主神アドミニスを倒した! 0EXPを手に入れた!!
最終戦です。
主神は抵抗しません。
全員の一手で、ちゃんと負けてもらいます。
【ターン1】
アドミニスは止まっている。
コヨリは小さな拳を握り、白い神官服の胸をまっすぐ見た。
「勇者ちゃん、ごめんね」
「遅い」
【勇者コヨリの攻撃!】
【主神アドミニスに150のダメージ!】
【反省値が上昇した!】
「これは、説明なしで送り出した分!」
「うん」
【ターン2】
ログルが前に出た。体は小さい。けれど、額の宝石は今までで一番強く光っていた。
【ログルのサポート攻撃!】
「主神様は、間違っていました!」
【主神アドミニスに50のダメージ!】
【記録端末分類にひびが入った!】
「ぼくは、道具ではありません。コヨリ様の相棒です」
「......うん」
【ターン3】
黒い魔力が、拳の形を取った。ゼルドの影が、コヨリの背後に立つ。
【魔王ゼルドの攻撃!】
【主神アドミニスに120のダメージ!】
【ラスボス役割表が破損した!】
「余は魔王だ。だが、貴様の便利な終点ではない」
「そうだね」
【ターン4】
ベルの書類束が、白い光の中から現れた。
【ベルの正式抗議文!】
【主神アドミニスに80のダメージ!】
【追加効果:言い逃れ不可】
「受領印を」
「紙で殴った!?」
「書類は重いものです」
【ターン5】
ネムが死亡記録簿を開いた。紙の音だけで、アドミニスの肩が少し落ちる。
【死神ネムは死亡記録簿を開いた!】
【主神アドミニスに100のダメージ!】
【追加効果:反論不可】
「死亡処理は、事務です。でも、痛くないことにはなりません」
「......うん」
【ターン6】
床がぱかりと開き、ハコベエが顔を出した。
「いらっしゃいませ、噛みませんので。決算処理です」
【ハコベエは未払い請求書を吐き出した!】
【主神アドミニスに30のダメージ!】
【追加効果:持ち帰り枠圧迫】
「ラスボス戦でも持ち物欄を圧迫しないで!」
「請求は正当です」
【ターン7】
パンの匂いがした。木剣を握る小さな手の感触が、コヨリの掌に戻る。
「腹が減ってちゃ、勇者もできないよ」
「これ、使って。勇者なら、いるでしょ」
【ミーナの思い出ログ!】
【カイの思い出ログ!】
【主神アドミニスに90のダメージ!】
【消えたシードの記録が復元された!】
アドミニスは、目を伏せた。
【ターン8】
壁一面の死因カードが浮かぶ。黒狼。ミミック。毒草。落とし穴。爆ぜ岩。遠投。満腹度切れ。味方誤射。同行者枠。全部、一度ずつ痛かったものだ。
【死因ログ一斉照合!】
【主神アドミニスに300のダメージ!】
【追加効果:言い訳封印】
「初死亡おめでとう、って言ったよね」
「......言った」
「おめでたくない!」
「うん」
【ターン9】
コヨリは巻物を広げた。識別済み。効果は、主神にだけ効く。
【謝罪要求の巻物を読んだ!】
【部屋全体に謝罪要求が広がった!】
【主神アドミニスに70の精神ダメージ!】
「ごめんなさい」
「文書で」
「ごめんなさい、ベルにも文書で出します」
【ターン10】
記録召喚の光が、床を走る。
【ダイコンの根性斬り! 40ダメージ!】
【ルーメの効果不明魔法! 20ダメージ!】
【スリップは主神の言い訳を盗んだ! 60ダメージ!】
【ピヨラの小さな火の粉! 30ダメージ!】
アドミニスは、抵抗しなかった。
【最終ターン】
コヨリは、もう一度拳を握った。怒っている。泣きそうでもある。どちらも本当だ。
「これは、わたしの分!」
【勇者コヨリの攻撃!】
【主神アドミニスに999のダメージ!】
【主神アドミニスを倒した!】
【0EXPを手に入れた!!】
「経験値ゼロ!?」
