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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第30章 帰還最終シード――死んだら全部終わります

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一フレーム神域――思考ターンに割り込まれる

相談中も安全ではありません。

思考割込天使が来ます。

長考せず、三択で決めます。

 八十四階に降りた瞬間、空気が一枚薄くなった。

 世界は止まっている。いや、止まっているはずだった。コヨリが動かなければ、敵も動かない。相談と盤面確認はターンを消費しない。それが、この世界の根幹だった。

 なのに、天井から白い羽が一枚落ちた。


「ログル」

「はい。嫌な数字が出ています」

「いつもの嫌な数字?」

「今回は、思考中に増えています」

「相談中に増えるな!」


 白い天使が、部屋の向こうに立っていた。顔は見えない。腕も見えない。ただ、背中の輪だけが一フレームずつ位置を変える。コヨリの視界に、赤い予測線が浮かんだ。相談している間に、その線が少しずつずれていく。


【警告】

【思考停止領域に干渉を検知】

【相談時間:制限】


「思考割込天使」

「名前が最低!」

「長く考えるほど、予測がずれます」

「じゃあ短く」

「はい。三択で」


 ログルの宝石に、三つだけ表示が出る。


一、眠らせる

二、壁を作る

三、階段へ逃げる


 いつもなら、持ち物欄を全部見る。敵の位置も見る。罠も見る。けれど、見る時間そのものを敵が食べる。深層は、考えることすら攻撃対象にしてくる。


「眠りは?」

「耐性あり。五割」

「壁」

「一手稼げます」

「階段」

「射線に入ります」

「壁」


 一手。

 コヨリは土塊の札を投げ、天使との間に低い壁を作った。壁は薄い。けれど、赤い予測線がそこで折れる。天使の輪が一フレーム止まり、コヨリの呼吸が戻る。


「効いた!」

「一手だけです」

「一手でいい!」


 八十七階では、思考割込天使が二体になった。三択だけでは足りない。コヨリは一瞬、焦って持ち物欄を全部開きそうになる。


「勇者様」

「分かってる。見ない。全部見ない」


 手元にあるのは、眠りの杖、場所替えの杖、小石袋改。候補は三つ。足りないなら、二つに減らす。


「場所替えか、小石」

「眠りは捨てますか」

「耐性ある敵に賭けない」

「では」

「小石で右の天使を動かす。場所替えで左を越える」


 一手目、小石。右の天使の予測線がずれる。二手目、場所替え。左の天使の背後へ抜ける。相談は短い。怖いほど短い。だが、長考で死ぬよりいい。


【思考割込警戒:更新】

【深層三択判断:成立】


 八十九階の階段前で、コヨリはようやく息を吐いた。


「ログル」

「はい」

「考える時間まで殴ってくる敵、ずるい」

「深層ですので」

「深層、性格悪すぎる」


 八十八階では、思考割込天使が攻撃ではなく、質問を投げてきた。


【なぜ帰る?】


 答えようとした瞬間、赤い予測線がずれる。質問に答えることも、思考時間を奪う攻撃だった。


「答えない」

「はい」

「でも、心の中でなら?」

「短く」


 コヨリは、胸の中でだけ言った。

 帰りたいから。ログルと帰りたいから。みんなをなかったことにしないために帰るから。


 言葉にすると長い。心の中でも、長い。だから最後は一つにした。


 帰る。


 その一語だけで、予測線が安定する。思考割込天使の輪が、わずかにひび割れた。


【目的圧縮:成功】


「目的まで圧縮するの!?」

「深層三択判断の応用です」

「わたしの気持ち、アイテム欄みたいに整理されてる!」

「散らかすと危険です」


 笑いながらも、コヨリは分かっていた。最後の階層では、迷いも敵になる。


 八十九階の最後、思考割込天使は攻撃をやめて、コヨリを見た。顔はない。けれど、見られていると分かる。


【なぜ迷わない?】


 今度は、答えても予測線が揺れなかった。たぶん最後の確認だ。コヨリは短く息を吸う。


「迷ってるよ」


 天使の輪が少し傾いた。


「迷ってる。でも、止まらないだけ」


 その言葉で、床のマス目が一つずつ青く戻る。迷わない勇者ではない。迷っても、三択に絞り、足を出す勇者。コヨリがこの深層で得たのは、完璧な答えではなかった。


「ログル、今の記録した?」

「はい」

「恥ずかしいから消して」

「成功ログですので」

「成功ログ、たまに照れる!」


 天使は羽を一枚残し、消えた。コヨリは今度も拾わず、階段へ進む。きれいなものを拾わない判断にも、だいぶ慣れた。


 天使の羽は、階段の光に触れると文字になった。


【迷ってもよい】

【止まりすぎるな】


「ちょっといいこと言って消えた」

「敵の残滓です。油断しないでください」

「分かってる。でも、今のはちょっと好き」


 コヨリは羽文字を保存しなかった。心の中でだけ読む。深層では、良い言葉すら持ち物欄を圧迫するかもしれない。


「ログル、次に同じ敵が出たら?」

「三択から始めます」

「迷ったら?」

「目的を一語に圧縮します」

「帰る」

「はい。帰る、です」


 その一語が、階段の奥までまっすぐ伸びた。


 階段の影で、コヨリは一度だけ自分の手を見た。考えすぎると死ぬ。考えなさすぎても死ぬ。その間の細い道を歩く手だ。


「ログル、わたし、ちゃんと考えてる?」

「はい」

「考えすぎてない?」

「今は、ぎりぎり」

「ぎりぎりばっかり」

「ローグライクですので」


【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還最終シード

死亡回数:1100回

クラス:帰還者/勇者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【一フレームの神様 Lv.3】【時間不一致警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.4】【深層逃走判断 Lv.2】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【思考割込警戒 Lv.1】/新規獲得:【深層三択判断 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ:長考を捨て、三択で動く。/ログル:全部説明せず候補を絞る。/思考割込天使:相談時間を攻撃してくる神域敵。


【ローグライクあるある解説】

通常のターン制では止まって考えられるが、深層では思考中に干渉する敵が出る。候補を絞り、長考しない判断が生存策になる。

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