千回死亡の理由――世界を救うための最悪の検証
コヨリの死亡ログが、何に使われていたのかが明かされます。
世界を救う目的は本物。
でも、それで許される話ではありません。
アドミニスが開いた画面には、地図ではなく、手順が並んでいた。
ただの手順ではない。勇者召喚から、死亡ログ収集、シード差分照合、拠点成長、帰還門建設、世界種外部保存まで、全部が一本の線でつながっている。コヨリはそれを見て、まず眉を寄せた。
「これ、攻略チャート?」
「うん。大雑把には」
「神様が作った攻略チャート、信用度低い」
「返す言葉がないね」
返す言葉はないらしい。珍しい。普段なら「仕様だよ」とか「可能性はあるよ」とか軽く流すところなのに、今日は流さない。
画面の最初には、こうあった。
【目的:滅亡しないシードの探索】
【手段:勇者死亡ログによる失敗分岐除外】
【必要適性:記憶保持/死因学習/帰還意志/諦めにくさ】
「諦めにくさって、何」
「きみのことだよ」
「ほめてる?」
「ほめてる」
「今ほめられても、殴る予定は変わらない」
「うん」
次の項目が開く。
【死因ログ用途】
【一、勇者の死亡原因記録】
【二、シード崩壊点の推定】
【三、帰還因子残存率の照合】
【四、ログル同行可能性の抽出】
【五、世界種形成の進行確認】
コヨリは、手をぎゅっと握った。
「わたしを使って、世界のデバッグしてたの?」
アドミニスは、すぐに答えなかった。
それだけで、答えは分かる。
「......うん」
短い返事だった。
「それは勇者じゃなくてテスターの仕事!」
「うん」
「しかも、命がけのテスター!」
「うん」
「説明なし!」
「うん」
「報酬なし!」
「うん」
「ログルも端末扱い!」
「うん」
「魔王さんはラスボス役固定!」
「うん」
「ミーナさんたちは役割扱い!」
「うん」
「うんしか言わない!」
「言い訳したら、もっと悪いと思って」
コヨリは口を閉じた。
たしかに、今言い訳されたら、もっと怒っていたかもしれない。アドミニスが「でも世界のためだから」と言ったら、机を乗り越えて殴っていた。まだ殴らない。殴る場所は、もう決めている。
画面には、死亡回数ごとの成果が出ている。
【死亡回数100:未識別警戒安定】
【死亡回数300:拠点施設群形成】
【死亡回数500:魔王側異議申立発生】
【死亡回数800:ログル感情形成】
【死亡回数1000:世界種安定候補】
【死亡回数1100:帰還門仮接続成功】
「死にすぎ」
「はい」
「これ、普通の勇者なら心折れるよ」
「だから、きみしかいなかった」
「そこ、きれいな言い方にしないで」
アドミニスは、目を伏せた。
「そうだね。きみしかいなかった、じゃない。僕が、きみを選んだ」
白い部屋が静かになる。
コヨリは、アドミニスを見た。
「選ばれたくなかった」
「うん」
「でも、今ここまで来たのは、わたしの一手」
「うん」
「ログルを相棒にしたのも、わたし」
「うん」
「魔王さんと話したのも、ベルさんに書類出してもらったのも、ネムに怒られたのも、ミーナさんたちを覚えてるのも、わたし」
「うん」
コヨリは息を吸った。
「だから、神様の計画通りって言われるのは嫌」
「言わない」
「言ったら殴る回数増やす」
「言わないよ」
ログルの宝石が、画面の下部を照らす。
【帰還最終条件:準備中】
【必要処理:死亡ログ圧縮核】
【必要処理:世界種接続】
【必要処理:ログル再分類本承認】
【必要処理:主神権限解除】
「主神権限解除?」
「最後に、僕を倒す必要がある」
アドミニスが言った。
コヨリは、ぱちぱち瞬きした。
「倒す?」
「うん」
「神様を?」
「うん」
「経験値出る?」
「出ない」
「そこ即答!?」
ログルが冷静に補足する。
「神様は経験値対象外です」
「千回以上死なされたラスボスが0EXPなの、納得いかない!」
アドミニスは、少しだけ苦笑した。
「でも、ドロップは出すよ」
「何」
「謝罪文、帰還門本起動権限、ログル同行本承認」
「先に出して」
「倒されないと出せない」
「ドロップ仕様、腹立つううううううう!」
コヨリは机に額をぶつけそうになった。ぶつけたらターン消費ではないが、精神が減る。
画面の最後に、赤い文字が浮かぶ。
【帰還最終シード:99F】
【死亡時:通常リスポーン不可】
コヨリの叫びは、次の部屋まで響いた。
画面の端に、コヨリ自身の手書きメモが重なった。反省会テーブルに何度も書いた言葉だ。
【次は、死なない】
それは何百回も破られた約束だった。けれど、破られるたびに捨てたわけではない。書き直した。少し言い方を変えた。時々泣きながら、時々怒りながら、また壁に貼った。
「わたし、約束破りまくってる」
「でも、捨てていません」
ログルの言葉に、コヨリは小さくうなずいた。
アドミニスは、そこで初めてコヨリから目をそらした。
「僕は、きみが怒る権利を軽く見ていた」
「うん」
「死んでも戻るなら、取り返しがつくと思っていた」
「つかないよ」
「うん。つかなかった」
短い会話だった。けれど、コヨリはその一言を、謝罪文の一行目に書かせようと決めた。
【今回の勇者ステータス】
現在シード:管理画面シード/ネタバレシード
死亡回数:1100回(この話では増加なし)
クラス:帰還者/死因学者/拠点管理人 複合状態
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
獲得済み主要スキル:【危険察知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.3】【足元確認 Lv.3】【射線確認 Lv.2】【満腹度管理 Lv.2】【帰還接続管理 Lv.1】【相棒再分類拒否 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【神様に説明を求める Lv.1】
拠点施設:【椅子】【死因図鑑室】【鑑定机】【厨房】【思い出ログ棚】【罠訓練場】【魔物休憩所】【シード地図室】【反省会テーブル】【拠点酒場】【魔王相談窓口】【魔王軍資料室】【死因研究室】【仕様書保管棚】【一フレーム道場】【帰還門建設予定地】【管理画面の扉】
【登場人物紹介】
・この話の焦点:千回死亡の理由を明かしつつ、テスター扱いへの怒りを残します。
・コヨリ:神様の仕様書を読む側に回った幼女勇者。怒りと怖さを抱えつつ、帰る意志だけは曲げない。
・ログル:解析神獣。端末扱いから相棒へ再分類されつつある。冷静だが、もう完全に情がある。
・アドミニス:主神。世界を救いたかった目的は本物だが、説明不足と死亡ログ運用が最悪すぎるクソ運営。
【ローグライクあるある解説】
死亡ログをデバッグチャートとして可視化。死に覚えが強さではなく分岐除外になる、という作品の根幹を最終攻略条件へ接続します。
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