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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第29章 ネタバレシード――神様の仕様書を読みに行きます

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ログル個体記録――端末だった相棒

ログルの初期設定が開きます。

相棒は、最初から相棒だったわけではありません。

だからこそ、今のログルが大事です。

 ログル個体記録は、仕様書保管棚の一番奥にあった。


 薄い冊子ではない。透明な箱だ。中に、ログルの額の宝石とよく似た、小さな光の欠片が浮いている。欠片は規則正しく明滅し、まるで心臓みたいに見えた。コヨリはそれを見て、少しだけ嫌な顔をした。


「ログルの予備パーツみたいで嫌」

「予備ではありません。初期個体記録だと思われます」

「初期個体記録って、もっと嫌な言い方ないの?」

「ありますが、言わないほうがよさそうです」

「言わないで」


 箱に近づくと、勝手に表示が出た。


【解析神獣ログル】

【用途:勇者死亡ログ取得】

【報告先:主神アドミニス】

【人格形成:非推奨】

【反抗兆候:監視対象】


 ログルは、何も言わなかった。


 コヨリは、すぐに箱から目をそらしたくなった。けれど、ログルが見ている。なら、自分も見る。相棒の嫌な設定を、相棒だけに読ませるのはもっと嫌だった。


「用途って、何」

「記録上の役割です」

「ログルは道具じゃない」

「今は、そう言っていただけます」

「今はじゃなくて、今もこれからも」


 光の欠片が揺れた。


 初期のログルの声が流れる。


「対象、勇者コヨリ。死亡ログ取得。死因、黒狼による即死。評価、初見殺し」


 冷たい声だった。


 今のログルより、ずっと機械に近い。コヨリは、その声を聞いて胸がちくりとした。怒りではない。寂しさに近い。


「ぼくは、最初から相棒だったわけではありません」


 今のログルが、小さく言った。


「うん」

「勇者様を、記録対象として見ていました」

「うん」

「死因を、データとして送っていました」

「うん」


 コヨリは、ログルの隣にしゃがんだ。


「でも今は違うでしょ」


 ログルの耳が、わずかに動いた。


「はい」

「今は、わたしが未識別の草を食べようとしたら止める」

「はい」

「宝箱が呼吸してたら教える」

「はい」

「わたしが死ぬ前提で話すの、ちょっと嫌がる」

「......はい」

「撫でると黙る」

「それは記録しないでください」


 コヨリは、そっとログルの頭を撫でた。ログルは一瞬だけ目を細め、それから慌てて真面目な顔に戻った。


 箱の中の記録が、次々に流れる。


【死亡ログ送信:完了】

【死亡ログ送信:完了】

【死亡ログ送信:遅延】

【死亡ログ送信:一部改ざん】

【死亡ログ送信:主神への表現変更】


「改ざん?」

「......少しだけです」

「何を変えたの」

「勇者様が怖がっていた、という記録を、神様に見せたくなかった時があります」


 コヨリは言葉を失った。


 ログルは続けた。


「死因は送りました。でも、全部は送りませんでした。勇者様が泣いたこと、震えていたこと、帰りたいと言ったあと黙ったこと。神様が見ても、たぶん分からないと思ったので」


 箱の表示が赤く変わる。


【反抗兆候:確認】

【勇者への過剰感情形成】

【初期化候補】


 コヨリは箱の前に立った。


「初期化しない」

「まだ命令は出ていません」

「出たら折る」

「箱をですか」

「命令を」


 ログルは、少しだけ笑ったように見えた。


 その時、箱の底に、小さな未送信ログがあることに気づいた。ログルの宝石が反応し、文字が浮かぶ。


【未送信ログ】

【内容:成功ログを増やしたい】


 コヨリは、それを読んで、喉の奥が熱くなった。


「ログル」

「はい」

「これ、いつの?」

「たぶん、ぼくが初めて死亡ログではなく成功ログを望んだ時です」

「送らなかったの?」

「神様に見せたくありませんでした」


 コヨリは、今度は強めにログルを抱いた。


「苦しいです」

「ちょっと我慢」

「はい」


 箱の表示が、ゆっくり書き換わる。


【分類:神様側貸与端末】

【異議申立:蓄積中】

【再分類候補:相棒】


「候補じゃない」


 コヨリは、はっきり言った。


「ログルは相棒」


 箱の中の光が、少しだけ虹色に戻った。


 ログルは、コヨリの腕の中で小さく息を吸う。


「ぼくは、コヨリ様を死なせたくありません」

「うん」

「記録対象ではなく」

「うん」

「ぼくの勇者として」


 コヨリは、少しだけ笑った。


「じゃあ、相棒として最後まで来て」

「はい」


 箱の蓋が、静かに閉じた。


初期記録の最後には、短い空白があった。送信されなかったログの残りだ。ログルはそこへ宝石を近づけたが、すぐには読まなかった。


「怖い?」

「はい」

「じゃあ、一緒に見る」


 コヨリが隣に座ると、空白に文字が浮かんだ。


【未送信理由:知られたくなかった】


 たったそれだけだった。けれど、端末が何かを知られたくないと思った時点で、それはもうただの端末ではない。コヨリは何も言わず、ログルの背中をもう一度撫でた。


箱の側面には、初期ログルの鑑定精度も記録されていた。宝箱ミミック、未識別草、罠床、属性床。最初の頃は、かなり正確に警告している。


「ログル、最初から有能だったんだね」

「機能としては」

「今は?」

「相棒として、有能でありたいです」

「よし。言い方が百点」


 コヨリが親指を立てると、ログルは少しだけ胸を張った。


【今回の勇者ステータス】

現在シード:管理画面シード/ネタバレシード

死亡回数:1100回(この話では増加なし)

クラス:帰還者/死因学者/拠点管理人 複合状態

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【危険察知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.3】【足元確認 Lv.3】【射線確認 Lv.2】【満腹度管理 Lv.2】【帰還接続管理 Lv.1】【相棒再分類拒否 Lv.1】

【今回の新規獲得・更新】

更新:【相棒同行意志 Lv.1】→【相棒再分類拒否 Lv.1】

拠点施設:【椅子】【死因図鑑室】【鑑定机】【厨房】【思い出ログ棚】【罠訓練場】【魔物休憩所】【シード地図室】【反省会テーブル】【拠点酒場】【魔王相談窓口】【魔王軍資料室】【死因研究室】【仕様書保管棚】【一フレーム道場】【帰還門建設予定地】【管理画面の扉】


【登場人物紹介】

・この話の焦点:ログルの過去ログを読み、端末から相棒への変化を確認します。

・コヨリ:神様の仕様書を読む側に回った幼女勇者。怒りと怖さを抱えつつ、帰る意志だけは曲げない。

・ログル:解析神獣。端末扱いから相棒へ再分類されつつある。冷静だが、もう完全に情がある。


【ローグライクあるある解説】

補助AI・鑑定役が単なる便利道具ではなく相棒になる回。道具分類から同行者分類へ変えることで、最終ダンジョンの同行者枠問題に直結します。


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