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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第29章 ネタバレシード――神様の仕様書を読みに行きます

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ショート幕間 拠点設備点呼――椅子から帰還門まで

椅子ひとつだった拠点を、コヨリたちが歩いて点検します。

死因で増えた設備は、笑えるけれど笑うだけでは終わりません。

拠点総決算、開幕です。

 白い扉の向こうは、神様の部屋ではなかった。


 そこにあったのは、拠点そのものだった。けれど、いつもの拠点ではない。床は白いままだが、少し高いところから全体を見下ろしているような、変な距離感がある。コヨリが最初に死んで戻った時に座らされた椅子も、死因メモも、死因図鑑室の大きな扉も、全部が薄い光の線でつながっていた。


「待って。これ、拠点の見取り図?」

「見取り図というより、管理画面側から見た拠点構造です」

「神様、ずっとこうやって見てたの?」

「少なくとも、見ようと思えば見られたはずです」

「プライバシー!」


 コヨリは白い床を足でこすった。靴はない。けれど、土足で踏み込みたい気持ちは強い。神様の管理画面に、子供の足あとをつけてやりたい。


 最初に光ったのは椅子だった。


 何もない白い部屋に、ぽつんと置かれていた、あの椅子。座るたびに死んだ直後の体の震えが残っていて、コヨリはしばらくあの椅子が嫌いだった。今は、椅子の脚に小さな傷が増えている。たぶん、コヨリが何度も足をぶつけた跡だ。


「最初、ここ椅子しかなかったんだよね」

「はい」

「クソゲーの待合室だった」

「今は、かなり物が増えました」

「死因も増えた」

「それは、はい」


 次に、死因メモが光った。短い紙切れに、黒狼、ミミック、未識別草、看板、落とし穴、爆ぜ岩、遠投事故、満腹度切れ、同行者通路詰まり、といった文字がびっしり並んでいる。最初は一枚だった紙が、今は分厚い束になっていた。


「ログル、これ全部わたし?」

「はい」

「全部、死んだ?」

「はい」

「もうちょっと遠慮して言って」

「だいたい全部、勇者様です」

「遠慮が下手!」


 鑑定机の光は、少し誇らしげだった。未識別の草を置くたび、コヨリが食べたい顔をして、ログルが「待ってください」と止めた場所だ。厨房は湯気の匂いを思い出させるように淡く揺れ、思い出ログ棚は、パンの匂いと木剣の手触りを一瞬だけ返してきた。


 罠訓練場は、床の一部をわざと沈ませた。


「ひっ」

「訓練用です」

「訓練用でも床が沈むのはこわい!」


 魔物休憩所からは、小さな寝息の記録が聞こえた。ピヨラのものだ。本人はいない。けれど、火を怖がる小さなドラゴンが、コヨリの袖をくわえた感触は残っている。


 拠点酒場のカウンターでは、酒神リュシアの陽気な声が記録として流れた。


「生きて戻っても死んで戻っても、まず一杯!」

「幼女に酒は出さないでね」

「記録音声にツッコんでも、相手はいません」

「ツッコまないと落ち着かないの!」


 魔王相談窓口は、やたら整っていた。ゼルドの苦情書類、ベルの抗議文、魔王軍勤務表、神様への改善要求。コヨリは、その棚だけ見て少し安心した。神様より魔王軍のほうが、書類の角が揃っている。


「魔王軍、有能だね」

「はい。神様側より管理が丁寧です」

「勇者の相棒がそれ言っていいの?」

「事実です」


 仕様書保管棚は、まだ扉を閉じていた。近づくと、棚の奥から紙が擦れる音がした。読ませる気がある本の音ではない。読んだ者を紙で埋める気のある音だ。


「ここ嫌」

「勇者様が一番求めていた場所です」

「仕様書ほしいけど、仕様書の山で圧死したくはない!」


 最後に、帰還門建設予定地が光った。白い床に、根のような線が伸びている。前までは門を作る場所だと思っていた。けれど、管理画面から見ると、その根は拠点中の設備につながり、さらに消えたシードの記録へ伸びている。


【拠点分類:死後待機室】

【偽装分類:解除】

【本来分類:リセット外世界種】


「世界種?」


 コヨリの声が小さくなった。


 椅子だけの部屋だと思っていた。死んだあとに戻される、神様の雑な待合室だと思っていた。死因図鑑室も、厨房も、罠訓練場も、魔王相談窓口も、ただ死にすぎたせいで増えた便利施設だと、半分ふざけて見ていた。


 でも、違った。


 拠点は、消えたシードの記録を根にして育っていた。


「じゃあ、わたしが死ぬたびに」

「はい」

「ここ、増えてた?」

「はい」


 コヨリは奥歯を噛んだ。怒りたいのに、怒る相手がまだ画面の向こうにいる。今は拠点の床しか踏めない。


「ログル」

「はい」

「神様の部屋に行く前に、全部見ておいてよかった」

「なぜですか」

「殴る理由が、ちゃんと増えた」


 その時、仕様書保管棚の扉が、ひとりでに開いた。


 紙の匂いが、白い空間に流れ込んでくる。


コヨリは、見取り図の端に小さな空欄を見つけた。そこには、まだ名前のない施設の枠がある。白い線は帰還門の根に触れていたが、文字は出ていない。


「ここ、何が入るの」

「未定です」

「未定の施設、最終前に出すのやめて。絶対ろくでもない」

「ただ、表示名の候補はあります」

「言って」

「【主神公開反省会場】」

「作ろう」


 即答だった。ログルが少しだけ目を丸くする。コヨリは反省会テーブルのほうを見た。死因を笑って流すための場所だったテーブルが、今は神様をちゃんと負けさせるための場所に見えた。

【今回の勇者ステータス】

現在シード:管理画面シード/ネタバレシード

死亡回数:1100回(この話では増加なし)

クラス:帰還者/死因学者/拠点管理人 複合状態

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【危険察知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.3】【足元確認 Lv.3】【射線確認 Lv.2】【満腹度管理 Lv.2】【帰還接続管理 Lv.1】【相棒同行意志 Lv.1】

【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【拠点設備再確認 Lv.1】

拠点施設:【椅子】【死因図鑑室】【鑑定机】【厨房】【思い出ログ棚】【罠訓練場】【魔物休憩所】【シード地図室】【反省会テーブル】【拠点酒場】【魔王相談窓口】【魔王軍資料室】【死因研究室】【仕様書保管棚】【一フレーム道場】【帰還門建設予定地】【管理画面の扉】


【登場人物紹介】

・この話の焦点:拠点設備そのものが主役の点呼回。椅子まで含めて、積み上げの証拠です。

・コヨリ:神様の仕様書を読む側に回った幼女勇者。怒りと怖さを抱えつつ、帰る意志だけは曲げない。

・ログル:解析神獣。端末扱いから相棒へ再分類されつつある。冷静だが、もう完全に情がある。

・リュシアの記録:拠点酒場の酒神の記録。死んでも生きても乾杯しようとする姉御枠。

・ピヨラの記録:火が怖いドラゴン幼体の記録。本人不在でも、守りたい気持ちが残っている。


【ローグライクあるある解説】

拠点点検は、倉庫・鑑定・訓練場を整理してから深層に入る準備回。ローグライクで潜る前に持ち物欄と倉庫を見直す感覚を、拠点設備に置き換えています。


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