」

「あります。谷ですので」

「三次元を持ち込むなああああ!」


 わたしは岩陰にぴたりと背中をつけた。前に進むには、どうしても開けた場所を一マス通らなければならない。


 動かなければ敵も動かない。けれど、ずっと止まっていると満腹度が減る。


「ログル。ここ、考えてるだけでお腹減る?」

「長く考えすぎれば」

「神様ァ! 思考にカロリーを要求するなあああああああ!」


 わたしは短弓を握った。敵は見えない。けれど、撃つ場所は分からない。なら、走るしかない。


「いく!」

「待って、勇者様、まだ」


 わたしは一歩出た。


 世界が動いた。


 崖上の影が弓を引く。空気が裂ける音がする。矢が、わたしの胸の前へまっすぐ飛んでくる。


 避けようとした。けれど、わたしの一手はもう使った後だった。


 画面が、白く弾けた。


【死亡ログ】

【死因:射線を見ずに一歩出た】

【評価:初手から谷の教材になりました】

【死亡回数:35 → 36】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 死神ネムの受付で、わたしは机に突っ伏した。


「死亡受付番号、またコヨリさんですね」

「またって言わないで」

「今回は射線死亡、初回です」

「初回特典みたいに言うな!」


 ネムは眠そうな目で、死因図鑑に新しいページを差し込んだ。


「射線を踏むと撃たれる。分かりやすい死因ですね」

「分かりやすいなら事前に教えて!」

「ログルさんは止めていました」

「わたしの足が速かっただけ!」

「死ぬ方向に速かったですね」

「言い方ぁ!」


 拠点に戻ると、ログルが床に赤い線を一本引いた。わたしの人形を置き、その前に小さな矢を置く。


「ここに立つと死にます」

「わかりやすい」

「次は、ここに立たないでください」

「うん」

「そのうえで、進んでください」

「むずかしい!」


 わたしは床に座り込み、赤い線を見た。


 帰るためには、王都へ行かなければいけない。王都の先に、まだ見つけていない何かがある。帰還の手がかりは、いつも死にそうな場所の向こう側にある。


「ログル」

「はい」

「今回は、何で死なないようにする?」

「まずは、線を見ます」

「床だけじゃなくて?」

「壁も、角も、遠くも」


 見る場所が増えた。


 でも、帰るための場所も、きっとその先にある。


【今回の死亡ログ】

死亡時レベル:Lv1

死亡時HP:0/15

死亡時満腹度:96

今回の死因:【射線を見ずに一歩出た】

評価:【初手から谷の教材になりました】

新規獲得:【射線確認 Lv.1】【矢音警戒 Lv.1】


【今回の勇者ステータス】

現在シード:シード052

死亡回数:36回

クラス:弓使い候補

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済みスキル】

【恐怖耐性 Lv.1】

【危険察知 Lv.3】

【足元確認 Lv.3】

【罠感知 Lv.3】

【未識別警戒 Lv.3】

【食材識別 Lv.2】

【魔法安全確認 Lv.1】

【属性識別 Lv.1】

【盤面確認 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【射線確認 Lv.1】

新規獲得:【矢音警戒 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ:今回から弓使い候補。遠くを見る前に足元から撃たれた幼女勇者。

ログル:射線を見ていた。止めた。足は止まらなかった。

アリア:今回は砦の補給係。射線を踏まない理論をさらっと言うタイプ。

ネム:射線死亡を事務処理した死神。常連対応が板についてきた。


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