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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第30章 帰還最終シード――死んだら全部終わります

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属性反射フロア――火球は味方ではありません

火球は便利です。

便利なものは事故ります。

今回は撃つ前に床を見ます。


 十九階の床は、ぬらぬらと光っていた。

 油だ。たぶん油だ。見た瞬間、コヨリは火球を撃つ手を後ろへ隠した。


「撃ちません」

「まだ何も言っていません」

「床が言ってる。火を出したら死ぬって」

「たいへんよい床読みです」


 属性反射フロアは、見た目がきれいなほど性格が悪かった。水床は滑る。氷床も滑る。雷床は一マス先の敵だけでなく部屋中にしびれを走らせる。光床は敵を呼び、闇床はアイテム名を隠す。

 コヨリはこども杖を握り、ログルの宝石に映る属性線を目で追った。


「火球、直接禁止」

「はい」

「雷、部屋で禁止」

「自分もしびれます」

「氷、足元禁止」

「滑ります」

「魔法って味方じゃないの?」

「道具です。使い方次第です」

「神様に聞かせたい」


 二十二階、爆ぜ岩が通路の奥にいた。さらにその後ろに盾コボルトが二体。昔なら、貫通小石か火球でまとめて処理したくなる配置だ。けれど、隣接爆風で死んだ記憶が、背中を引っぱる。


「一歩下がる」

「下がり先、罠なし」

「爆風範囲」

「現在位置は危険。後退後は安全」

「よし」


 一手。

 コヨリは一歩下がった。爆ぜ岩はまだ動かない。盾コボルトが一歩進む。次の一手で、ころころ火球を壁に反射させれば、爆ぜ岩の一マス手前で止まる。直接当てるのではなく、床の油を避け、爆風だけを敵へ渡す。


「ログル、火球」

「反射角、問題なし」

「油」

「範囲外」

「爆風」

「勇者様は範囲外」

「撃つ」


 一手。

 小さな火球が床を転がり、壁に当たって角度を変えた。爆ぜ岩の足元で弾け、岩のひびが赤く走る。次の瞬間、爆風が通路を満たした。盾コボルト二体が吹き飛び、コヨリの前髪だけが熱い風で揺れる。


【爆風範囲:確認成功】

【一歩下がろう:更新】


「生きてる!」

「はい」

「火球で生きてる!」

「火球で死ななかった、が正確です」

「差が大きい!」


 二十七階の階段前には、反射床のゴーレムがいた。正面から魔法を撃つと返ってくる。殴るには硬い。逃げるには遅い。

 コヨリは雷の巻物を手に取り、すぐ戻した。


「読まない」

「理由は」

「部屋全体。わたしもいる」

「正解です」


 かわりに霜ふり床を敵の足元ではなく、その一マス後ろへ作る。ゴーレムが一歩進んだ瞬間、足を滑らせ、横の落とし穴へずれた。


「魔法って」

「はい」

「攻撃じゃなくて、床いじりなんだね」

「かなり終盤の理解です」


 階段を降りながら、コヨリは油床を振り返った。

「でも火球で自爆したことは、まだ許してない」

「記録してあります」

「消して」

「最終攻略に役立ちました」

「消せない理由が強い!」


 二十五階では、ルーメの記録が一瞬だけ反応した。壁に、意味ありげな詠唱文が浮かび上がる。とても立派な文字列だが、肝心の効果名が読めない。


「すごい魔法を思い出しました」


 声だけが聞こえた。


「ルーメさん、効果は?」

「何の魔法でしたっけ?」

「深層でそれやめて!」


 コヨリは詠唱を読まない。長い詠唱はターンを食う。満腹度も削る。しかも効果不明。昔なら、派手な魔法に賭けて死んだかもしれない。


「ログル、この詠唱、危険?」

「魔力構文は強いです。ただし、床属性と噛み合っていません」

「強いけど噛み合わない」

「はい。強い事故です」


 かわりにコヨリは、詠唱文の最後だけを利用した。魔法として発動するのではなく、属性床の名前を呼ぶ。火ではない。水でもない。床が今ほしがっている名前は、土。


土塊生成(どかいせいせい)、小さく」


 一手。

 足元の油を避けるように、小さな土の盛り上がりができた。敵の火球がそこへ当たり、火は広がらずに消える。


「魔法、弱く使えた!」

「はい。強く使わない判断です」

「強くないのにえらいって、ちょっと好き」


 火力ではなく、事故を減らすための魔法。コヨリはその感覚を、指先に覚え込ませた。


 二十六階の小部屋で、属性検証卓の記録が床に浮かんだ。拠点で何度も試した、油床と火球、氷床と転倒、雷床としびれ。あの時は反省会テーブルの上で笑えた事故も、ここでは一度で終わる。


「ログル、拠点の検証って、ちゃんと意味あったんだね」

「はい。死亡ログだけでなく、成功ログも反映されています」

「成功ログ棚、えらい」


 床の端に、小さな成功ログが並ぶ。


【火球は油床で撃たない】

【雷は味方がいる部屋で読まない】

【氷床は敵の後ろに作る】

【反射床は正面から殴らない】


 コヨリはそれを声に出して読まなかった。読む時間がもったいないのではない。もう、体が知っているからだ。


 最後に、闇床の上で未識別の杖が光った。拾えば強いかもしれない。闇属性で名前が隠れているから、なおさら気になる。


「拾わない」

「理由は」

「闇床、未識別、階段前。三役そろってる」

「完璧な拒否理由です」


 コヨリは杖を置いて階段を降りた。強いかもしれない杖より、確かな一歩を選ぶ。それも魔法安全確認の一部だった。

【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還最終シード

死亡回数:1100回

クラス:帰還者/勇者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【属性識別 Lv.1】【魔法安全確認 Lv.1】【一歩下がろう Lv.2】【貫通先確認 Lv.3】【総合盤面確認 Lv.4】


【今回の新規獲得・更新】

更新:【属性識別 Lv.1】→【属性識別 Lv.2】/更新:【一歩下がろう Lv.1】→【一歩下がろう Lv.2】


【登場人物紹介】

コヨリ:魔法を火力ではなく盤面操作として使う。/ログル:属性床と爆風範囲を短く補助。/爆ぜ岩:過去の死因から、今回は敵処理装置にされた。


【ローグライクあるある解説】

爆発敵・属性床・反射床の組み合わせ回。強い攻撃ほど自分を巻き込むので、撃つ前の一歩と範囲確認が命を分ける。

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