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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第30章 帰還最終シード――死んだら全部終わります

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射線の谷フロア――撃つ前に隣を見る

遠距離攻撃は安全ではありません。

射線、貫通、跳弾、味方位置。

撃たない勇気も武器です。

 三十七階から、空気が細くなった。

 谷だ。足元の道は細く、右も左も白い霧の底へ落ちている。向こう岸の壁には、矢の跡が斜めに刻まれていた。深層狙撃鬼が、まだ姿を見せない場所からこちらを狙っている。


「ログル、射線」

「正面五マス、右斜め七マス、上段に弓兵。谷底処刑弓が二体」

「名前がもう処刑する気満々」

「はい。かなり処刑です」


 コヨリは小石袋改を肩にかけ直した。遠くの敵は怖い。だが、こちらも遠くへ届く。だからこそ危険だった。貫通小石は敵を抜け、壁で跳ね返り、爆ぜ岩に当たり、最悪の場合は自分へ戻る。

 四十階、通路の向こうに矢ガラスが三体並んでいる。貫通小石なら一列で倒せる。けれど、その先に赤く光る岩があった。


「撃てば倒せる」

「はい」

「撃ったら?」

「奥の爆ぜ岩に当たります」

「爆風は?」

「谷の壁で跳ね返り、こちら側へ抜ける可能性があります」

「撃たない」

「正解です」


 撃たない。倒せる敵を倒さない。手がうずく。だが、千百回死んだコヨリは、気持ちいい攻撃のあとに死ぬことを知っている。


【撃たない判断:成功】


 四十三階では、ログルの位置が問題になった。コヨリだけなら射線外に立てる。だが、ログルが一マス後ろにいると、反射矢が宝石をかすめる。


「ログル、そこ危ない」

「はい。ただし、ぼくが動く指示はターン消費です」

「分かってる」

「先に敵を眠らせますか」

「違う。壁」


 コヨリは壁生成の杖を取り出した。残り一回。ここで使うのは重い。けれど、ログルを守るために温存して死ぬ方がもっと重い。


 一手。

 薄い土壁がログルの前に立ち上がり、反射矢が壁に刺さった。土の欠片が散り、ログルの耳が少し震える。


「当たってない?」

「当たっていません」

「よかった」

「勇者様」

「なに」

「今の壁、ぼくのために」

「相棒守るのに理由いる?」

「......いりません」


 四十五階の階段前、深層狙撃鬼が初めて姿を見せた。正面から行けば撃たれる。遠くから撃てば反撃される。だから、コヨリは足元の石を蹴った。小さな音に狙撃鬼が反応し、射線が半マスずれる。その隙に、階段へ。


【味方射線確認:更新】

【貫通先確認:維持】


「遠くから死ななかった!」

「はい。だいぶ遠くから生きました」

「言い方!」


 四十四階の谷では、風が強くなった。小石袋改から取り出した石が、手の中で震える。投げれば風に流される。矢も同じだ。直線射線だけでは足りない。風で一マスずれる未来まで読む必要がある。


「ログル、風」

「右から左。投擲は一マス流されます」

「敵の矢も?」

「流されます。ただし、敵は補正して撃ちます」

「敵だけ賢いのやめて」


 深層狙撃鬼が、こちらの足元ではなく、風で流れたあとの位置を狙っている。コヨリは小石を構え、すぐに下ろした。撃てる。けれど、撃つと自分も射線に入る。


「撃たない」

「はい」

「じゃあどうする」

「風を使います」


 コヨリは小石を敵ではなく、谷の看板へ投げた。風に流された石が看板へ当たり、古い板が倒れる。倒れた板が、矢の射線を遮った。


「看板つよい!」

「看板死もありましたので」

「その話は今しないで」


 遮蔽物ができた一手で、コヨリはログルを抱えず、隣に並んで進む。抱えると荷物判定が出るかもしれない。並ぶと射線確認が増える。どちらも面倒だ。だから、面倒なほうを選ぶ。


「相棒って、射線が増える」

「はい」

「でも、ひとりよりいい」

「はい」


 矢が看板に刺さる音を背中で聞きながら、二人は階段へ滑り込んだ。


 四十五階を抜ける前、谷の底から何かが光った。銀色の矢だ。落ちている。たぶん強い。貫通するかもしれない。爆ぜ岩も盾コボルトも、まとめて倒せるかもしれない。


「銀の矢」

「見えます」

「拾う?」

「谷底です」

「落ちたら?」

「たぶん終わります」

「じゃあ拾わない!」


 即答できた自分に、コヨリは少し驚いた。昔なら欲しがった。強い飛び道具は正義だと思った。今は、強い飛び道具ほど事故の射線が伸びると知っている。


 ログルが、谷底の矢を見つめたまま言う。

「勇者様。あの矢があれば、少し楽になった可能性はあります」

「うん」

「拾わない判断も、少し苦しいですね」

「うん。でも、谷底に降りる理由としては足りない」


 足りない。たったそれだけの言葉で、欲が少しだけ静かになった。全部が命を賭ける価値を持つわけではない。


 射線の谷は、遠くを見すぎると足元を忘れる。コヨリは銀の矢から目を戻し、自分の足元のマスを見た。


 谷風がリボンを揺らすたび、コヨリは肩にいるログルの重さを確かめた。ほんの少しの重みなのに、その位置が分かるだけで、射線の読み方が変わる。ひとりなら安全なマスが、ふたりだと危険になる。


「ログル、近い?」

「近いです」

「離れる?」

「離れると別の射線に入ります」

「相棒、難易度高い」

「はい。でも、選ばれました」


【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還最終シード

死亡回数:1100回

クラス:帰還者/勇者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【射線確認 Lv.3】【味方射線確認 Lv.1】【貫通先確認 Lv.3】【遠隔戦術 Lv.1】【間合い管理 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

更新:【味方射線確認 Lv.1】→【味方射線確認 Lv.2】/新規獲得:【撃たない判断・最終】内部保持


【登場人物紹介】

コヨリ:倒せる敵を倒さない選択ができるようになった。/ログル:守られる側にもなる相棒。/深層狙撃鬼:見えない位置から射線で圧をかける遠距離敵。


【ローグライクあるある解説】

遠隔攻撃は安全ではなく、射線・貫通先・反射・味方位置が事故要因になる。撃たない判断も立派な一手。

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