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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第30章 帰還最終シード――死んだら全部終わります

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罠王都フロア――見えてる罠ほど踏むな

王都グランベルが罠として再登場。

見えている罠も、踏ませ方を間違えれば死にます。

今回は罠を味方にします。


 二十八階に降りると、石畳の道が広がっていた。

 王都グランベル。正確には、王都によく似た罠の迷路。噴水はないのに、噴水だった場所だけが青く光り、店の看板は全部【安全】と書いてある。コヨリはそれを見て、即座に首を横へ振った。


「安全って書いてある場所ほど安全じゃない」

「長い経験に基づく判断です」

「経験がつらい」


 床には罠が見えている。落とし穴、装備はがし、転び石、おにぎり化。見えているなら簡単、と言いたいところだが、敵の配置が悪い。罠踏ませ小鬼がこちらを見ながら、わざと安全な道をふさいでいる。


「罠を解除する?」

「解除は一手。小鬼が一歩近づきます」

「踏ませる?」

「踏ませられます。ただし場所替え先の床確認が必要です」

「そこを忘れて何回死んだっけ」

「数えますか」

「数えないで」


 三十一階、狭い通路に盾コボルトと罠踏ませ小鬼が並んだ。コヨリの足元から二マス先は安全。三マス先が落とし穴。敵の足元は見えている罠の上。

 場所替えの杖を使えば、敵を落とせる。けれど、交換先を見ずに振れば、自分が落ちる。


「ログル、確認」

「はい」

「交換先」

「盾コボルトの足元。落とし穴です」

「わたしの移動先は?」

「現在の盾コボルト位置。罠あり」

「だめじゃん!」

「なので、先に小石で一歩動かします」


 コヨリは小石を投げた。盾コボルトが音へ反応し、落とし穴の一マス手前へずれる。今なら、場所替え後のコヨリの足元は安全、敵は落とし穴の上。


「今?」

「今です」


 一手。

 杖の光が走り、コヨリと盾コボルトの位置が入れ替わる。次の瞬間、盾コボルトの足元が抜けた。穴の底から、ずいぶん間抜けな金属音が響く。


【罠利用:成功】

【場所替え先確認:成功】


「罠を踏ませる側になった!」

「成長です」

「でも性格が悪くなった気がする」

「生存戦術です」


 三十六階の階段前、最後の罠は見えているのに踏みたくなる位置にあった。階段の横に宝箱。宝箱の前に転び石。宝箱の後ろに眠り粉コウモリ。

 コヨリは宝箱を見た。見た。もう一度見た。


「ログル」

「宝箱二度見は欲です」

「まだ何も言ってない!」

「顔が言っていました」


 コヨリは無言で宝箱から目をそらした。階段へ行く。転び石も踏まない。宝箱も開けない。


【階段前欲張り警戒:成功】


 階段を降りる直前、宝箱が小さく口を開けた。

「やっぱりミミックじゃん!」

「呼吸していました」

「先に言って!」

「見ない訓練中でしたので」


 三十四階では、罠訓練場の匂いがした。白い拠点の床ではなく、泥と金属の匂い。トラッパがいつか笑いながら置いた、嫌な角度の落とし穴を思い出す。


「罠は愛だって言ってた小鬼、いたよね」

「はい。愛がかなり痛いタイプです」

「ここ、絶対あの子の趣味も混ざってる」


 通路の曲がり角で、床の石が一枚だけ新しい。見えている罠ではない。むしろ、見えすぎる罠の横にある、見えない罠だ。コヨリはしゃがんで、指先を床に近づけた。


「触ると?」

「踏み判定はありませんが、解除判定が入る可能性があります」

「じゃあ触らない」

「正解です」


 コヨリは小石を転がした。石が新しい床板に触れた瞬間、壁から矢が飛び、見えている落とし穴を越えて反対側の壁に刺さる。


「罠の横に罠!」

「深層です」

「深層を免罪符にしないで!」


 罠を踏まないだけなら、迂回すればいい。けれど、迂回先には眠り粉コウモリがいる。コヨリは落とし穴を見た。矢の射線を見た。眠り粉の範囲を見た。全部嫌だ。


「罠を使う」

「対象は」

「コウモリ」


 小石でコウモリを起こし、矢罠の射線へ誘導する。昔なら自分が踏んだ罠を、今は敵の通路にする。コウモリが矢に弾かれ、落とし穴へ落ちた。


「トラッパに見せたい」

「かなり喜びそうです」

「それはそれで嫌」


 三十六階の階段へ降りる直前、コヨリは王都の空を見上げた。偽物の空なのに、夕焼けだけはやけにきれいだ。王都グランベルで何度も転び、落ち、飛ばされ、罠に怒った記憶が胸の奥をかすめる。


「王都って、普通は人が住む場所だよね」

「はい」

「神様が雑に作ると、街もダンジョンになる」

「その傾向があります」

「帰ったら、横断歩道も罠に見えそう」

「信号は確認してください」

「それは普通に確認する」


 罠王都は、ただ危険なだけではなかった。人が通る道、店の前、階段の横、噴水のふち。生活の形をした場所に、罠が置かれている。それが嫌だった。安全なはずのものが安全ではない世界で、コヨリは安全確認を覚えた。


 階段に足をかけた時、背後の石畳が一枚だけ沈んだ。遅れて起動する罠だ。コヨリは振り返らず、階段へ体を滑らせる。


「見ない」

「はい」

「確認しすぎても死ぬ時はある」

「今回は進むのが正解です」


 罠を見抜くことと、罠に付き合わないこと。その違いも、最後の階層では大事だった。


【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還最終シード

死亡回数:1100回

クラス:帰還者/勇者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【罠感知 Lv.4】【足元確認 Lv.5】【階段前欲張り警戒 Lv.3】【ミミック警戒 Lv.2】【総合盤面確認 Lv.4】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【最終罠利用 Lv.1】/更新:【盤面確認系統】→【総合盤面確認 Lv.5】候補


【登場人物紹介】

コヨリ:罠を避けるだけでなく利用する段階へ。/ログル:宝箱二度見を即座に欲扱いする。/罠踏ませ小鬼:罠に愛され、罠で落ちる。


【ローグライクあるある解説】

見えている罠でも、敵配置次第で踏まされる。罠は消すだけでなく、敵に踏ませる・誘導する・踏まないために欲を捨てるのが大事。

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