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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第29章 ネタバレシード――神様の仕様書を読みに行きます

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魔王相談窓口――ゼルドはラスボスではありません

魔王相談窓口に、最悪の役割表が届きます。

ゼルドは魔王です。けれど、神様の便利な最終試験官ではありません。

魔王側の怒り、正式発火。

 魔王相談窓口は、拠点の中で一番まじめな場所だった。


 白い床に黒い机。椅子は大きめで、魔王ゼルドが座っても角が天井にぶつからないよう、いつの間にか空間が広げられている。ベルが整理した書類棚は、背表紙の高さまで揃っていた。神様の仕様書保管棚とは違い、こちらは読む人間を紙で殺す気がない。


「魔王軍、書類がきれい」

「当然です。魔王軍は業務ですので」

「神様も業務でやって」


 ベルは眼鏡の位置を直し、にこりともせずに新しい書類を机へ置いた。厚さはそれほどない。けれど、表紙の文字だけで、部屋の温度が少し下がった。


【魔王役割表】


 ゼルドは腕を組んだまま、しばらくそれを見ていた。黒いマントの裾が床に広がり、いつもの威厳はある。けれど、胃が痛そうな顔もしている。魔王なのに、神様関連の書類を見るたびに顔色が悪くなるのは、たぶんかなりかわいそうだ。


「読むぞ」

「はい、魔王様」


 ベルが表紙を開く。


【魔王ゼルド】

【配置目的:世界崩壊点の固定】

【推奨処理:勇者による討伐】

【備考:敗北演出はシードごとに調整】


 コヨリはログルを抱えたまま、そっとゼルドの横顔を見た。


 怒っている。


 怒鳴らない怒りだった。机を叩くわけでも、魔力を爆発させるわけでもない。ただ、ゼルドの目の奥で、黒い炎が静かに燃えている。


「余は」


 ゼルドの声は低かった。


「魔王であって、便利な終点ではない」


 コヨリは、何も言えなかった。


 魔王は敵だった。最初は怖かった。倒せば帰れると信じていた時期もある。けれど、何度もシードを越えるうちに分かった。ゼルドもまた、神様の配置表に振り回される側だった。初期村の隣に城を置かれ、勇者がレベル1で突撃してきて、勝っても負けても世界が壊れ、次のシードではまた違う役割を押しつけられる。


 ラスボスにだって、労働環境はある。


「魔王さん」

「何だ、勇者」

「神様、ひどいね」

「今さらであるな」

「うん。今さらだけど、今ちゃんと腹立った」


 ベルが次のページをめくる。


【魔王討伐と帰還条件の関連】

【帰還確率:低】

【主目的:勇者成長ログ取得】

【副目的:世界崩壊タイミング調整】


「魔王討伐、帰還条件じゃなかったんだ」

「正確には、帰還候補の一部だったようです」

「一部を全部みたいに説明したの?」

「はい」

「神様ァ! それは説明じゃなくて詐欺いいいいいいいいいい!」


 叫んだ瞬間、魔王相談窓口の壁に貼ってあった苦情箱が、ぱかっと開いた。中から白い紙が一枚飛び出す。


【新規苦情:説明不足】


 ベルが、すばやくそれを受け取った。


「こちら、主神様への正式抗議文に追記いたします」

「ベルさん、手慣れすぎ」

「魔王軍も、長く苦しめられておりますので」


 ゼルドが書類に手を伸ばした。指先に黒い魔力がにじむ。紙は燃えない。ベルが事前に耐火処理をしているらしい。有能すぎる。


「余は、勇者の敵であった」

「うん」

「今後も、必要なら敵として立つことはある」

「え、やだ」

「だが、神々の都合で敗北するための壁にはならぬ」


 ゼルドは役割表の余白に、太い字で書いた。


【余は魔王である。備品ではない】


 コヨリは思わず拍手した。


「魔王さん、字まで魔王っぽい」

「怒りが乗った」

「書類に感情乗るんだ」

「乗ります」


 ベルが真顔でうなずく。


 その時、管理画面の隅に、小さな赤い警告が出た。


【魔王役割表:破損】

【原因:当事者による異議申立】


 ログルの宝石が、少しだけ明るくなる。


「勇者様。魔王様の異議申立により、帰還最終シードの一部階層で支援記録が使える可能性があります」

「魔王さん、支援になるの?」

「余の影くらいは貸してやる」

「ラスボスから支援が来るの、ゲームバランスおかしくない?」

「主神の調整よりはましであろう」

「それはそう!」


 ゼルドは役割表を閉じ、コヨリを見た。


「勇者よ。神を殴る時は、余の分も頼む」

「自分では殴らないの?」

「殴る」

「殴るんだ」

「当然だ」


 ベルが横から別紙を差し出した。


「魔王様、殴打順申請書です」

「今書く」


 コヨリは、魔王軍が神様よりずっとちゃんとしているという事実を、もう一度かみしめた。


 書類の下には、魔王軍の部下たちの勤務記録も挟まっていた。コヨリが知らない兵士の名前、補給係、門番、厨房担当。リセットのたびに消えていたのは、魔王城だけではない。そこで働いていた人たちの今日も、明日も、何度も折り畳まれていた。


「魔王軍にも、普通に生活あるんだよね」

「当然だ」

「わたし、最初は敵の城ってだけで見てた」

「余も、勇者を敵として見ていた」


 ゼルドは書類を閉じず、むしろコヨリのほうへ見えるように置いた。


「互いに、知らぬまま戦わされていた」

【今回の勇者ステータス】

現在シード:管理画面シード/ネタバレシード

死亡回数:1100回(この話では増加なし)

クラス:帰還者/死因学者/拠点管理人 複合状態

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【危険察知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.3】【足元確認 Lv.3】【射線確認 Lv.2】【満腹度管理 Lv.2】【帰還接続管理 Lv.1】【相棒同行意志 Lv.1】

【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【魔王役割表読解 Lv.1】

拠点施設:【椅子】【死因図鑑室】【鑑定机】【厨房】【思い出ログ棚】【罠訓練場】【魔物休憩所】【シード地図室】【反省会テーブル】【拠点酒場】【魔王相談窓口】【魔王軍資料室】【死因研究室】【仕様書保管棚】【一フレーム道場】【帰還門建設予定地】【管理画面の扉】


【登場人物紹介】

・この話の焦点:魔王相談窓口で、ゼルド側の被害者性をはっきり出しています。

・コヨリ:神様の仕様書を読む側に回った幼女勇者。怒りと怖さを抱えつつ、帰る意志だけは曲げない。

・ログル:解析神獣。端末扱いから相棒へ再分類されつつある。冷静だが、もう完全に情がある。

・ゼルド:魔王。ラスボス役を押しつけられていた被害者代表。怒り方が静かで怖い。

・ベル:魔王軍秘書。正式抗議文で神様を詰める有能事務担当。書類は物理的にも重い。


【ローグライクあるある解説】

ラスボス役固定を「ボス配置表」として可視化。深層で過去ボスの支援記録が鍵になる、というローグライクの総力戦準備に変換しています。


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