「反省に経験値は発生しません」
「ラスボスなのに!?」
【ドロップ:主神アドミニスの謝罪文】
【ドロップ:帰還門本起動権限】
【ドロップ:ログル同行本承認】
【称号獲得:神様を殴った勇者】
【注記:主神アドミニスは死亡していません】
【注記:でも、ちゃんと負けました】
アドミニスは膝をついた。神様だから、傷はすぐ消える。けれど、顔は軽くなかった。
「助けてほしい」
「最初から、そう言って」
0EXPの文字が出たあと、しばらく誰も動かなかった。
コヨリは息を切らしている。実際には、神様相手のダメージは0に近い。それでも、小さな拳は熱かった。ログルの宝石も、ゼルドの影も、ベルの書類も、ネムの記録簿も、全部が淡く光っている。
「勇者ちゃん」
「なに」
「痛くは、ないんだ」
「知ってる」
「でも、痛かった気がする」
「それでいい」
アドミニスは、自分の胸に手を当てた。神様だから傷は残らない。けれど、ログには残った。
【主神アドミニス:敗北記録】
【敗因:説明不足】
【敗因:同意不備】
【敗因:死亡ログ軽視】
【敗因:ログル人格未承認】
【敗因:勇者を怒らせすぎた】
「最後の、雑じゃない?」
「かなり重要な敗因です」
ベルの抗議文に、受領印が押される。ゼルドの役割表は燃えずに、ただ白紙へ戻る。ネムの死亡記録簿から、コヨリの番号が一行だけ青く変わった。
【今回死亡なし】
その一行を見て、コヨリは笑った。やっと、ちゃんと笑えた。
「千百回死んで、最後は死ななかった」
「はい」
「ログル」
「はい」
「これ、成功ログだよね」
「はい。最大の成功ログです」
ドロップ欄に出た【ログル同行本承認】の文字が、ログルの宝石へ吸い込まれた。白かった宝石の奥に、虹色の線が戻る。神様側端末の冷たい光ではない。拠点で何度も見た、相棒の光だ。
【ログル分類:相棒】
【承認:本】
ログルは、その表示を見て固まった。コヨリは黙って待つ。急かさない。これはログルのターンだ。
「ぼくは」
「うん」
「もう、返却対象ではありません」
「うん」
「コヨリ様と、帰れます」
「うん」
ログルの声が震えた。コヨリは拳をほどいて、今度はログルを抱きしめる。荷物ではない。勝利報酬でもない。一緒に帰る相棒だ。
アドミニスは、その様子を黙って見ていた。謝罪文のドロップ表示が、彼の前でまだ点滅している。
「神様」
「うん」
「それ、ちゃんと書いて」
「はい」
ベルの書類が、また一枚増えた。
【今回の勇者ステータス】
現在シード:帰還最終シード
死亡回数:1100回
クラス:帰還者/勇者
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
獲得済み主要スキル:【一フレームの神様 Lv.3】【死亡ログ所有権確認 Lv.2】【ログ差し戻し Lv.3】【死亡ログ返還 Lv.1】【相棒再分類拒否 Lv.2】【神様に説明を求める Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【主神殴打 Lv.1】/獲得:【ログル同行本承認】/獲得:【帰還門本起動権限】/称号:【神様を殴った勇者】
【登場人物紹介】
コヨリ:理解したうえで殴る勇者。/ログル:主神に間違いを言える相棒。/ゼルド・ベル・ネム・ハコベエ・思い出ログ・記録召喚組:第一部のカタルシス担当。/アドミニス:0EXPラスボス。死なないが負けた。
【ローグライクあるある解説】
ターン制公開反省会バトル。経験値0、ドロップ謝罪文、反撃なしというログで、倒すが殺さない決着にする。
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