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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第29章 ネタバレシード――神様の仕様書を読みに行きます

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ショート幕間 ネムの受付外処理――死んでも戻せない死

ネムが、最後の死亡処理を説明します。

いつもの受付ノリで始まるのに、内容はまったく笑えません。

死んでも戻れる物語で、戻れない条件が出ます。


 死神ネムの受付は、今日も眠そうだった。


 黒いパーカーの袖から、白い指が少しだけ出ている。机の上には、いつもの受付札。湯気の立つお茶。死亡記録簿。あと、なぜか「練習用」と書かれた小さな番号札が置かれていた。


「死亡受付番号、コヨリさん」

「まだ死んでない!」

「練習です」

「練習で受付番号出さないで!」


 ネムは、番号札を引っ込めない。むしろ、静かにもう一枚出した。


「予備です」

「予備もいらない!」

「最後の処理は、失敗できないので」


 その一言で、コヨリの抗議が止まった。


 ネムはいつも、死を軽く扱う。常連様ですね、とか、今回も調子に乗った死です、とか、定時内にお願いします、とか。だからこそ、ネムが真面目な声を出すと、拠点の空気が少しだけ冷える。


「最後の処理って、帰還最終シードのこと?」

「はい」

「死んだら戻れないやつ?」

「正確には、通常の戻し先が使えません」

「それ、戻れないってことじゃん」

「はい」


 ネムは死亡記録簿を開いた。


【通常死亡処理】

【死亡確認】

【死因ログ作成】

【シード終了】

【拠点帰還】

【レベル・経験値・未登録品ロスト】

【拠点記録保存】


「いつものやつだ」

「はい。いつものやつです」

「いつものやつって言えるくらい死んでるの、つらい」

「常連様ですので」

「嬉しくない常連!」


 ネムは、次のページを開く。


【帰還最終シード死亡時】

【通常リスポーン:不可】

【拠点帰還:不可】

【死因ログ保存:不可】

【ログル同行権:消失】

【帰還門接続:破棄】

【世界種安定:未保証】


 コヨリは、しばらく文字を読んだ。


 読めているのに、意味が遅れてくる。


「死因ログ保存不可?」

「はい」

「死んでも、次の学習にならない?」

「はい」

「拠点帰還不可?」

「はい」

「死んだら、帰る場所がない?」

「はい」


 ネムは、嘘をつかなかった。


「戻す場所を、帰還門の素材に使うからです」


 コヨリの手が、冷たくなる。


 死ぬのは嫌だ。今までも嫌だった。でも、死んだら戻れるという前提があった。レベルは消える。装備も落とす。持ち帰れなかったアイテムは泣くほど悔しい。けれど、拠点は残った。ログルがいた。死因図鑑室が増えた。次は一手だけましになった。


 その全部が、使えない。


「神様、最後だけジャンル変えてない?」

「むしろ、古いローグライクに近いかもしれません」

「ネムまで嫌な説得力出さないで!」


 ログルが小さく言う。


「死亡したら、通常の死因学習ができません。なので、事前に全部学習しておく必要があります」

「全部って何」

「未識別、満腹度、罠、射線、倍速、三倍速、時間停止、思考割込、神域干渉、ログル保護、帰還鍵使用判断」

「並べるなあああああ! 怖いものリスト作るなあああああ!」


 ネムは淡々と、別の紙を差し出した。


【死亡受付外処理に関する注意】

【失敗時、受付側からの救済不可】


「ぼくも、迎えに行けません」


 その言葉が、一番重かった。


 コヨリは、ネムを見た。いつも眠そうで、事務的で、死にすぎるコヨリを常連扱いする死神。けれど、迎えに来られないと言うネムの顔は、少しだけ困っていた。


「ネム」

「はい」

「使わないようにする」

「それが一番です」

「死亡受付、休んでて」

「定時退勤できます」

「そこは嬉しそうでいいんだ」


 少しだけ笑えた。


 ネムは、最後に小さな札をコヨリへ渡した。


【受付外通行証】


「これは?」

「死ぬための札ではありません。死なないために、死亡処理の穴を一度だけ見られる札です」

「穴を見る?」

「危ない場所が、少しだけ分かります」


 ログルの宝石が反応する。


【神域死亡処理警戒:仮登録】


「ネム、ありがとう」

「死なないでください」

「うん」

「できれば、定時内に帰ってきてください」

「最後だけ急にいつものネム!」


 コヨリは札を胸にしまった。


 死んでも戻れない。


 その言葉は怖い。でも、怖いからこそ、ちゃんと準備する。


ネムは受付外通行証の裏に、小さな注意書きを足した。


【使う前に深呼吸】


「それ、スキル名みたい」

「死亡処理でも、焦る人は失敗します」

「死神の言う焦る人、説得力が重い」


 コヨリは通行証を裏返し、文字を指でなぞった。深呼吸。簡単だ。だから、忘れる。HP1で敵が隣にいて、満腹度が尽きかけて、ログルが危険な顔をしている時ほど、簡単なことから消える。


「覚えとく」


受付の奥では、いつもの死亡ログ棚が静かに閉じていた。ネムはその棚に鍵をかける。


「最後の間は、ここを開けない予定です」

「死なないから?」

「はい」

「じゃあ、閉店札出して」


 ネムは少し考え、棚に【本日死亡受付休止希望】という札を貼った。


「希望なんだ」

「確定ではないので」

【今回の勇者ステータス】

現在シード:管理画面シード/ネタバレシード

死亡回数:1100回(この話では増加なし)

クラス:帰還者/死因学者/拠点管理人 複合状態

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【危険察知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.3】【足元確認 Lv.3】【射線確認 Lv.2】【満腹度管理 Lv.2】【帰還接続管理 Lv.1】【相棒再分類拒否 Lv.1】

【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【神域死亡処理警戒 Lv.1】

拠点施設:【椅子】【死因図鑑室】【鑑定机】【厨房】【思い出ログ棚】【罠訓練場】【魔物休憩所】【シード地図室】【反省会テーブル】【拠点酒場】【魔王相談窓口】【魔王軍資料室】【死因研究室】【仕様書保管棚】【一フレーム道場】【帰還門建設予定地】【管理画面の扉】


【登場人物紹介】

・この話の焦点:死神ネムが、戻れない死亡処理の怖さを淡々と告げます。

・コヨリ:神様の仕様書を読む側に回った幼女勇者。怒りと怖さを抱えつつ、帰る意志だけは曲げない。

・ログル:解析神獣。端末扱いから相棒へ再分類されつつある。冷静だが、もう完全に情がある。

・ネム:死神受付。淡々としているが、最終シードの死亡処理にはいつもより慎重。


【ローグライクあるある解説】

死亡時リスポーン不可を、拠点を素材にする設定へ接続。恒久ロストやセーブ不能の緊張を、死因ログ保存不可として作品の核に置いています。


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