同行者保護フロア――ログルを荷物にするな
ログルを収納すれば簡単。
でも、それは選びません。
相棒を荷物にしないフロアです。
四十六階の入口で、白い看板が待っていた。
【提案:ログル一時収納】
【分類:荷物】
【安全率:上昇】
コヨリは看板を最後まで読まず、裏拳で叩いた。小さな手なので、看板はほとんど揺れない。
「ログルは荷物じゃない」
「勇者様、手が痛いだけです」
「痛くても殴る理由がある」
「......ありがとうございます」
このフロアは、露骨だった。通路は一人分なら通れる。二人なら詰まる。罠はコヨリの足元だけでなく、ログルの小さな足にも反応する。敵はコヨリではなく、ログルの宝石を狙う。
ログ取り小僧が、通路の奥で舌を出した。
「対象、記録端末。返却」
「返さない」
「分類、荷物」
「違う」
「収納推奨」
「うるさい!」
叫ぶとターンを消費する。だからコヨリは叫びかけて、口を閉じた。怒りも一手になる。深層はそこまで性格が悪い。
「ログル、後ろへ」
「その指示はターン消費です」
「知ってる。だから先に眠り玉」
一手。
眠り玉が床で割れ、白い煙がログ取り小僧の足元を包む。小僧が眠る前に一歩だけ動き、ログルの宝石へ手を伸ばした。ぎりぎり届かない。
「今」
「はい」
一手。
ログルが一マス下がる。敵は眠っている。コヨリはその前に立つ。狭い。守る側になると、盤面はこんなに狭い。
五十階、また看板が出た。
【ログル一時収納で、罠無効】
【同行者を持ち物欄へ入れますか?】
「入れない」
「安全率は下がります」
「下がっていい」
「死亡率も上がります」
「それでも、入れない」
ログルが何か言おうとして、やめた。コヨリはその頭を軽く撫でる。撫でるのはターン消費ではない。たぶん。いや、この世界の判定は信用できないが、今は撫でたかった。
五十二階の階段前、ログ取り小僧の上位種が二体。片方を倒せば、もう片方がログルを狙う。二体とも眠らせる杖はない。
コヨリは保存壺から身代わりぬいぐるみを出した。大事な枠を使う。けれど、使い惜しんでログルを奪われるよりいい。
「身代わり置く」
「ぼくの位置は」
「壁ぎわ。射線外。罠なし」
「勇者様は」
「敵の前」
「危険です」
「相棒の前だからね」
一手。
身代わりぬいぐるみが床に座り、ログ取り小僧たちの視線がそちらへ吸われる。コヨリはログルを抱えず、横に並んで階段へ走った。
【同行者盤面管理:成立】
【ログル分類:荷物化拒否】
「ログル」
「はい」
「相棒って、面倒だね」
「はい」
「でも、いいね」
「......はい」
五十一階の床には、持ち物欄の形をした穴が開いていた。そこへログルを入れれば、通路が広がるらしい。実際、壁の白い表示はしつこく点滅している。
【ログル一時収納で難易度低下】
【同行者保護に失敗した場合、自己責任】
「自己責任って出た」
「神様系の文言です」
「じゃあ信用しない」
穴の前で、ログルが立ち止まった。
「勇者様。ぼくが一時収納を受け入れれば、突破率は上がります」
「言うと思った」
「事実です」
「でも、その突破率って、ログルを物にした時の数字でしょ」
「はい」
「じゃあ、いらない」
コヨリは穴の横に、死因刻みの短剣で文字を書いた。
【相棒は欄外】
書いた瞬間、床の穴が縮んだ。完全には消えない。それでも、壁一枚ぶんの隙間ができる。
「欄外、通った!」
「分類不能の力です」
「かっこいいのか、書類ミスなのか微妙!」
通路の先で、ログ取り小僧がまた現れる。だが、今度は宝石ではなく、床の文字を見て後ずさった。
「分類、不能」
「そう。不能でいい」
コヨリは笑って、ログルと並んで進んだ。
五十二階を降りる時、ログルは一度だけ振り返った。荷物欄の穴は、まだ床に残っている。もし入っていれば楽だった。もし入っていれば、罠も射線も少し減った。けれど、ログルの目は不思議と明るい。
「勇者様」
「なに」
「ぼく、重くありませんか」
「物理的には軽い」
「盤面的には」
「重い」
「はい」
「でも、その重さで帰るって決めた」
ログルは小さく笑ったように見えた。
「では、ぼくも軽くならないようにします」
「それ、どういう意味?」
「便利な端末に戻らない、という意味です」
「よし」
白い穴の表示が、最後に一度だけ点滅した。
【荷物化:拒否】
【同行者:維持】
それは第28章からずっと続いた問いへの、最終シード側の返答だった。ログルは荷物ではない。便利アイテムでもない。だから、難しい。だから、一緒に帰る意味がある。
床の穴を越えたあと、コヨリは自分の持ち物欄を開いた。残り枠は少ない。杖も減った。食料も心細い。そこへログルを入れれば、確かに楽だったのだろう。
「楽なほうが、正しい時もあるよね」
「あります」
「でも、今回は違う」
「はい」
楽さと正しさが、いつも同じならよかった。そうでないから、勇者は一手ずつ選ぶしかない。
【今回の勇者ステータス】
現在シード:帰還最終シード
死亡回数:1100回
クラス:帰還者/勇者
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
獲得済み主要スキル:【相棒再分類拒否 Lv.2】【相棒同行意志 Lv.1】【味方射線確認 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.4】【本物のログルを選ぶ Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【同行者盤面管理 Lv.1】/更新:【相棒再分類拒否 Lv.2】維持
【登場人物紹介】
コヨリ:安全率より相棒を選ぶ。/ログル:荷物ではなく同行者として歩く。/ログ取り小僧:端末返却を迫る神様側っぽい深層敵。
【ローグライクあるある解説】
護衛対象や同行者がいると、通路・射線・罠判定が一気に難しくなる。安全のために荷物化する選択を拒むことで、盤面難度と感情が同時に上がる。
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