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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第30章 帰還最終シード――死んだら全部終わります

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99F、神様の最終問題

第99階層です。

敵はいません。

でも、ラスボスは待っています。

 九十九階には、敵がいなかった。

 床は白く、壁も白い。けれど、拠点の白とは違う。何もない白ではなく、全部を消したあとの白。足元には、今まで見たマス目が重なっている。黒狼の草原、未識別の床、油の属性床、罠王都の石畳、射線の谷、魔王城、思い出ログ棚。全部が薄い線になって、中央へ集まっていた。


 その中央に、アドミニスが立っている。

 白い神官服。軽そうな顔。いつもの笑い方をしようとして、失敗した顔。


「勇者ちゃん」

「なに」

「ここまで来たんだね」

「来たよ」


 コヨリは短剣を抜かない。ログルも宝石を光らせるだけで、解析ログを出さない。ここでは、たぶん全部分かっている。


「きみが帰ること自体が、保存なんだ」

「知ってる」

「拠点は、消えたシードの記録が集まった世界種。ログルは、それをきみの元世界側へ運ぶ鍵。帰還門は、逃げ道じゃない。滅びる世界の記録を、外へ逃がすための」

「知ってるってば」


 アドミニスは、そこで言葉を止めた。

 コヨリは一歩近づく。足元のマス目が、音もなく光る。行動すれば、世界は動く。けれど、アドミニスは動かない。


「世界を助けたかったのは、わかった」

「うん」

「滅びないシードを探してたのも、わかった」

「うん」

「わたしが帰ることが、みんなの記録をつなぐことになるのも、わかった」

「......うん」


 コヨリは拳を握った。


「でも、説明しなかったこと」

「うん」

「わたしを千回以上死なせたこと」

「うん」

「ログルを端末扱いしたこと」

「うん」

「魔王さんを便利なラスボスにしたこと」

「うん」

「ミーナさんやカイたちを、役割で消したこと」

「うん」

「それは、別」


 アドミニスは、ようやく笑うのをやめた。


「ごめんなさい」


 軽くない声だった。だからこそ、コヨリは泣きそうになった。泣きそうになって、それでも拳をほどかなかった。


「謝るの、遅い」

「うん」

「だから、みんなで殴る」

「うん」

「抵抗する?」

「しない」


 白いログが、静かに浮かぶ。


【最終敵性体:主神アドミニス】

【状態:抵抗しない】

【反撃:なし】

【経験値:0】

【特殊条件:全員の一手が終わるまで、主神は行動できない】


 ログルが、コヨリの横に立った。


「勇者様」

「なに」

「今のは、攻略ではなく決着です」

「うん」

「でも、ログは出ます」

「出して」


 アドミニスは膝をつかない。まだ。ちゃんと立っている。殴られるために、逃げずに立っている。


 コヨリは拳を上げた。


 アドミニスの足元には、経験値の光がなかった。倒しても強くならない相手。倒しても何かを奪うわけではない相手。だからこそ、ここで殴る意味は数字では測れない。


「神様」

「うん」

「わたし、世界を助けるのは嫌じゃない」

「うん」

「でも、助けてって言われたかった」

「うん」

「勇者だから、死んでいいわけじゃない」

「うん」

「子どもだから、説明しなくていいわけじゃない」

「......うん」


 ログルが、コヨリの横で小さく息を吸った。

「主神様。ぼくからも言います」

「うん」

「コヨリ様は、記録対象ではありません」


 アドミニスは、そこで初めてログルを見た。

「そうだね」


 その返事を聞いて、コヨリは少しだけ拳を下ろしかけた。けれど、下ろさない。謝ったから終わりではない。受け止めることと、なかったことにすることは違う。


「じゃあ、始める」

「うん」


 白い部屋の空気が、ターン制へ変わった。


 コヨリの拳が上がる前に、アドミニスは両手を下ろした。防御しない、というより、防御する資格がないと分かっている顔だった。


「僕は、きみが思っているより、たぶん臆病だった」

「神様なのに?」

「神様だから。滅びる世界を見続けて、どの選択も壊れて、誰かに助けてって言うのが怖かった」

「だから、わたしを黙って使った?」

「うん」

「最低」

「うん」


 コヨリは少しだけ目を伏せた。アドミニスの怖さを理解したからといって、殴る理由は減らない。むしろ、説明しなかった理由が臆病だったなら、なおさら一発必要だ。


「怖いなら、怖いって言えばよかった」

「うん」

「子どもにだって、それくらい分かる」

「......うん」


 ログ表示の【経験値:0】が、やけにまじめに光っている。コヨリはそれを見て、少しだけ口元を曲げた。


「経験値ないの、先に出てるの腹立つ」

「倒す前から報酬が渋いです」

「神様ァ、最後まで渋い!」


 アドミニスの謝罪は、白い部屋に吸い込まれず、ちゃんと残った。音として、空気として、コヨリの耳に残る。コヨリはそのことにも少し腹が立った。もっと早く聞きたかったからだ。


「神様」

「うん」

「謝罪が本物でも、殴るから」

「うん」

「本物じゃなかったら、もっと殴る」

「本物です」

「じゃあ、予定通り殴る」


 ログルが小さくうなずく。

「予定通り、という表現が少し怖いです」

「最終攻略だからね」

「はい。主神殴打ルート、開始します」

「ルート名にしないで!」


 それでも、コヨリは笑った。笑えるくらいには、もう怖さだけではなかった。

【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還最終シード

死亡回数:1100回

クラス:帰還者/勇者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【仕様書読解 Lv.1】【滅亡シード照合 Lv.1】【神様に説明を求める Lv.1】【帰還接続管理 Lv.2】【ログルと帰る Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

更新:【ログルと帰る Lv.1】本発現準備/戦闘条件:【主神アドミニス:抵抗しない】開示


【登場人物紹介】

コヨリ:理解したうえで許さず、決着を選ぶ。/ログル:攻略ではなく決着だと告げる。/アドミニス:抵抗しないラスボス。世界を救いたかったが、やり方を間違えた神様。


【ローグライクあるある解説】

99Fボス前回。敵を殺す戦闘ではなく、ターン制の公開反省会へ移行する。経験値0のラスボス!


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