罠王都フロア――見えてる罠ほど踏むな
王都グランベルが罠として再登場。
見えている罠も、踏ませ方を間違えれば死にます。
今回は罠を味方にします。
二十八階に降りると、石畳の道が広がっていた。
王都グランベル。正確には、王都によく似た罠の迷路。噴水はないのに、噴水だった場所だけが青く光り、店の看板は全部【安全】と書いてある。コヨリはそれを見て、即座に首を横へ振った。
「安全って書いてある場所ほど安全じゃない」
「長い経験に基づく判断です」
「経験がつらい」
床には罠が見えている。落とし穴、装備はがし、転び石、おにぎり化。見えているなら簡単、と言いたいところだが、敵の配置が悪い。罠踏ませ小鬼がこちらを見ながら、わざと安全な道をふさいでいる。
「罠を解除する?」
「解除は一手。小鬼が一歩近づきます」
「踏ませる?」
「踏ませられます。ただし場所替え先の床確認が必要です」
「そこを忘れて何回死んだっけ」
「数えますか」
「数えないで」
三十一階、狭い通路に盾コボルトと罠踏ませ小鬼が並んだ。コヨリの足元から二マス先は安全。三マス先が落とし穴。敵の足元は見えている罠の上。
場所替えの杖を使えば、敵を落とせる。けれど、交換先を見ずに振れば、自分が落ちる。
「ログル、確認」
「はい」
「交換先」
「盾コボルトの足元。落とし穴です」
「わたしの移動先は?」
「現在の盾コボルト位置。罠あり」
「だめじゃん!」
「なので、先に小石で一歩動かします」
コヨリは小石を投げた。盾コボルトが音へ反応し、落とし穴の一マス手前へずれる。今なら、場所替え後のコヨリの足元は安全、敵は落とし穴の上。
「今?」
「今です」
一手。
杖の光が走り、コヨリと盾コボルトの位置が入れ替わる。次の瞬間、盾コボルトの足元が抜けた。穴の底から、ずいぶん間抜けな金属音が響く。
【罠利用:成功】
【場所替え先確認:成功】
「罠を踏ませる側になった!」
「成長です」
「でも性格が悪くなった気がする」
「生存戦術です」
三十六階の階段前、最後の罠は見えているのに踏みたくなる位置にあった。階段の横に宝箱。宝箱の前に転び石。宝箱の後ろに眠り粉コウモリ。
コヨリは宝箱を見た。見た。もう一度見た。
「ログル」
「宝箱二度見は欲です」
「まだ何も言ってない!」
「顔が言っていました」
コヨリは無言で宝箱から目をそらした。階段へ行く。転び石も踏まない。宝箱も開けない。
【階段前欲張り警戒:成功】
階段を降りる直前、宝箱が小さく口を開けた。
「やっぱりミミックじゃん!」
「呼吸していました」
「先に言って!」
「見ない訓練中でしたので」
三十四階では、罠訓練場の匂いがした。白い拠点の床ではなく、泥と金属の匂い。トラッパがいつか笑いながら置いた、嫌な角度の落とし穴を思い出す。
「罠は愛だって言ってた小鬼、いたよね」
「はい。愛がかなり痛いタイプです」
「ここ、絶対あの子の趣味も混ざってる」
通路の曲がり角で、床の石が一枚だけ新しい。見えている罠ではない。むしろ、見えすぎる罠の横にある、見えない罠だ。コヨリはしゃがんで、指先を床に近づけた。
「触ると?」
「踏み判定はありませんが、解除判定が入る可能性があります」
「じゃあ触らない」
「正解です」
コヨリは小石を転がした。石が新しい床板に触れた瞬間、壁から矢が飛び、見えている落とし穴を越えて反対側の壁に刺さる。
「罠の横に罠!」
「深層です」
「深層を免罪符にしないで!」
罠を踏まないだけなら、迂回すればいい。けれど、迂回先には眠り粉コウモリがいる。コヨリは落とし穴を見た。矢の射線を見た。眠り粉の範囲を見た。全部嫌だ。
「罠を使う」
「対象は」
「コウモリ」
小石でコウモリを起こし、矢罠の射線へ誘導する。昔なら自分が踏んだ罠を、今は敵の通路にする。コウモリが矢に弾かれ、落とし穴へ落ちた。
「トラッパに見せたい」
「かなり喜びそうです」
「それはそれで嫌」
三十六階の階段へ降りる直前、コヨリは王都の空を見上げた。偽物の空なのに、夕焼けだけはやけにきれいだ。王都グランベルで何度も転び、落ち、飛ばされ、罠に怒った記憶が胸の奥をかすめる。
「王都って、普通は人が住む場所だよね」
「はい」
「神様が雑に作ると、街もダンジョンになる」
「その傾向があります」
「帰ったら、横断歩道も罠に見えそう」
「信号は確認してください」
「それは普通に確認する」
罠王都は、ただ危険なだけではなかった。人が通る道、店の前、階段の横、噴水のふち。生活の形をした場所に、罠が置かれている。それが嫌だった。安全なはずのものが安全ではない世界で、コヨリは安全確認を覚えた。
階段に足をかけた時、背後の石畳が一枚だけ沈んだ。遅れて起動する罠だ。コヨリは振り返らず、階段へ体を滑らせる。
「見ない」
「はい」
「確認しすぎても死ぬ時はある」
「今回は進むのが正解です」
罠を見抜くことと、罠に付き合わないこと。その違いも、最後の階層では大事だった。
【今回の勇者ステータス】
現在シード:帰還最終シード
死亡回数:1100回
クラス:帰還者/勇者
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
獲得済み主要スキル:【罠感知 Lv.4】【足元確認 Lv.5】【階段前欲張り警戒 Lv.3】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.4】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【最終罠利用 Lv.1】/更新:【盤面確認系統】→【総合盤面確認 Lv.5】候補
【登場人物紹介】
コヨリ:罠を避けるだけでなく利用する段階へ。/ログル:宝箱二度見を即座に欲扱いする。/罠踏ませ小鬼:罠に愛され、罠で落ちる。
【ローグライクあるある解説】
見えている罠でも、敵配置次第で踏まされる。罠は消すだけでなく、敵に踏ませる・誘導する・踏まないために欲を捨てるのが大事。
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