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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第29章 ネタバレシード――神様の仕様書を読みに行きます

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死因図鑑室――千百回ぶんのわたし

死因図鑑室のカードが、別の意味を持ち始めます。

笑える死因も、痛かった事実は消えません。

コヨリ、死因ログの本来用途を知り始めます。


 死因図鑑室の扉は、いつもより重かった。


 コヨリが両手で押しても動かない。ログルが横から額の宝石を近づけると、扉の縁に細い文字が走った。


【閲覧権限:勇者コヨリ】

【補助閲覧:ログル】

【警告:本来用途を表示します】


「本来用途ってなに」

「ぼくにも、完全には開示されていませんでした」

「ログルにも隠してたの?」

「はい」

「神様、情報共有が下手っていうか、もう情報を隠す才能だけ育てすぎ」


 扉が開くと、壁一面のカードが一斉に光った。


 黒狼に噛まれた死。ミミックに手を入れた死。未識別の草を食べて爆発した死。看板にぶつかった死。遠投の腕輪で大事な薬を敵に投げた死。満腹度をケチって、あと一歩で階段というところで倒れた死。眠らせた敵をうっかり起こした死。味方の射線に入って、打開アイテムを使えなかった死。


 カードは、いつもなら笑えるくらい無慈悲な見出しをつけていた。


【宝箱を二度見したら噛まれた】

【帰還の巻物だと思ったら宴会開始だった】

【階段前で欲張った】

【拾う一手で殴られた】


「やめて。改めて見ると、わたし、だいぶ欲に負けてる」

「宝箱三個目は、かなり欲でした」

「今、味方から刺された」


 笑おうとした。けれど、途中で笑えなくなった。


 カードの下に、今まで見えなかった小さな数字が浮かんでいたからだ。痛覚反応、恐怖反応、シード崩壊率、帰還因子残存率。コヨリの死因は、ただの死因ではなく、細かい測定値として保存されていた。


「ログル」

「はい」

「これ、わたしが痛かったやつだよね」

「......はい」

「神様、これ見てたの?」

「送信されていました」


 ログルの声が、いつもより低かった。


 コヨリは一枚のカードに手を伸ばした。黒狼のカードだ。一番最初の死因。あの時は何も分からなかった。木剣をもらい、薬草採取をして、異世界ってこういうものかと思った直後、チュートリアルの外から黒い牙が来た。


 カードが震え、文字が書き換わる。


【分類:勇者成長ログ】

【分類:世界破綻回避候補】

【分類:滅亡シード照合素材】


「死因ログって、わたしが死んだ理由を笑うためのものじゃなかったの?」

「最初は、そう登録されていました」

「最初は?」

「本来用途が、隠されています」


 別の壁が開いた。


 そこには、死因カードではなく、地図のような線が広がっていた。黒狼で死んだ線、黒狼を避けた線、黒狼を倒したあと別の罠で死んだ線。未識別草を飲んだ線、飲まずに投げた線、投げた草が味方に当たった線。無数の失敗が、細い道になって伸びている。


 そのほとんどが、赤く途切れていた。


「これ、なに」

「シード分岐図です」

「死因図鑑じゃなくて?」

「死因図鑑を使って作った、分岐図です」


 ログルが近づくと、宝石に細い文字が映った。


【死因ログ:失敗分岐記録】

【用途:滅亡ルート除外】

【用途:帰還可能行動探索】


 コヨリは、壁に映った自分の死亡回数を見た。


 千百回。


 笑える数字ではない。いや、数字だけならもう笑える。笑うしかない。けれど、その一回一回が、線になって、潰れた世界の地図になっている。


「世界を救うために、わたしが死んだってこと?」

「まだ断定できません」

「ログル、こういう時だけ慎重になるのずるい」

「断定したくないです」


 ログルが、ぽつりと言った。


 コヨリはログルを見た。ログルの宝石は、死因カードの光を受けて、嫌なほど綺麗に輝いている。初期のログルなら、きっと淡々と「有用なデータです」と言っただろう。今のログルは、それを言わない。


「わたし、死因ログって嫌いだったけど」

「はい」

「ちょっとだけ、嫌いじゃないかも」

「なぜですか」

「だって、これがなかったら、ミーナさんも、カイも、魔王さんも、ベルさんも、たぶん全部なくなってた」


 言ってから、コヨリは拳を握った。


「でも、神様がそれを最初から説明しなかったことは、別」

「はい」

「そこは殴る」

「記録しておきます」


 死因図鑑室の奥で、一枚だけ金色に光るカードがあった。


【最終参照候補】

【千百回の死が地図になる】


 コヨリはそれを見て、少しだけ肩を震わせた。


「ログル」

「はい」

「次は、成功ログにしよう」

「はい。ぼくも、そうしたいです」


ふと、カードの一枚が裏返った。そこには死因ではなく、コヨリの手書きの反省が残っていた。


【次は、食べる前に聞く】

【次は、宝箱を二度見しない】

【次は、ログルが嫌な顔をしたら止まる】


「わたし、意外とまじめに反省してる」

「はい。反省はしています」

「反省は?」

「実行できない時があります」

「そこ、言わなくていい!」


 けれど、その反省の積み重ねこそが、死因カードをただの笑い話にしなかった。コヨリは一枚ずつ、指でなぞった。


【今回の勇者ステータス】

現在シード:管理画面シード/ネタバレシード

死亡回数:1100回(この話では増加なし)

クラス:帰還者/死因学者/拠点管理人 複合状態

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【危険察知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.3】【足元確認 Lv.3】【射線確認 Lv.2】【満腹度管理 Lv.2】【帰還接続管理 Lv.1】【相棒同行意志 Lv.1】

【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【死因分岐読解 Lv.1】

拠点施設:【椅子】【死因図鑑室】【鑑定机】【厨房】【思い出ログ棚】【罠訓練場】【魔物休憩所】【シード地図室】【反省会テーブル】【拠点酒場】【魔王相談窓口】【魔王軍資料室】【死因研究室】【仕様書保管棚】【一フレーム道場】【帰還門建設予定地】【管理画面の扉】


【登場人物紹介】

・この話の焦点:死因図鑑室の見え方が変わり、笑える死因の裏にある痛みも扱います。

・コヨリ:神様の仕様書を読む側に回った幼女勇者。怒りと怖さを抱えつつ、帰る意志だけは曲げない。

・ログル:解析神獣。端末扱いから相棒へ再分類されつつある。冷静だが、もう完全に情がある。


【ローグライクあるある解説】

死に覚えと失敗ログの総整理。未識別事故、階段前欲張り、拾う一手で死ぬなどのあるあるを、単なるギャグではなく分岐地図へ変換しています。


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