ログル初期化命令――相棒を返せ
ログルに、最悪の命令が下ります。
初期化、返却、端末復帰。
コヨリは全部拒否します。
それは、面談室を出た直後だった。
ログルの宝石が、白く染まった。
いつもの虹色ではない。解析中の青でも、警告の赤でもない。何も混ざっていない、空っぽみたいな白。コヨリは一瞬で嫌な予感を覚え、ログルを抱き上げた。
「ログル?」
「......」
「ログル!」
返事がない。
管理画面が勝手に開く。
【ログル初期化命令】
【理由:勇者への過剰感情形成】
【処理:神様側端末へ復帰】
【実行まで:三ターン】
「三ターン!?」
白い床に、青いマス目が走った。
拠点なのに、危険地帯みたいに空気が重くなる。コヨリの行動に合わせて、命令実行までのカウントが進むらしい。神様の管理画面が、最後の最後でローグライク処理を悪用してきた。
「神様ァ! ターン制をこういうことに使うなああああああああああ!」
【残り三ターン】
ログルの口が、ゆっくり開いた。
「対象、勇者コヨリ。死亡ログを......」
冷たい声。
第310話で聞いた、初期のログルの声。
コヨリは、胸の奥がぎゅっと痛くなった。
「対象じゃない」
コヨリはログルを抱きしめる。大声を出せばターンを消費するかもしれない。けれど、今は黙っていられなかった。
「わたし、コヨリ」
【残り二ターン】
床の白い線が、ログルの宝石へ伸びる。
ベルが走り込んできた。手には分厚い書類。
「勇者様、こちらへ!」
「ベルさん!」
「ログル様人格分類訂正申請書、即時提出します!」
ベルは書類束を管理画面へ叩きつけた。
【異議申立:提出】
【処理待ち】
「処理待ちって何!?」
「神様側の受付が遅いです」
「こんな時だけ役所みたいになるなあああああ!」
ゼルドが黒い魔力で白い線を踏みつける。
「余の領域内で、勝手に部下を回収するな」
「魔王さん、ログルは部下じゃないよ!」
「ならば、同盟者だ」
白い線が一瞬止まる。
【魔王権限:干渉】
【初期化処理:遅延】
【残り一ターン】
ネムがいつもの眠そうな顔で現れた。けれど、手には死亡記録簿ではなく、黒い受付印を持っている。
「死亡受付側から、ログルさんの死亡ログ改ざん記録を提出します」
「ネム、それ大丈夫なやつ?」
「大丈夫ではないですが、今やらないと面倒です」
「面倒で神様に逆らう死神、強い!」
ネムが印を押す。
【反証:自発的意思あり】
【反証:勇者保護行動あり】
【反証:主神命令への抵抗あり】
それでも、白い線は止まりきらない。
ログルの宝石から、初期音声が漏れる。
「対象、勇者コヨリ。死亡ログを送信......」
「違う!」
コヨリはログルの顔を両手で包んだ。
「あなたはログル」
「......」
「端末じゃない」
「......」
「相棒」
白い光の中で、ログルの目がほんの少しだけ揺れた。
「コ、ヨリ......様」
声が戻る。
コヨリは、泣きそうになった。けれど泣くと視界がにじむ。深層なら危ない。今は泣くより、言う。
「帰るよ」
「......はい」
「一緒に」
「はい」
管理画面が大きく震えた。
【ログル分類:神様側貸与端末】
【異議申立:受理】
【反証資料:有効】
【再分類:相棒】
【承認:仮】
「仮!?」
コヨリの怒りが戻った。
「ここまでやって仮なの!?」
「本承認には、主神権限の解除が必要です」
「つまり神様を殴る?」
「はい」
「よし、殴る」
ログルが、弱々しくもいつもの声で言った。
「経験値は出ません」
「今それ言う元気あるなら大丈夫!」
ベルが書類を整え、ゼルドが魔力を収め、ネムが受付印をしまう。
ログルは、コヨリの腕の中で目を閉じた。
「コヨリ様」
「なに」
「ぼくは、相棒でいたいです」
「知ってる」
コヨリはログルを抱いたまま、管理画面を睨んだ。
「神様。次に会ったら、まずログルの分」
白い画面は答えなかった。
けれど、殴る順番は決まった。
初期化命令が止まったあと、床には白い亀裂が残っていた。コヨリはそれを踏まないよう、チョークで丸をつける。
「危険マス」
「拠点内ですが」
「神様が触った場所は危険マス」
「否定できません」
ベルがその丸の横に、正式な札を立てた。
【ログル初期化未遂地点】
【無断処理禁止】
ゼルドが見て、深くうなずく。ネムも、眠そうに受付印を押した。拠点にまた一つ、嫌な記録が増えた。けれど、それは守った記録でもあった。
ログルは、初期化未遂地点の札をじっと見た。
「ここも、記録になるのですね」
「なる」
「嫌な記録です」
「うん。でも、勝った記録でもある」
コヨリがそう言うと、ログルの耳が少しだけ上がった。初期化されかけた場所は、相棒として踏みとどまった場所でもある。嫌なログでも、全部が負けではない。
【今回の勇者ステータス】
現在シード:管理画面シード/ネタバレシード
死亡回数:1100回(この話では増加なし)
クラス:帰還者/死因学者/拠点管理人 複合状態
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
獲得済み主要スキル:【危険察知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.3】【足元確認 Lv.3】【射線確認 Lv.2】【満腹度管理 Lv.2】【帰還接続管理 Lv.1】【相棒再分類拒否 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
更新:【相棒再分類拒否 Lv.1】→【相棒再分類拒否 Lv.2】
拠点施設:【椅子】【死因図鑑室】【鑑定机】【厨房】【思い出ログ棚】【罠訓練場】【魔物休憩所】【シード地図室】【反省会テーブル】【拠点酒場】【魔王相談窓口】【魔王軍資料室】【死因研究室】【仕様書保管棚】【一フレーム道場】【帰還門建設予定地】【管理画面の扉】
【登場人物紹介】
・この話の焦点:ログル初期化命令を、全員の一手で止めるカウントダウン回です。
・コヨリ:神様の仕様書を読む側に回った幼女勇者。怒りと怖さを抱えつつ、帰る意志だけは曲げない。
・ログル:解析神獣。端末扱いから相棒へ再分類されつつある。冷静だが、もう完全に情がある。
・ベル:魔王軍秘書。正式抗議文で神様を詰める有能事務担当。書類は物理的にも重い。
・ゼルド:魔王。ラスボス役を押しつけられていた被害者代表。怒り方が静かで怖い。
・ネム:死神受付。淡々としているが、最終シードの死亡処理にはいつもより慎重。
【ローグライクあるある解説】
三ターン以内に妨害するカウントダウン処理。ターン制を管理画面側が悪用し、書類・魔王権限・受付印を打開アイテムとして使う回です。
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