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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第30章 帰還最終シード――死んだら全部終わります

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帰還最終シード――死んだら全部終わります

帰還最終シード、起動。

今回は死に戻りがありません。

最後だけ仕様が本気で殺しに来ます。

 白い階段は、拠点の床から生えていた。

 扉ではない。穴でもない。床の一部が、九十九枚の薄い紙を重ねたみたいにめくれ、その奥へ青白いマス目が沈んでいる。階段の手前には、ゼルドが腕を組んで立ち、ベルは分厚い書類束を胸に抱え、ネムは受付机ごと少しだけ横へずれていた。


「ネムさん、その机、閉店準備?」

「はい。今回、死亡受付は使えません」

「使えませんって言い方、病院の休診日みたいに言わないで。死んだらどうなるの」

「戻す場所が、帰還門の素材になります」


 空気が一段、重くなった。コヨリは笑おうとして、うまく笑えなかった。

 ログルの額の宝石には、白い文字が浮かんでいる。


【帰還最終シード:起動】

【階層:99F】

【開始状態:Lv1/HP15】

【同行者:ログル】

【通常リスポーン:不可】

【死亡時:拠点接続破棄】

【死因ログ保存:不可】


「死因ログ保存不可!?」

「はい」

「死んでも学べないの!?」

「はい」

「最後だけなんでこんな厳しいんだああああああああああああああああ!」


 叫んでも、階段は消えない。神様の軽い声も聞こえない。いつもの「惜しかったね!」すらない。かわりに、拠点の壁に書いた文字が、淡く光っていた。


【帰る】

【神様の仕様を攻略する】

【持ち帰るんじゃない。つなぐ】

【ログルと帰る】


 コヨリは小さな指で、装備をひとつずつ確認する。死因刻みの短剣、リセット外の小盾、小石袋改、ログル宝石杖。保存壺は小さい。識別の巻物は一枚。眠りの杖は三回。場所替えの杖は二回。おにぎりは二個。

 頼りない。ひどく頼りない。けれど、千百回死んでも残ったものは、最初からステータスではなかった。


「勇者様」

「なに」

「今回は、死ぬ前提で考えられません」

「うん」

「成功ログを増やしに行きましょう」


 ゼルドが黒いマントを払った。

「余は、こちらの門を守る。帰り道を閉じさせぬ」

 ベルが眼鏡を押し上げる。

「主神様への抗議文は、最終版まで整えております。必要なら物理的にも使えます」

「物理的に使える書類、怖いんだけど」

「紙束は重いものです」


 ネムは小さな札を出した。死亡受付番号ではなく、ただの白い札だ。

「使わないでください」

「じゃあ何これ」

「お守りです。気休めです」

「気休めでも、ちょっと嬉しい」


 コヨリは札をポケットに入れ、階段を見る。青白いマス目は、こちらを待っている。行動しなければ、世界は進まない。けれど、いつまでも止まっていれば、帰れない。


「行くよ、ログル」

「はい、コヨリ様」


 一手。

 コヨリが足を下ろした瞬間、拠点の光が背中から遠ざかった。


 階段の光が足首を飲み込む直前、コヨリは振り返った。拠点は、最初に来た時よりずっとにぎやかだった。椅子しかなかった白い部屋には、死因図鑑室の扉があり、反省会テーブルの上には書きかけの地図があり、厨房からはスープの匂いが残っている。酒場のカウンターには、リュシアが置いた小さなコップが伏せてあった。もちろん、中身は子ども用の甘い果実水だ。


 魔物休憩所のほうで、ピヨラの記録札が小さく震えた。思い出ログ棚の引き出しは半分だけ開き、ミーナのパンの匂いとカイの木剣の手触りが、見えない糸になってコヨリの背中へ伸びている。全部を持っていくことはできない。けれど、置いていくわけでもない。


「持ち物欄、いっぱい?」

「はい。物理的には、ほぼいっぱいです」

「心の欄は?」

「表示できません」

「じゃあ無限ってことにする」

「神様なら否定しそうです」

「もう神様の表示は信じない」


 ベルが小さく咳払いした。

「勇者様、心の欄にも整理は必要です。後で書式を作ります」

「そこまで管理されるの!?」

「無限欄ほど事故りますので」


 そのやり取りで、少しだけ怖さが薄まった。完全には消えない。消えなくていい。怖いまま進むのが、たぶん今の正解だった。


 階段の第一段に足を置いた時、コヨリの視界の端に、停止した千回カウンター(せんかいカウンター)が映った。千百回の数字は、もう増えない。増やしてはいけない。数字に追われていたはずなのに、止まった数字のほうが怖いなんて、変な話だ。


「ログル、もし怖くなったら」

「はい」

「怖いって言う」

「はい」

「ログルもね」

「ぼくも、ですか」

相棒パートナーだから」


 ログルは少し遅れて、こくりとうなずいた。攻略の相談だけでは足りない。怖さも共有する。それが、荷物ではない同行者の条件なのだと、コヨリは思った。

【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還最終シード

死亡回数:1100回

クラス:帰還者/勇者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【危険察知 Lv.4】【足元確認 Lv.5】【未識別警戒 Lv.5】【総合盤面確認 Lv.4】【一フレームの神様 Lv.3】【帰還接続管理 Lv.2】


【今回の新規獲得・更新】

更新なし。帰還最終シード突入により、通常リスポーン不可条件が発生。


【登場人物紹介】

コヨリ:最後だけ死ねない幼女勇者。怖いが逃げない。/ログル:同行者本承認前の相棒。死亡ログではなく成功ログを目指す。/ゼルド・ベル・ネム:拠点側から帰還を支える大人たち。


【ローグライクあるある解説】

最終ダンジョンの持ち込み制限回。強い装備で戦うのではなく、限られた杖・巻物・食料・所持枠で生存するのがローグライク終盤の緊張感。

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