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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第30章 帰還最終シード――死んだら全部終わります

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停止時計兵――時間停止を止め返せ

時間停止は味方の技ではありません。

敵が使うと最悪です。

止め返すのではなく、見えなくします。

 九十階の廊下には、時計がなかった。

 針もない。音もしない。それなのに、コヨリの胸の奥だけが、ちくたくと鳴る。ログルの宝石が、いつもより遅れて光った。


「ログル?」

「反応が、一瞬ずれています」

「少しでもずれるの、深層ではだいぶ嫌」

「かなり嫌です」


 廊下の奥に、鎧を着た兵士が立っている。片手に剣、片手に古い懐中時計。時計のふたが開いた瞬間、コヨリの視界から青いマス目が消えた。


【停止時計兵】

【能力:思考猶予削減】

【効果:相談可能時間を短縮】


「時間停止って、こっちが有利になるやつじゃないの!?」

「今回は敵が使います」

「神様ァ! 深層の敵にだけ高級スキル持たせるなあああああああああ!」


 叫んだ瞬間、時計兵が一歩近づいた。大声は行動判定。コヨリは口を両手で押さえた。


「今の、ターン使った?」

「はい」

「叫び損!」

「学習しました」


 時計兵の能力は、世界を完全に止めるものではない。コヨリの相談時間を削る。迷っている間に、候補が消えていく。ログルの表示も一秒遅れる。

 九十一階、時計兵が二体並んだ。視界に入った瞬間、相談時間がさらに短くなる。


「視界を切れば?」

「停止干渉は弱まります」

「壁」

「壁札は残りなし」

「砂けむり」

「自分も見えません」

「ログルは?」

「近距離なら照らせます」

「じゃあ、煙」


 一手。

 コヨリは砂けむりの巻物を読んだ。部屋中に茶色の煙が広がり、時計兵の懐中時計がかすむ。コヨリの視界も悪い。けれど、ログルの宝石だけが、足元三マスを淡く照らす。


「右、壁」

「左、罠」

「正面、時計兵」

「斜め前、安全」

「行く」


 一手。

 斜め前へずれる。時計兵の剣が、さっきまでコヨリのいた場所を切った。煙の向こうで時計が鳴る。だが、音はもう遠い。


 九十三階の出口で、時計兵の上位種が待っていた。停止時間そのものをぶつけてくる敵。コヨリは剣を見ない。時計を見る。ふたが開く前に、針がわずかに震える。


「今」


 一手。

 小石を投げる。時計のふたに当たり、音がずれた。停止の波が半拍遅れ、コヨリはその隙に階段へ滑り込む。


【停止解除読み:成立】

【思考割込警戒:更新】


「時間を止め返した?」

「いいえ。止められる前に邪魔しました」

「それでいい。神様の時間停止に正面から付き合うほど、わたし暇じゃない」


 時計兵を越えたあと、コヨリはしばらく耳を押さえていた。音がしないのに、まだ針の音がする気がする。時間を止められるというのは、体より先に心が焦る。


「ログル、今、ちゃんと動いてる?」

「はい」

「わたしも?」

「はい。少し手が震えています」

「そこは見逃して」

「記録はします」

「見逃して!」


 九十三階の壁に、古い時計が一つだけ残っていた。割れている。針は止まっている。コヨリはそれを見て、拾おうとはしなかった。時間系のアイテムは、便利な顔をして一番ややこしい。


「持っていけば役に立つ?」

「可能性はあります」

「事故る?」

「かなり」

「置いていく」


 置いていく判断にも、慣れてきた。強そうなものを全部持つのではなく、事故るものを持たない。深層持ち物判断は、たぶんこういうことだ。


【深層持ち物判断:兆候】


「便利そうな時計を置いていける幼女、えらくない?」

「かなりえらいです」


 停止時計兵の階層を越えたことで、コヨリの中の時間感覚が少し変わった。一秒は短い。けれど、短いから意味がないわけではない。杖を構える一秒。小石を投げる一秒。ログルが足元を照らす一秒。


「一秒あれば、何ができる?」

「一歩下がれます」

「杖を振れる?」

「構えていれば」

「叫べる?」

「おすすめしません」

「叫びたい時もある」

「その場合、死なない場所でお願いします」


 コヨリは小さく笑った。昔なら、一秒足りなかったと泣いた。今は、一秒で足りるように準備する。


【停止前仕込み:再確認】


 時計のない廊下の先に、階段が見える。コヨリは走らず、歩いた。一秒を急ぐのではなく、一秒を使うために。


 階段の手前で、コヨリは一度だけ深呼吸した。時計兵の階層では、呼吸すら急かされていた気がする。だから、普通に息を吸えることがありがたい。


「一秒って、短いけど」

「はい」

「ちゃんと使うと長いね」

「深層の感想として、かなり正確です」


 ログルの宝石に、小さな成功ログが浮かぶ。


【一秒を待てた】


 それは派手なスキルではない。敵を倒すわけでもない。けれど、コヨリはその文字を見て、少し笑った。


「待つのも一手」

「はい」

「動くのも一手」

「はい」

「叫ぶのは?」

「場所によります」

「まだ言う!」


 時計兵の針の音が消えたあとも、コヨリは次の一手を急がなかった。急がされる敵のあとで急ぐのは、相手の置き土産に乗るようなものだ。


「急がない」

「はい」

「でも止まらない」

「はい」

「この間、難しい」

「深層ですから」

【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還最終シード

死亡回数:1100回

クラス:帰還者/勇者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【一フレームの神様 Lv.3】【停止時間対策 Lv.1】【時間不一致警戒 Lv.2】【思考割込警戒 Lv.1】【未識別杖確認 Lv.2】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【停止解除読み Lv.1】/更新:【思考割込警戒 Lv.1】→【思考割込警戒 Lv.2】


【登場人物紹介】

コヨリ:時間停止を正面から破らず、視界とタイミングでずらす。/ログル:遅延しながらも足元を照らす。/停止時計兵:相談時間を削る深層の理不尽敵。


【ローグライクあるある解説】

時間停止・思考猶予削減への対処回。完全無効化ではなく、視界切り、煙、予備動作読みで一手だけずらすのがローグライク的な打開。

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