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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第29章 ネタバレシード――神様の仕様書を読みに行きます

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ショート幕間 一フレーム道場――最後の一手を練習します

最後の一手を間違えないため、一フレーム道場へ。

深層には、時間停止も倍速も三倍速も来る予感があります。

泣きながら練習する幼女勇者です。

 一フレーム道場は、拠点の中でも音が少ない。


 床に青白いマス目が浮かび、壁には今までの危険行動が小さな札で貼られている。【一歩下がろう】【撃つ前に隣を見る】【拾う前に周囲確認】【未識別は安全地帯で】【満腹度をケチるな】【階段前で宝箱を見るな】。コヨリは最後の札を見て、そっと目をそらした。


「ログル、階段前宝箱の札、字が大きくない?」

「実績に基づく強調です」

「実績って言えば何でも許されると思わないで」


 道場の中央には、停止した黒狼の影がいた。牙をむいたまま、空中で止まっている。唾の粒まで止まっていて、かなり嫌だ。


「これ、時間停止?」

「正確には、勇者様の行動待ちです」

「ゲームじゃん」

「世界法則です」

「ゲームじゃん!」


 ログルは否定しなかった。最近、そこは諦めたらしい。


 壁の奥から、低い警告が鳴る。


【訓練設定:深層敵】

【速度:倍速】

【勇者が一回行動すると、対象は二回行動します】


「倍速、やだ」

「練習です」

「本番で出る?」

「出る可能性が高いです」

「やだって言ってるのに!」


 黒狼の影が、ほんの少しだけぶれた。一体だった影が、二回動いた後の予測線を出す。コヨリが右に動けば、狼は右斜めへ二歩。左に動けば、左へ一歩、次に噛みつき。後ろに下がれば、罠の上。


「罠あるじゃん!」

「はい。なので、後ろではなく斜め後ろです」

「斜め後ろ、一手で行ける?」

「【一マス横跳び】なら可能です。ただし満腹度を消費します」

「最後までお腹!」


 コヨリは息を止め、足元の青いマスを見る。


 一手。


 横跳び。黒狼の影が二回空振りし、爪が床を削った。コヨリのすぐ横で、罠がぱちんと鳴る。踏んでいない。えらい。とてもえらい。


「生きた!」

「訓練上は」

「今くらい褒めて!」

「かなりえらいです」


 次の警告が出る。


【訓練設定:深層敵】

【速度:三倍速】

【勇者が一回行動すると、対象は三回行動します】


「三倍速!? 幼女に三回近づくな!」

「深層では、もっと嫌な敵もいると思われます」

「もっと嫌って何!?」


 道場の壁が白く揺れた。


【警告:思考停止領域に干渉】

【対象:時止め喰らい】

【相談中にも行動予測を更新します】


 空気が重くなる。いつもなら、考えている間は敵も止まる。けれど、今度の影は、止まっているはずなのに、目だけがゆっくりコヨリを追った。


「相談中に見るなああああああああああ!」

「神域干渉型です」

「ルール守って! 敵もルール守って!」

「深層敵は、ルールの穴を突きます」

「敵だけ上級者みたいなことするなああああああ!」


 ログルの宝石が、赤いマスを三つ表示した。右、左、後ろ。全部危険。青いマスは、黒狼の影の前に一つだけある。


「前?」

「はい」

「敵の前に出るの?」

「三倍速敵は、逃げ続けると追いつかれます。あえて一歩前へ入り、【眠りの杖】で止めます」

「前に出るの、勇気じゃなくて恐怖で泣きそう」

「泣いても構いません。杖は振ってください」


 コヨリは杖を握った。手汗で滑りそうになる。未識別ではない。回数は一回。深層では、こういう一回をケチると死ぬ。使いどころを間違えても死ぬ。


「ログル」

「はい」

「最後のダンジョン、死ねないんだよね」

「まだ正式開示前ですが、可能性は高いです」

「じゃあ、今のうちに泣いとく」

「どうぞ」


 コヨリは一回だけ鼻をすすった。


 一手。


 前へ出る。三倍速の影が動き出すより早く、眠りの杖の先端が白く光った。煙が広がり、影の目が閉じる。三回動くはずの敵が、三回分まとめて眠りに落ちた。


【訓練成功】

【対倍速判断:更新】

【対三倍速判断:仮登録】

【思考割込警戒:仮登録】


「生きた」

「はい」

「本番でこれやるの?」

「おそらく、もっと悪い形で」

「神様ァ! 最後のダンジョン、深層敵の性格を良くしてえええええええ!」


 道場の奥で、白い管理画面が一瞬だけ笑った気がした。


 コヨリは反省会テーブルのほうを向き、札を一枚追加した。


【速い敵ほど、止まって見えるうちに止める】


「うん。標語がこわい」

「深層向けです」


道場の壁には、失敗した時の仮想ログも出た。


【仮想死因:三倍速敵から一歩で逃げようとした】

【仮想評価:一歩では足りません】

【仮想死因:時止め喰らいを相談中に見つめ返した】

【仮想評価:目が合いました】


「目が合いました、じゃない! 評価が怖い!」

「深層敵は、視線も行動扱いにする可能性があります」

「見るだけでターン消費とか、幼女の目に厳しすぎる!」


 コヨリは両手で目を覆いかけて、すぐにやめた。見ないと死ぬ。見すぎても死ぬ。深層は本当に性格が悪い。


道場の出口には、小さなおにぎりが一つ置かれていた。訓練後のご褒美らしい。コヨリはそれを見て、すぐにログルを見た。


「食べていい?」

「識別済みです。普通のおにぎりです」

「普通ってすばらしい」


 ひと口かじると、少しだけ震えが止まった。深層では、この普通がきっと一番大事になる。

【今回の勇者ステータス】

現在シード:管理画面シード/ネタバレシード

死亡回数:1100回(この話では増加なし)

クラス:帰還者/死因学者/拠点管理人 複合状態

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【危険察知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.3】【足元確認 Lv.3】【射線確認 Lv.2】【満腹度管理 Lv.2】【帰還接続管理 Lv.1】【相棒同行意志 Lv.1】

【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【対倍速判断 Lv.1】/仮登録:【対三倍速判断 Lv.0】【思考割込警戒 Lv.0】

拠点施設:【椅子】【死因図鑑室】【鑑定机】【厨房】【思い出ログ棚】【罠訓練場】【魔物休憩所】【シード地図室】【反省会テーブル】【拠点酒場】【魔王相談窓口】【魔王軍資料室】【死因研究室】【仕様書保管棚】【一フレーム道場】【帰還門建設予定地】【管理画面の扉】


【登場人物紹介】

・この話の焦点:深層敵対策の訓練回。倍速、三倍速、思考割込の予告を入れています。

・コヨリ:神様の仕様書を読む側に回った幼女勇者。怒りと怖さを抱えつつ、帰る意志だけは曲げない。

・ログル:解析神獣。端末扱いから相棒へ再分類されつつある。冷静だが、もう完全に情がある。


【ローグライクあるある解説】

倍速・三倍速・思考割込敵への準備回。プレイヤー行動後に敵が動く基本を崩す深層敵を、道場で仮想訓練します。30章の成長伏線です。


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