アドミニス面談――軽い神様の重い本音
アドミニス本人と、ようやく正面から話します。
軽い神様の口から、軽くない本音が出ます。
でも謝罪はまだ足りません。
アドミニスとの面談室は、白すぎた。
床も壁も天井も白い。机も椅子も白い。窓はない。逃げ道もない。いや、神様相手に逃げ道がどうとか言うのも変だけれど、コヨリはまず出口を探した。ローグライクの癖だ。部屋に入ったら出口、敵、罠、アイテム、射線。神様との面談でも基本は変わらない。
「出口を探してる?」
向かいの椅子に、アドミニスが座っていた。
白い神官服。中性的な顔。いつもの笑顔。けれど、二十八章の管理画面で見た時よりも、少し疲れている。白い部屋の中で、アドミニスだけが、うっすら影を落としていた。
「探してる」
「僕、攻撃しないよ」
「初見殺しの神様が言っても信用できない」
「ひどいなあ」
「千百回死んでる幼女の発言だから、重く受け止めて」
アドミニスは、苦笑した。
ログルはコヨリの隣にいる。ベルの正式抗議文の控え、ネムの受付外通行証、ゼルドの役割表への異議申立。全部、コヨリの近くにある。武器ではない。けれど、ここでは武器より効く。
「世界を救いたかったんだ」
アドミニスは、いきなりそう言った。
コヨリは瞬きをした。
「知ってる」
「え」
「もう見た。滅亡シード群も、検証ログも、仕様書も」
「そっか」
アドミニスは、少しだけ肩を落とした。
「本当は、きみに見せるつもりじゃなかった」
「それがだめ」
「うん」
「見せるつもりじゃないものを、わたしの死亡ログで作らないで」
「うん」
アドミニスの返事は短い。
いつもの「バグじゃないよ。仕様だよ」も、「今回は惜しかったね」もない。軽い言葉を出す余裕がないのか、出してはいけないと分かっているのか。コヨリにはまだ分からない。
「きみなら、何度死んでも戻ってこられると思った」
アドミニスが言う。
「戻りたくて戻ったんじゃない」
コヨリはすぐに返した。
「痛かった」
「うん」
「怖かった」
「うん」
「帰りたかった」
「うん」
「初死亡おめでとうって言われたの、まだ怒ってる」
「......うん」
白い部屋に、沈黙が落ちた。
ログルが隣で少し身じろぎする。アドミニスはログルを見た。
「ログルも、変わったね」
「はい」
「僕の端末だったのに」
「今は違います」
ログルの声は震えなかった。
「ぼくは、コヨリ様の相棒です」
アドミニスは目を細めた。寂しそうにも、嬉しそうにも見える。ずるい顔だ、とコヨリは思った。
「そっか。うん。そうだね」
コヨリは机に手を置いた。
「神様」
「なに」
「世界を助けたかったのは、わかった」
「うん」
「でも、わたしを説明なしで千回以上死なせていい理由にはならない」
「うん」
「ログルを端末扱いしていい理由にもならない」
「うん」
「魔王さんを便利なラスボスにしていい理由にもならない」
「うん」
「ミーナさんやカイを、役割って呼んでいい理由にもならない」
「うん」
アドミニスは、全部うなずいた。
「ごめん」
コヨリは片手を上げた。
「それ、最後まで取っておいて」
「なんで?」
「みんなで殴る時に使う」
アドミニスは、少しだけ目を丸くした。
「殴るの?」
「殴る」
「僕、神様だから死なないよ」
「知ってる。死なないけど、ちゃんと負けてもらう」
ログルが横から小さく言った。
「経験値は出ないと思います」
「そこ今言う!?」
「重要情報です」
「0EXPラスボス、腹立つなあ!」
アドミニスが、ほんの少し笑った。今までの軽い笑いではない。負けを認め始めた人の笑いだった。
「勇者ちゃん」
「なに」
「助けてほしい」
コヨリは黙った。
最初からそう言えばよかったのに、と思う。何度も思う。今でも思う。けれど、今言ったことは、聞こえなかったふりをしない。
「最初から、そう言って」
「うん」
面談室の奥に、最後の条件画面が開いた。
【帰還最終シード条件:開示待ち】
コヨリは深呼吸する。
「見る」
アドミニスは、止めなかった。
面談室の机の下に、コヨリは罠がないか一度だけ覗いた。アドミニスは少し困った顔をしたが、何も言わなかった。
「神様の部屋でも確認するんだね」
「する。信用と罠確認は別」
「名言みたいだ」
「名言じゃなくて死因対策」
アドミニスは、その返しに少しだけ息を吐いた。笑ったのではない。たぶん、ようやく自分がどれだけ信用を削ったのか、目の前で見せられているのだ。
コヨリは、アドミニスの笑顔を見ながら思った。嫌いだ。まだ嫌いだ。でも、全部嫌いではないところが腹立たしい。世界を救いたかった気持ちは、たぶん本物だからだ。
「神様」
「なに」
「わたし、理解はする」
「うん」
「許すかは別」
「うん」
アドミニスは、その別をちゃんと受け取った顔をした。
【今回の勇者ステータス】
現在シード:管理画面シード/ネタバレシード
死亡回数:1100回(この話では増加なし)
クラス:帰還者/死因学者/拠点管理人 複合状態
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
獲得済み主要スキル:【危険察知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.3】【足元確認 Lv.3】【射線確認 Lv.2】【満腹度管理 Lv.2】【帰還接続管理 Lv.1】【相棒再分類拒否 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【主神面談 Lv.1】
拠点施設:【椅子】【死因図鑑室】【鑑定机】【厨房】【思い出ログ棚】【罠訓練場】【魔物休憩所】【シード地図室】【反省会テーブル】【拠点酒場】【魔王相談窓口】【魔王軍資料室】【死因研究室】【仕様書保管棚】【一フレーム道場】【帰還門建設予定地】【管理画面の扉】
【登場人物紹介】
・この話の焦点:アドミニスが言い訳ではなく短い謝罪に近づく面談回です。
・コヨリ:神様の仕様書を読む側に回った幼女勇者。怒りと怖さを抱えつつ、帰る意志だけは曲げない。
・ログル:解析神獣。端末扱いから相棒へ再分類されつつある。冷静だが、もう完全に情がある。
・アドミニス:主神。世界を救いたかった目的は本物だが、説明不足と死亡ログ運用が最悪すぎるクソ運営。
【ローグライクあるある解説】
ラスボス前会話を、出口・罠・射線確認の癖から始めています。対話でも安全確認するのが、死に覚え幼女勇者の成長です。
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