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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第30章 帰還最終シード――死んだら全部終わります

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同行者保護フロア――ログルを荷物にするな

ログルを収納すれば簡単。

でも、それは選びません。

相棒を荷物にしないフロアです。


 四十六階の入口で、白い看板が待っていた。


【提案:ログル一時収納】

【分類:荷物】

【安全率:上昇】


 コヨリは看板を最後まで読まず、裏拳で叩いた。小さな手なので、看板はほとんど揺れない。


「ログルは荷物じゃない」

「勇者様、手が痛いだけです」

「痛くても殴る理由がある」

「......ありがとうございます」


 このフロアは、露骨だった。通路は一人分なら通れる。二人なら詰まる。罠はコヨリの足元だけでなく、ログルの小さな足にも反応する。敵はコヨリではなく、ログルの宝石を狙う。

 ログ取り小僧が、通路の奥で舌を出した。


「対象、記録端末。返却」

「返さない」

「分類、荷物」

「違う」

「収納推奨」

「うるさい!」


 叫ぶとターンを消費する。だからコヨリは叫びかけて、口を閉じた。怒りも一手になる。深層はそこまで性格が悪い。


「ログル、後ろへ」

「その指示はターン消費です」

「知ってる。だから先に眠り玉」


 一手。

 眠り玉が床で割れ、白い煙がログ取り小僧の足元を包む。小僧が眠る前に一歩だけ動き、ログルの宝石へ手を伸ばした。ぎりぎり届かない。


「今」

「はい」


 一手。

 ログルが一マス下がる。敵は眠っている。コヨリはその前に立つ。狭い。守る側になると、盤面はこんなに狭い。


 五十階、また看板が出た。


【ログル一時収納で、罠無効】

【同行者を持ち物欄へ入れますか?】


「入れない」

「安全率は下がります」

「下がっていい」

「死亡率も上がります」

「それでも、入れない」


 ログルが何か言おうとして、やめた。コヨリはその頭を軽く撫でる。撫でるのはターン消費ではない。たぶん。いや、この世界の判定は信用できないが、今は撫でたかった。


 五十二階の階段前、ログ取り小僧の上位種が二体。片方を倒せば、もう片方がログルを狙う。二体とも眠らせる杖はない。

 コヨリは保存壺から身代わりぬいぐるみを出した。大事な枠を使う。けれど、使い惜しんでログルを奪われるよりいい。


「身代わり置く」

「ぼくの位置は」

「壁ぎわ。射線外。罠なし」

「勇者様は」

「敵の前」

「危険です」

「相棒の前だからね」


 一手。

 身代わりぬいぐるみが床に座り、ログ取り小僧たちの視線がそちらへ吸われる。コヨリはログルを抱えず、横に並んで階段へ走った。


【同行者盤面管理:成立】

【ログル分類:荷物化拒否】


「ログル」

「はい」

「相棒って、面倒だね」

「はい」

「でも、いいね」

「......はい」


 五十一階の床には、持ち物欄の形をした穴が開いていた。そこへログルを入れれば、通路が広がるらしい。実際、壁の白い表示はしつこく点滅している。


【ログル一時収納で難易度低下】

【同行者保護に失敗した場合、自己責任】


「自己責任って出た」

「神様系の文言です」

「じゃあ信用しない」


 穴の前で、ログルが立ち止まった。

「勇者様。ぼくが一時収納を受け入れれば、突破率は上がります」

「言うと思った」

「事実です」

「でも、その突破率って、ログルを物にした時の数字でしょ」

「はい」

「じゃあ、いらない」


 コヨリは穴の横に、死因刻みの短剣で文字を書いた。


【相棒は欄外】


 書いた瞬間、床の穴が縮んだ。完全には消えない。それでも、壁一枚ぶんの隙間ができる。


「欄外、通った!」

「分類不能の力です」

「かっこいいのか、書類ミスなのか微妙!」


 通路の先で、ログ取り小僧がまた現れる。だが、今度は宝石ではなく、床の文字を見て後ずさった。


「分類、不能」

「そう。不能でいい」


 コヨリは笑って、ログルと並んで進んだ。


 五十二階を降りる時、ログルは一度だけ振り返った。荷物欄の穴は、まだ床に残っている。もし入っていれば楽だった。もし入っていれば、罠も射線も少し減った。けれど、ログルの目は不思議と明るい。


「勇者様」

「なに」

「ぼく、重くありませんか」

「物理的には軽い」

「盤面的には」

「重い」

「はい」

「でも、その重さで帰るって決めた」


 ログルは小さく笑ったように見えた。


「では、ぼくも軽くならないようにします」

「それ、どういう意味?」

「便利な端末に戻らない、という意味です」

「よし」


 白い穴の表示が、最後に一度だけ点滅した。


【荷物化:拒否】

【同行者:維持】


 それは第28章からずっと続いた問いへの、最終シード側の返答だった。ログルは荷物ではない。便利アイテムでもない。だから、難しい。だから、一緒に帰る意味がある。


 床の穴を越えたあと、コヨリは自分の持ち物欄を開いた。残り枠は少ない。杖も減った。食料も心細い。そこへログルを入れれば、確かに楽だったのだろう。


「楽なほうが、正しい時もあるよね」

「あります」

「でも、今回は違う」

「はい」


 楽さと正しさが、いつも同じならよかった。そうでないから、勇者は一手ずつ選ぶしかない。


【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還最終シード

死亡回数:1100回

クラス:帰還者/勇者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【相棒再分類拒否 Lv.2】【相棒同行意志 Lv.1】【味方射線確認 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.4】【本物のログルを選ぶ Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【同行者盤面管理 Lv.1】/更新:【相棒再分類拒否 Lv.2】維持


【登場人物紹介】

コヨリ:安全率より相棒を選ぶ。/ログル:荷物ではなく同行者として歩く。/ログ取り小僧:端末返却を迫る神様側っぽい深層敵。


【ローグライクあるある解説】

護衛対象や同行者がいると、通路・射線・罠判定が一気に難しくなる。安全のために荷物化する選択を拒むことで、盤面難度と感情が同時に上がる。

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