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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第30章 帰還最終シード――死んだら全部終わります

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死因図鑑フロア――千百回の死が地図になる

死因カードが床になります。

痛かった記録が、道になります。

ログが消えても、覚えています。

 七十九階の壁には、カードがびっしり貼られていた。

 黒狼。宝箱ミミック。毒草。落とし穴。爆ぜ岩。遠投の腕輪。階段前の宝箱。味方射線。満腹度切れ。同行者枠。カードはどれも見覚えがありすぎて、コヨリは最初だけ笑った。


「わたしの死に方、展示しすぎ」

「死因図鑑室の最終同期です」

「展示会名が嫌」


 けれど、歩き出すと笑えなくなった。カードの下には、足跡がある。過去に死んだ場所が赤く、死なずに抜けた道が青く光る。死因ログは、もう笑うためだけのカードではなかった。


【死因ログ参照】

【過去死亡地点を危険マスへ変換】

【成功ログを移動候補へ接続】


「わたしの死に方が、道になってる」

「はい」

「嫌な道」

「でも、コヨリ様だけの道です」


 八十一階、【階段前の誘惑】が出た。階段の横に宝箱。宝箱の横に保存壺。保存壺の横に、識別の巻物。全部が欲しい。全部が罠っぽい。

 コヨリは深呼吸する。階段を見る。宝箱を見る。もう一度、階段を見る。


「降りる」

「はい」

「宝箱は?」

「呼吸しています」

「やっぱり!」


 八十二階、白い鳥が現れた。羽ばたきのたび、壁の死因カードが白く塗りつぶされる。


【ログ消しの白鳥】

【効果:死因ログ参照を一時無効化】


 ログルの宝石から、表示が消えた。


「ログル?」

「表示が出ません。ぼくの記録も、一部白紙化されています」

「じゃあ、どうするの」

「......コヨリ様の記憶で」


 怖い。けれど、全部をログル任せにしてきたわけではない。黒狼の爪の角度。ミミックの呼吸。爆ぜ岩の赤いひび。階段前の宝箱のいやらしい位置。体が、覚えている。


 白鳥が飛ぶ。コヨリは右へ行きかけて、止まった。右は安全そうだ。だから危ない。左の壁ぎわ、カードが白くなる前に一瞬だけ見えた赤い×印。そこは昔、落とし穴だった。


「左じゃない。右でもない」

「では」

「一歩下がって、小石」


 一手。

 小石が白鳥の足元に落ちる。白鳥が反応して進路を変え、床の白塗りがずれる。隠れていた階段が、半分だけ見えた。


【ログなし判断:成立】

【死因学習:更新】


「ログル」

「はい」

「ログにあるから覚えてるんじゃない」

「はい」

「わたしが、覚えてる」


 ログルの宝石が、少しだけ光を取り戻した。


 八十三階、ログ消しの白鳥が落とした白い羽を、コヨリは拾わなかった。きれいな羽だ。使えば何かに役立つかもしれない。けれど、ログを消す敵の落とし物なんて、信用できるわけがない。


「拾わない」

「かなり正しいです」

「きれいなのに」

「きれいな罠もあります」

「美神様に聞かせたい」


 白鳥が消えたあと、壁の死因カードは元に戻らなかった。いくつかは白いまま。つまり、完全な地図には戻らない。それでも階段は見えている。


「全部戻らないんだ」

「はい」

「ログルでも?」

「今は無理です」


 コヨリは白く残ったカードを見て、指でなぞった。何の死因だったか、文字はない。でも、なんとなく覚えている。たぶん、階段前で欲張った時のカード。たぶん、ミミックに噛まれた時のカード。たぶん、痛かったけど笑った死因。


「全部表示されなくても、残ってる」

「はい」

「なら進める」


 完璧な情報がなくても、一手は選べる。コヨリはそれを、白いカードの前で覚えた。


 死因図鑑フロアの出口には、一枚だけ新しいカードがあった。


【死因:なし】


 死んでいないのに、死因カードの形をしている。コヨリは眉を寄せた。


「これ、何」

「未使用枠です」

「縁起でもない!」

「ですが、空白のまま持ち越せれば成功です」


 カードは白い。ログ消しの白鳥が消した白とは違う。怖い白ではなく、何も書かれなかった白だ。コヨリはそのカードを取ろうとして、手を止めた。


「持っていく?」

「持ち物欄には入りません」

「じゃあ、どこに残るの」

「成功ログ棚です」


 カードがふっと消え、代わりに足元のマス目が一つ青くなった。


【成功ログ:死ななかった階層】


「死なないことも、ログになるんだ」

「はい」

「もっと早く増やしたかった」

「これから増やせます」


 その言葉が、思ったより深く胸に入った。


 青くなったマスを踏むと、足元から小さな音がした。死亡ログの重い音ではない。成功ログ棚に本が一冊入るような、乾いたやさしい音だ。


「ログル、今の音」

「成功ログ棚です」

「拠点、ここまで届いてるの?」

「拠点接続種を通じて、かすかに」


 白い世界のはずなのに、反省会テーブルの木の匂いが一瞬だけ混ざった。コヨリは目を細める。拠点を置いてきたのではない。拠点とつながったまま進んでいる。


「椅子ひとつから、すごく遠くまで来たね」

「はい」

「でも、足元確認はまだいる」

「もちろんです」


 どれだけ遠くへ来ても、一歩目の基本は変わらない。そのことが、逆に心強かった。


【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還最終シード

死亡回数:1100回

クラス:帰還者/勇者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【死因学習 Lv.5】【死因ログ参照 Lv.2】【死ぬ前に一言ツッコむ Lv.2】【階段前欲張り警戒 Lv.3】【総合盤面確認 Lv.4】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【ログなし判断 Lv.1】/更新:【死因学習 Lv.5】最終同期


【登場人物紹介】

コヨリ:ログがなくても自分の記憶で一手を選ぶ。/ログル:表示を失っても隣にいる。/ログ消しの白鳥:死因ログ参照を消す深層敵。


【ローグライクあるある解説】

死に覚えの集大成回。ログ表示や攻略メモに頼れない時、プレイヤー自身の記憶と癖が生存に直結する。

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