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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第30章 帰還最終シード――死んだら全部終わります

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魔王城フロア――ゼルドの影が道を開ける

魔王城は敵の城ではありません。

役割を押しつけられた魔王の記録が道になります。

倒さず越える回です。

 六十階から、壁の色が黒くなった。

 魔王城だ。豪華な燭台、重い扉、長い廊下。昔なら、それだけでボス戦の匂いがした。今は違う。廊下の角に貼られた勤務表を見た瞬間、コヨリは小さく笑った。


「魔王さん、ちゃんと勤務表出してる」

「魔王軍は事務が強いです」

「神様より?」

「かなり」


 敵は【ラスボス役割兵】。黒い鎧を着て、同じ言葉を繰り返す。


「勇者は魔王を倒す」

「勇者は魔王を倒す」

「勇者は魔王を倒す」


 コヨリは短剣を抜かない。ログル宝石杖も構えない。ベルが用意した魔王軍通行許可の写しを取り出し、胸の高さで掲げた。


【魔王軍通行許可:仮承認】

【勇者敵対判定:保留】


 ラスボス役割兵の鎧が、ぎしりと鳴った。


「勇者は魔王を......」

「倒さない」

「勇者は......」

「通る」


 六十二階、魔王玉座の間を模した部屋に、ゼルドの影が立っていた。本物ではない。魔王相談窓口に残った記録が、帰還最終シードに投影されたものだ。


「幼き勇者よ」

「魔王さん?」

「余ではない。だが、余が残した苦情の影ではある」

「苦情の影って強そう」

「実際、強い」


 影は剣を抜かず、玉座の横を示した。そこには、普通なら隠し階段と呼ばれる穴がある。だが扉には、魔王役割表が貼られていた。


【魔王ゼルド】

【役割:最終試験官】

【勇者成長確認用ボス】

【敗北後:世界崩壊点固定】


 コヨリは、紙を乱暴にはがした。


「魔王さんは、そんな便利な終点じゃない」


 紙が破れた瞬間、ラスボス役割兵たちの動きが鈍る。ログルの宝石に、道がひとつ浮かんだ。


【魔王生存ルート:再接続】


 六十六階の階段前、ゼルドの影がもう一度だけ口を開いた。


「勇者よ、余の背を越えて行け」

「倒さないで越える」

「それでよい。最後に主神を殴る時は、余の分も残しておけ」

「ちゃんとターン回す」


 影が笑った気がした。

 コヨリは階段を降りる前に、魔王役割表の破片を保存壺へ入れた。荷物ではない。証拠だ。


 六十五階では、玉座の間の奥に紅茶の香りが残っていた。ゼルドの影が作ったものではない。実際のゼルドが拠点で飲んでいた紅茶の記録が、魔王城フロアに染み出している。


「魔王さん、紅茶好きだったね」

「はい。勤務中の数少ない癒やしだそうです」

「ラスボス役の癒やしが紅茶って、なんか泣ける」


 玉座の横には、もう一枚の紙が落ちていた。魔王軍勤務表。そこには、細かい字で休憩時間や部下の体調欄まで書かれている。コヨリはそれを拾い、役割表の破片と一緒に保存した。


「これも持つのですか」

「荷物じゃない。証拠」

「持ち物欄は圧迫します」

「ベルさんの書類より薄い」

「比較対象が強すぎます」


 勤務表を拾った瞬間、ラスボス役割兵の残骸が少しだけ震えた。だが、もう敵対判定は戻らない。ゼルドが魔王でありながら、世界の歯車ではないことを、コヨリが選んだからだ。


「魔王さんにも、帰る場所あるよね」

「魔王城でしょうか」

「ううん。部下が待ってる場所」


 ログルは答えず、宝石を静かに光らせた。


 六十六階の階段へ続く廊下には、ラスボスっぽい赤い絨毯が敷かれていた。まっすぐ歩けば、いかにも玉座へ向かう道。だが、ログルの宝石には脇道が青く光っている。


「正面は?」

「演出用です」

「演出用って何」

「勇者を歩かせるための道です」

「歩かない」


 コヨリは赤い絨毯を避け、脇の使用人通路を進んだ。そこには掃除道具や古い台車があり、魔王城がただのボス部屋ではなく、誰かが働く場所だったことを思い出させる。


「魔王城にも裏口あるんだね」

「当然です。勤務導線があります」

「勤務導線でラスボス回避、ちょっと好き」


 通路の壁に、ベルの字で小さく書かれていた。


【正面から行く必要はございません】


 コヨリは吹き出しそうになった。そうだ。勇者だからといって、赤い絨毯を歩く義務はない。ラスボス役割表を破ったあとなら、なおさらだ。


 裏口の階段は、静かに下へ続いていた。


 使用人通路には、魔王軍の小さな落書きも残っていた。誰かが書いた「本日も残業」の文字に、別の誰かが「主神のせい」と足している。コヨリはそれを見て、思わず苦笑した。


「魔王軍、だいぶ怒ってる」

「はい。蓄積された労働感情です」

「感情って言い方、便利すぎない?」


 ラスボスの城にも、働く人がいる。守る人がいる。文句を言う人がいる。そこを見たあとでは、もう魔王城をただの攻略対象とは呼べなかった。


 階段の前で、コヨリは赤い絨毯ではなく裏通路へ頭を下げた。

「通らせてくれて、ありがと」


 脇道の階段には、誰かが置き忘れた小さな紅茶缶があった。持っていきたい気もしたが、コヨリは首を振る。ゼルドの紅茶は、ゼルドの場所にあるほうがいい。


「帰ったら、魔王さんにもお茶出せるかな」

「拠点接続種が残れば、可能性はあります」

「じゃあ残す」

【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還最終シード

死亡回数:1100回

クラス:帰還者/勇者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【地図読み Lv.3】【ルート選択 Lv.2】【人物レイヤー地図 Lv.1】【魔王生存ルート系統:内部保持】【仕様書読解 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【魔王生存ルート再接続 Lv.1】内部保持/拠点記録:【魔王役割表の破片】接続


【登場人物紹介】

コヨリ:魔王を倒さず越える勇者。/ログル:魔王軍書類を通行許可として読む。/ゼルドの影:苦情と誇りで道を開く魔王の記録。


【ローグライクあるある解説】

ラスボスを倒すのではなく、敵対判定そのものを外す回。ボス戦回避、通行許可、役割破壊も立派な攻略。

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