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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第29章 ネタバレシード――神様の仕様書を読みに行きます

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仕様書保管棚――読ませる気のない説明書

ついに仕様書が開きます。

ただし量が多すぎて、読む前に心が死にそうです。

神様、説明書を隠すな。あと八百ページ超えるな。


 仕様書保管棚の扉が開いた瞬間、紙の匂いが拠点に流れ込んだ。


 古い紙の匂いではない。印刷したばかりの説明書を、さらに百倍に増やして、読ませる気のない厚みにした匂いだ。コヨリは一歩下がった。紙は噛まない。でも、ミミック商人ハコベエ加入後のコヨリは、開くものすべてに警戒する癖がついている。


「ログル、この棚、呼吸してない?」

「紙が揺れているだけです」

「ほんと?」

「たぶん」

「たぶんって言った! 宝箱なら即アウト!」


 棚の奥から、眼鏡の真面目な女神の記録音声が流れた。


「説明書は全八百ページです。読み飛ばさないでください」


 コヨリは、棚へ向かって叫んだ。


「読ませる気ないでしょおおおおおおおおおおおお!」


 紙束が少し震えた。たぶん、知識神ミネルの記録が怒ったのだろう。だが、怒りたいのはコヨリのほうである。


 ベルが横で目録を確認する。


「八百ページは、旧版の短縮版ですね」

「短縮版!?」

「最新版は、付録込みで三千二百ページほどあります」

「神様ァ! チュートリアル前に読める量にしてええええええええええ!」


 棚から、いくつかの冊子が自動で抜け出した。白い表紙に黒い文字。やけに整っているのが、逆に腹立たしい。


【勇者死亡ログ収集規約】

【シード滅亡率検証計画】

【魔王役割固定仕様】

【ログル返却処理】

【帰還門未保証条項】


「タイトルが全部、嫌」

「勇者様。まずは未保証条項から」

「帰る方法、未保証だったの?」

「はい」

「神様、最初に魔王倒せば帰れるって言ったよね?」

「可能性はある、という表現だった可能性があります」

「子供に可能性を確定みたいに言うなああああああああああ!」


 ログルが【帰還門未保証条項】を開く。ページには細かい文字が並んでいる。読むだけで満腹度が減りそうだ。


「ログル、これ読むのターン消費する?」

「拠点内なので通常ターンは進みません。ただし、精神満腹度が減る可能性はあります」

「精神満腹度って何!?」

「今、ぼくが作りました」

「作らないで!」


 ベルが横から、重要箇所に赤い付箋を貼っていく。貼る速度が速い。たぶん、神様より事務処理が上手い。


【帰還条件:検証中】

【魔王討伐:単独条件ではない】

【帰還因子:名前/座標/時間/記憶/縁/扉】

【同行者:原則不可】

【拠点接続:想定外】


 コヨリは、赤い付箋の行を何度も読んだ。


「魔王討伐、単独条件じゃない」

「はい」

「最初から書いてある」

「はい」

「でも、説明されてない」

「はい」


 ログルが短く答えるたび、コヨリの中で何かが積み上がっていく。怒りだ。未識別アイテムを投げずに持ち続けた時みたいに、手持ち欄を圧迫してくる怒り。


 次に開いたのは、【ログル返却処理】だった。


【解析神獣ログル】

【用途:勇者死亡ログ取得】

【報告先:主神アドミニス】

【人格形成:非推奨】

【帰還時:回収】


 ログルの体が固まった。


「ログル」

「はい」

「読まなくていいよ」

「いえ。読みます」


 ログルは、宝石をページへ近づけた。いつもの冷静な声で、けれど少しだけ震えながら、文字を読み上げる。


「人格形成、非推奨。勇者への過剰感情形成を確認した場合、初期化処理を検討」


 コヨリは、仕様書を閉じた。


 ばたん、と音がした。


「読んだ」

「勇者様、まだ途中です」

「今のところで十分」

「ですが」

「殴る理由が増えた」


 ベルが静かにうなずいた。


「こちら、抗議文に転記します」


 ゼルドが後ろで腕を組む。


「余の役割固定仕様も忘れるな」

「忘れない」


 コヨリは仕様書保管棚を見上げた。そこにはまだ、山ほどの未読が残っている。未識別の巻物よりたちが悪い。読めば読むほど、効き目が分かっていく代わりに、腹が立つ。


「ログル」

「はい」

「仕様書って、読む前はこわいけど」

「はい」

「読んだらもっとこわいね」

「はい」


 白い棚の奥で、別のページがひとりでに開いた。


【シード滅亡率検証計画】


 紙面に、無数の赤い線が浮かび上がる。


 次の扉は、世界が滅びる場所へつながっていた。


コヨリは、未読の棚へ小さな札を貼った。


【安全地帯で読む】


「仕様書にも?」

「未識別の巻物と同じ。危ないものは安全地帯で読む」

「正しいです」


 ログルがうなずく。ベルも、珍しく即座に同意した。読むだけで精神満腹度を削る説明書は、深層の呪い装備と大差ない。コヨリは棚から少し離れ、逃げ道を確認してから、次の冊子を見ることにした。


棚の端には、やたら薄い冊子もあった。表紙には【簡単スタートガイド】とある。コヨリは少しだけ期待して開き、一行目で閉じた。


【まず死亡ログを百件ほど集めます】


「簡単の意味、神様とわたしで違う!」

「神様側の簡単は、作業工程が少ないという意味かもしれません」

「死ぬほうの負担を数えて!」


【今回の勇者ステータス】

現在シード:管理画面シード/ネタバレシード

死亡回数:1100回(この話では増加なし)

クラス:帰還者/死因学者/拠点管理人 複合状態

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【危険察知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.3】【足元確認 Lv.3】【射線確認 Lv.2】【満腹度管理 Lv.2】【帰還接続管理 Lv.1】【相棒同行意志 Lv.1】

【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【仕様書読解 Lv.1】

拠点施設:【椅子】【死因図鑑室】【鑑定机】【厨房】【思い出ログ棚】【罠訓練場】【魔物休憩所】【シード地図室】【反省会テーブル】【拠点酒場】【魔王相談窓口】【魔王軍資料室】【死因研究室】【仕様書保管棚】【一フレーム道場】【帰還門建設予定地】【管理画面の扉】


【登場人物紹介】

・この話の焦点:仕様書の未識別感を出し、読めば読むほど神様への怒りが増えます。

・コヨリ:神様の仕様書を読む側に回った幼女勇者。怒りと怖さを抱えつつ、帰る意志だけは曲げない。

・ログル:解析神獣。端末扱いから相棒へ再分類されつつある。冷静だが、もう完全に情がある。

・ベル:魔王軍秘書。正式抗議文で神様を詰める有能事務担当。書類は物理的にも重い。

・ゼルド:魔王。ラスボス役を押しつけられていた被害者代表。怒り方が静かで怖い。

・ミネルの記録:知識神の記録。説明書を八百ページにする真面目すぎる説明担当。


【ローグライクあるある解説】

未識別の巻物を読む怖さを、仕様書読解に変換。読むまで効果が分からない、読んだら取り返しがつかない、というローグライク的な鑑定回です。


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