表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第30章 帰還最終シード――死んだら全部終わります

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
331/340

ベルの書類フロア――正式抗議文が鍵になる

規約迷路です。

同意するとだいたい負けます。

ベルの書類が物理鍵になります。

 六十七階の扉には、取っ手がなかった。

 かわりに、びっしりと細かい文字が書かれている。読むだけで目が痛い。上の方に【同意しますか?】とある時点で、コヨリは一歩下がった。


「同意しない」

「まだ内容を読んでいません」

「神様の同意文は、読んだら負けの匂いがする」

「経験則として正しいです」


 ログルが宝石を光らせ、文字の一部を拡大する。


【死亡時の責任は勇者に帰属します】

【同行者の人格について、主神は保証しません】

【帰還門失敗時の苦情は受け付けません】


「神様ァ! 同意の皮をかぶった責任逃れやめて!」


 叫ぶと扉が少し震えた。声も一手になるかと身構えたが、この部屋では例外らしい。おそらく、苦情だけはターン消費しない。ベルが聞いたら喜ぶ仕様だ。


 コヨリは保存壺から、ベルの正式抗議文を取り出した。紙束は重い。幼女の腕にはかなり重い。でも、責任の重さだと思うと、急に腹が立って持てた。


「ログル、読み上げ」

「はい」


【主神説明義務不履行】

【勇者同意不備】

【ログル人格分類不当】

【魔王軍労働環境違反】

【死亡ログ所有権侵害】


 読み上げるたび、扉の文字が一行ずつ剥がれ落ちる。六十九階では、規約が鎖になって足元へ絡みついた。コヨリは短剣で切ろうとしたが、刃が弾かれる。


「物理じゃ切れない」

「規約ですので」

「規約って物理より硬いの!?」

「かなり」


 そこで、ベルの追記欄を開く。空白に、コヨリは太い字で書いた。


【説明されていないので無効】


 鎖がほどけた。


「強い!」

「書類は強いです」

「ベルさん、最終決戦にいないのに火力高い」


 七十二階の出口には、受領印台があった。印を押さなければ開かない。しかし押すと、こちらが同意した扱いになる罠だ。

 コヨリはベルの書類束を丸め、印台そのものへ叩きつけた。


【正式抗議文:受理】

【規約迷路:開錠】


「紙で扉が開いた」

「正確には、書式で開きました」

「神様より書類が信じられる世界、嫌すぎる」


 階段を降りる時、ベルの声がかすかに聞こえた気がした。


「受領印を」


 七十一階では、規約の文字が床にまで回り込んでいた。踏むと同意扱い。避けると遠回り。遠回りすれば満腹度が減る。神様の文章は、読むだけでなく歩くだけでも面倒だった。


「ログル、文字を踏まずに進む道」

「あります。ただし、かなり細いです」

「幼女サイズでよかったやつ?」

「はい。珍しく有利です」


 コヨリは、文字と文字の隙間をつま先で進む。大人なら踏む。ゼルドなら絶対に踏む。ベルなら、そもそも踏む前に書類で床ごと差し戻すだろう。


「ベルさんならどうするかな」

「床面規約の掲示不備を指摘します」

「強い」


 最後の一行だけ、どうしても踏まないと通れない位置にあった。


【本規約は、読んだものとみなします】


 コヨリはしゃがみ、ベルの抗議文から白紙の付箋を一枚はがして、その上に貼った。


【読んでません】


 床が沈黙した。扉が開く。


「勝った」

「事務処理の勝利です」

「勇者の勝利じゃないの!?」

「今回は、かなりベル様の勝利です」


 規約迷路を抜けたあと、コヨリの手にはインクの汚れがついていた。剣の血ではない。魔法の煤でもない。書類と戦った跡だ。


「最終ダンジョンでインク汚れ」

「ベル様らしい戦闘痕です」

「これ、帰ったら落ちるかな」

「シード内汚れなので、おそらく」

「ちょっとだけ残ってもいいかも」


 ログルは不思議そうに首を傾げる。

「なぜですか」

「神様の規約に同意しなかった証拠」

「証拠は書類で残っています」

「手にも残したい時ってあるじゃん」


 コヨリは、インクのついた指で空中に小さく丸を描いた。受領印ではない。自分で決めた印だ。


【同意しない勇者:内部記録】


「今のスキル?」

「いえ、性格です」

「じゃあ最初から持ってた」


 規約は破れた。けれど、これからも神様は何かの紙を出してくるかもしれない。コヨリはそのたび、まず読む。読んで、分からなければ聞く。説明されなければ、押さない。


 開いた扉の奥には、細い廊下が続いていた。壁には、剥がれた規約の文字がまだ貼りついている。踏めばもう効果はないらしいが、コヨリはわざわざ避けて歩いた。


「もう罠ではありません」

「分かってる」

「では、なぜ避けるのですか」

「気持ちの問題」


 同意していないものを、踏みたくない。そんな小さな意地も、たぶん一部の攻略だった。神様の仕様を攻略するというのは、数字だけではなく、押されたくないボタンを押さないことでもある。


 コヨリはインクのついた指を、服で拭こうとしてやめた。汚れも、今は少しだけ勲章みたいに見える。剣で勝ったわけではない。難しい文字と、ずるい規約と、押したくない同意欄に勝った。


「勇者っぽくない勝ち方」

「かなり勇者様らしい勝ち方です」


【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還最終シード

死亡回数:1100回

クラス:帰還者/勇者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【仕様書読解 Lv.1】【死亡ログ所有権確認 Lv.2】【ログ差し戻し Lv.3】【管理画面警戒 Lv.1】【相棒再分類拒否 Lv.2】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【規約罠無効申立 Lv.1】内部保持/更新:【仕様書読解 Lv.1】深度上昇


【登場人物紹介】

コヨリ:同意ボタンを押さない勇者。/ログル:規約を短く読み上げる解析神獣。/ベル:不在でも書類で扉を開ける有能秘書。


【ローグライクあるある解説】

同意文・規約・確認ボタンが罠になるフロア。選択肢に見えて実質強制のものは押さない。書類が鍵にも武器にもなる。

ベルさんの書類攻撃を応援したい方も、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます。感想・評価・レビューお願いします!励みになります
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

小説家になろう 勝手にランキング
ギルド酒場るすと公式サイト

異世界ゲームバー転生おじさん(42)
影森ゆらは今日も死ぬ
千回死亡幼女勇者 異世界Any%
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