表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第29章 ネタバレシード――神様の仕様書を読みに行きます

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
304/340

思い出ログ棚――消えた人たちの名前

思い出ログ棚が、消えたシードの声を返します。

ミーナ、カイ、ピヨラたちの記録は、ただの思い出ではありません。

帰還因子「縁」が強く反応します。

 思い出ログ棚は、死因図鑑室の隣にある。


 最初にできた時は、ただの白い棚だった。コヨリが覚えている人の名前を、ログルが小さな札にして差し込んでいく。ミーナ、カイ、ピヨラ、ダイコン、ルーメ、スリップ、マッスル、トラッパ。シードが変わると消えてしまう人たちを、コヨリが忘れないための場所だった。


 けれど、管理画面側から見ると、その棚はただの思い出入れではなかった。


 棚板の奥に、細い根が伸びている。帰還門建設予定地へ、死因図鑑室へ、魔物休憩所へ、厨房へ。一本一本は細いのに、束になると白い床の下で大きな流れになっている。


「ログル」

「はい」

「棚、地下でめちゃくちゃ育ってない?」

「育っています」

「思い出って、根っこ出るの?」

「この拠点では、出るようです」

「神様の設計?」

「おそらく、神様の想定外です」

「よし、えらい棚」


 コヨリが最初の札に触れると、パンの匂いがした。


 ミーナ。


 棚の中で、いくつものシードのミーナが淡く揺れる。パン屋のおばちゃん。女騎士。魔王軍料理長。王妃。故人。服も立場も違うのに、どのミーナも、コヨリを見ると少しだけ目を細める。


「腹が減ってちゃ、勇者もできないよ」


 声は小さい。けれど、コヨリの胸にはっきり届いた。


「ミーナさん」


 返事はない。本人ではない。記録だ。分かっている。分かっているのに、コヨリは棚の前で背筋を伸ばした。泣くなら食べてからにしな、と言われそうだったからだ。


 次の札は、カイだった。


 木剣をくれた少年。敵兵として弓を向けた少年。孤児だった少年。騎士見習いだった少年。存在しない、という空欄だけ残されたシードもあった。


「これ、使って。勇者なら、いるでしょ」


 コヨリの手の中に、木剣の重さが戻る。もちろん本物ではない。でも、指が覚えていた。小さな手に渡された、ちょっと重い木剣。あれがなければ、コヨリは最初の村で、もっと早く泣いていたかもしれない。


「同じ人なのに、別の人生」

「はい」

「でも、役割じゃないよね」

「はい」


 ログルは、すぐに答えた。


 棚の奥で、別の札が揺れる。ピヨラは小さな火の粉の記録を出し、ダイコンは「根を張れ、勇者殿!」と妙に暑苦しい声を残した。ルーメは長い詠唱だけ再生して、効果の部分を忘れていた。スリップの札からは謝罪文が一枚落ち、コヨリは反射的に拾いかけて、手を止めた。


「拾う一手で死んだことある」

「ここでは安全です」

「安全でも、癖として止まれるのえらい」

「かなりえらいです」


 拾った謝罪文には、短くこう書かれていた。


【盗みました。すみません】


「何を盗んだの」

「たぶん、神様の言い訳です」

「それは盗んでいい」


 コヨリが笑うと、棚全体がほのかに明るくなった。すると、上段の奥に隠れていた札が、勝手に前へ出てきた。


【帰還因子:縁】

【思い出ログ棚と同期】

【消失シード記録:一部復元】


「帰還因子」


 コヨリは文字を読んで、ゆっくり息を吸った。


 帰るために必要なものは、名前、座標、時間、記憶、縁、扉。ずっと集めてきたものの意味が、ようやく形になっていく。帰るとは、ひとりで逃げることではない。消えた人を忘れず、持ち帰れないならつないでいくことだ。


