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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第29章 ネタバレシード――神様の仕様書を読みに行きます

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帰還門建設予定地――門ではなく種です

帰還門建設予定地の正体が見えます。

拠点は死後待機室ではなく、リセットされない世界の種でした。

帰ることは、逃げることだけではありません。


 帰還門建設予定地は、前より静かだった。


 いつもなら、床の中央に白い円があり、その奥に元の世界の気配が薄く揺れている。けれど、管理画面側から戻ってきたコヨリの目には、その円が門に見えなかった。


 根だった。


 白い床の下へ、光の根が伸びている。椅子へ。死因図鑑室へ。思い出ログ棚へ。厨房へ。魔物休憩所へ。魔王相談窓口へ。仕様書保管棚へ。一つずつの施設に根が刺さり、そこからさらに、消えたシードの記録へ細い糸が伸びている。


「ログル」

「はい」

「これ、門じゃないね」

「はい」

「植物?」

「分類上は、世界種です」

「世界、種から生えるの?」

「少なくとも、神様の管理画面ではそのように表示されています」


 床に文字が浮かぶ。


【拠点分類:死後待機室】

【偽装分類:解除】

【本来分類:リセット外世界種】


 コヨリはその文字を見下ろし、しばらく黙った。


 死後待機室。


 たしかに、そうだった。死んだら戻る。ネムが受付をして、ログルが死因を記録して、コヨリが椅子に座って文句を言う。神様のクソゲーに付き合わされるための控え室。そう思っていた。


 けれど、本当は違った。


 戻るたび、残っていた。


 誰も覚えていないシードのことを、拠点だけは覚えていた。死んだ理由も、出会った人も、食べたスープも、魔王の苦情も、ベルの書類も、ログルの小さな心配も、全部。


「じゃあ、わたしが死ぬたびに、ここが育ってた?」

「はい」

「死んで育つ世界、嫌すぎる」

「かなり嫌です」


 ログルは、コヨリの隣に座った。カーバンクル型の小さな体を、帰還門の白い円に近づけすぎないようにしながら。


「本来、拠点は勇者様の待機場所でした。けれど、死因ログ、思い出ログ、帰還因子、魔王側記録が増えすぎたことで、神様の想定分類から外れています」

「神様の想定から外れるの、だいたい良いことな気がしてきた」

「今回は、かなり良いことです」


 管理画面の奥で、別の説明が浮かんだ。


【帰還門用途:元世界座標への接続】

【隠し用途:滅亡シード記録の外部保存】

【必要条件:帰還者/同行者/世界種/記憶因子】


「外部保存?」

「アルカディアが滅びても、記録を完全に消さないための処理です」

「わたしの元の世界に、こっちの記録を持っていくってこと?」

「はい。物ではなく、接続種として」


 コヨリは、28章で自分が書いた言葉を思い出した。


 持ち帰るんじゃない。つなぐ。


 あれは、持ち物枠をケチるための苦肉の策だった。ログルを同行者枠に入れるため、ゼルドやベルや拠点を荷物扱いしないため、泣きながら考えた答えだった。


 でも、それが今、帰還門の本当の形につながっている。


「わたし、荷物持ちだったの?」

「神様の仕様上は、そう見える部分があります」

「仕様って言葉、ほんと嫌い」


 コヨリは膝を抱えた。


 帰りたい。元の世界へ帰りたい。その気持ちは変わらない。けれど、帰ることが、誰かを置き去りにすることだけではないなら。消えた世界の記録を持ち出すことにもなるなら。


 少しだけ、胸の奥の形が変わった。


「ログル」

「はい」

「わたしが帰ったら、アルカディアは助かるの?」

「分かりません」

「分かんないんだ」

「はい。保存されるのは、世界そのものではなく、世界があった記録です」


 コヨリは唇を噛んだ。


「それって、助かるって言えるのかな」

「ぼくには、まだ分かりません」


 ログルは、嘘をつかなかった。


 コヨリは立ち上がり、帰還門建設予定地の横に置いていた小さな板を取った。そこには、前に書いた文字がある。


【持ち帰るんじゃない。つなぐ】


 その下に、新しく書く。


【消えた世界も、なかったことにしない】


 字は少し曲がった。けれど、読める。


 帰還門の根が、ほんの少しだけ強く光った。


【世界種同期率:上昇】

【帰還接続管理:更新】


「神様が説明しなかったこと、また一個わかった」

「はい」

「でも、説明しなかったことは許さない」

「はい」

「そこはちゃんと別」


 コヨリは、帰還門の光から目をそらさなかった。


 白い根は、まだ細い。けれど、確かに生きていた。


帰還門の根は、コヨリの文字に反応して、壁の【帰る】へも細く伸びた。昔の自分の字は、今見るとだいぶ幼い。けれど、その字がなければ、ここまで来られなかった。


「最初のわたし、えらい」

「はい」

「泣きながらでも、帰るって書いた」

「はい。最初の成功ログです」

「死因ログじゃなくて?」

「はい。成功ログです」


 コヨリは、その言葉を少しだけ大事にした。死んだ回数ではなく、帰ると決めた回数も、ここには残っている。


ログルは帰還門の根を、爪先でそっと示した。


「この線は、勇者様の帰る意志に反応しています」

「意志って、ステータスに出ないやつ?」

「はい。数値化しにくいです」

「神様、そういうの苦手そう」

「かなり」


 コヨリは少しだけ笑った。数値にできないものが、神様の管理画面に勝手に根を張っている。それは、かなり気分が良かった。


【今回の勇者ステータス】

現在シード:管理画面シード/ネタバレシード

死亡回数:1100回(この話では増加なし)

クラス:帰還者/死因学者/拠点管理人 複合状態

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【危険察知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.3】【足元確認 Lv.3】【射線確認 Lv.2】【満腹度管理 Lv.2】【帰還接続管理 Lv.1】【相棒再分類拒否 Lv.1】

【今回の新規獲得・更新】

更新:【帰還持ち帰り管理 Lv.1】→【帰還接続管理 Lv.1】

拠点施設:【椅子】【死因図鑑室】【鑑定机】【厨房】【思い出ログ棚】【罠訓練場】【魔物休憩所】【シード地図室】【反省会テーブル】【拠点酒場】【魔王相談窓口】【魔王軍資料室】【死因研究室】【仕様書保管棚】【一フレーム道場】【帰還門建設予定地】【管理画面の扉】


【登場人物紹介】

・この話の焦点:帰還門を扉ではなく世界種として見直す、静かな真相回です。

・コヨリ:神様の仕様書を読む側に回った幼女勇者。怒りと怖さを抱えつつ、帰る意志だけは曲げない。

・ログル:解析神獣。端末扱いから相棒へ再分類されつつある。冷静だが、もう完全に情がある。


【ローグライクあるある解説】

持ち帰り枠の発想から、非物理の接続へ。強装備や大事な品を全部持てないローグライクの制限を、帰還門設計に変換しています。


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