「わたしだけが覚えてるんじゃない」

「はい」

「ここも、覚えてたんだ」

「はい。勇者様が何度も書いたからです」


 コヨリは棚の前にしゃがみ、ミーナとカイの札を並べ直した。


「ログル」

「はい」

「この棚、最終シードに持っていける?」

「物としては持ち込めません」

「また枠?」

「枠です」

「持ち物管理いいいいいいいいいい!」


 叫びかけた声が、途中で小さくなる。


「じゃあ、つなぐ」

「はい」

「棚ごとは無理でも、縁はつなぐ」


 ログルの宝石に、優しい光が灯った。


【帰還接続候補:思い出ログ棚】

【接続形式:縁】

【持ち帰り枠:不要】


「え、枠不要?」

「はい」

「神様、こういう仕様だけはちゃんと説明して!」


 棚の奥で、ミーナの声がもう一度だけ聞こえた。


「ほら、食べな」


 コヨリの手元に、小さなパンの記録が落ちた。食べられない。満腹度も回復しない。でも、その匂いだけで、コヨリは少しだけ立てる気がした。


棚の下段には、名前の札がついていない小さな記録もあった。道を教えてくれた村人、逃げる時に扉を押さえてくれた兵士、スープを分けてくれた知らないおばあさん。コヨリが名前を聞く前にシードが終わった人たちだ。


「名前、聞けばよかった」

「はい」

「でも、全部は聞けなかった」

「それでも、記録は残っています」


 ログルの宝石が、名もない札の端を照らす。名前がないままでも、そこにいたことは消えない。コヨリは、空白の札を奥へ押し込まず、見える位置へ戻した。

【今回の勇者ステータス】

現在シード:管理画面シード/ネタバレシード

死亡回数:1100回(この話では増加なし)

クラス:帰還者/死因学者/拠点管理人 複合状態

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【危険察知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.3】【足元確認 Lv.3】【射線確認 Lv.2】【満腹度管理 Lv.2】【帰還接続管理 Lv.1】【相棒同行意志 Lv.1】

【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【縁接続 Lv.1】

拠点施設:【椅子】【死因図鑑室】【鑑定机】【厨房】【思い出ログ棚】【罠訓練場】【魔物休憩所】【シード地図室】【反省会テーブル】【拠点酒場】【魔王相談窓口】【魔王軍資料室】【死因研究室】【仕様書保管棚】【一フレーム道場】【帰還門建設予定地】【管理画面の扉】


【登場人物紹介】

・この話の焦点:思い出ログ棚が、名前のある人もない人も拾い上げる回です。

・コヨリ:神様の仕様書を読む側に回った幼女勇者。怒りと怖さを抱えつつ、帰る意志だけは曲げない。

・ログル:解析神獣。端末扱いから相棒へ再分類されつつある。冷静だが、もう完全に情がある。

・ミーナの記録:どのシードでも食べ物とやさしさをくれる魂。思い出ログ棚の大事な柱。

・カイの記録:木剣をくれた少年の魂。シードごとに別の人生を生きる、コヨリの記憶の痛点。

・ピヨラの記録:火が怖いドラゴン幼体の記録。本人不在でも、守りたい気持ちが残っている。

・ダイコンの記録:しゃべる大根剣士の記録。根性論が濃いが、なぜか頼れる。

・ルーメの記録:記憶力ゼロの賢者の記録。詠唱は立派、効果はだいたい忘れている。

・スリップの記録:謝罪文を書く盗賊の記録。盗むたびに謝るので、倫理があるのかないのか難しい。


【ローグライクあるある解説】

持ち帰れない重要品を「接続」に変える回。所持枠制限のストレスを、思い出ログ棚という非物理リソースに変換しています。


神様への苦情が届いてほしいと思っていただけましたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます。感想・評価・レビューお願いします!励みになります
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

小説家になろう 勝手にランキング
ギルド酒場るすと公式サイト

異世界ゲームバー転生おじさん(42)
影森ゆらは今日も死ぬ
千回死亡幼女勇者 異世界Any%
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