管理画面通知――神様に見つかりました
帰還門の仮接続は、ついに主神の管理画面へ届いた。
ログル同行、拠点接続、全部まとめて見つかります。
コヨリ、仕様書要求モードへ。
帰還門の細い光は、まだ拠点の床に残っていた。
元の世界の玄関は、もう見えない。けれど、白い床の奥には、さっきまで向こう側へ伸びていた線が、焼きついたみたいに薄く光っている。コヨリはその線を爪先で踏まないよう、少しだけ離れて立った。踏んだらまた未確定座標で弾かれる気がしたからだ。前回それで死んだ。学習した幼女は、床の光を踏まない。
「ログル」
「はい」
「帰れたかもしれないやつ、まだ残ってる?」
「残っています。ただし、触るとまた弾かれる可能性が高いです」
「触らない。今日はえらい」
「かなりえらいです」
ログルはコヨリの腕の中で、額の宝石を淡く光らせた。白い光ではない。虹色でもない。赤と白が混ざった、熱を持たない警告灯みたいな色だった。
「ログル、その光、だいぶ嫌」
「ぼくも嫌です」
「本人も嫌なんだ」
「はい。神様側の回線が、勝手に開こうとしています」
その瞬間、帰還門予定地の上に、白い四角い窓が開いた。アドミニスがいつも出していた、軽くて、白くて、嫌に親切そうな管理画面。その角が、今は妙に鋭く見えた。
【管理画面通知】
【帰還門仮接続を検知】
【対象:勇者コヨリ】
【同行者:ログル】
【拠点接続:管理外】
「管理外って言い方、なに」
「神様が管理していない接続です」
「それ、わたしが悪いみたいに出すのやめてほしい。神様の管理が雑だったからこっちで作ったんだけど」
白い窓の向こうから、懐かしいくらい軽い声が聞こえた。
「勇者ちゃん。そこ、開けちゃったんだ」
コヨリは一歩だけ後ろに下がった。逃げたのではない。距離を取った。ローグライクでは、ボス前で一歩下がるのは大事だ。特に、相手が神様で、説明不足で、初見殺しの実績があり、笑顔で人を千回以上死なせるタイプの場合は。
「開けた」
「そっか。うーん、困ったなあ」
「困ったのはこっち。神様、仕様書出して」
「またそれ?」
「またそれじゃない! まだ一回もちゃんと出してない!」
窓の奥のアドミニスは、いつもの白い神官服で、いつもの中性的な笑顔を浮かべていた。けれど、その笑顔の端に、ほんの少しだけ疲れが混ざっている。コヨリはそれを見つけてしまい、余計に腹が立った。
疲れているなら、最初から相談すればよかったのだ。
「勇者ちゃん。帰還門はね、まだ完成していないんだ」
「知ってる。仮って出てた」
「ログルを連れて行くのも、まだ正式な処理じゃない」
「知ってる。だから正式にする」
「それは、少し難しいかな」
ログルの体が、腕の中で小さく震えた。
【ログル個体記録:照合中】
【返却対象:検出】
【分類:神様側貸与端末】
コヨリは窓を見たまま、ログルを抱く腕に力を込めた。
「返さない」
「勇者ちゃん」
「ログルは端末じゃない。相棒。二十八回くらい言った気がするけど、神様の耳、未識別の壺に入ってるの?」
「壺には入っていないよ」
「じゃあ聞いて!」
アドミニスはすぐには返事をしなかった。白い窓の向こうで、神様の指が見えない卓を撫でるように動く。管理画面の文字が、何度も書き換わった。
【拠点接続:例外】
【死因ログ圧縮束:例外】
【思い出ログ棚:例外】
【魔王相談窓口:例外】
【ログル人格形成:例外】
「例外ばっかり」
「コヨリ様が、例外ばかり作りました」
「え、わたしのせい?」
「良い意味でです」
「良い意味の例外なら、神様が困った顔するのおかしくない?」
ログルは答えなかった。代わりに、宝石の光がもう一段、白く濁る。
アドミニスが、少しだけ笑った。
「管理画面の扉を開けるよ。勇者ちゃんが知りたいなら、見せるしかない」
「今さら隠しても遅いからね」
「うん。遅いね」
拠点の奥で、何か重いものが外れる音がした。椅子しかなかった白い部屋から、死因図鑑室、鑑定机、厨房、思い出ログ棚、罠訓練場、魔物休憩所、魔王相談窓口、仕様書保管棚、帰還門建設予定地まで増え続けた拠点。そのいちばん奥に、今までなかった扉が現れる。
白い扉だった。
けれど、清潔ではない。表面には、古い死亡ログが薄い爪痕みたいに刻まれている。
【管理画面の扉:開錠可能】
コヨリは深呼吸した。
「ログル」
「はい」
「神様の部屋ってこと?」
「近いと思います」
「じゃあ、土足で行く」
「拠点内に靴の概念はありません」
「気持ちの問題!」
コヨリは扉へ向かって歩き出した。白い窓の向こうで、アドミニスは止めなかった。止められないのか、止めないのかは分からない。
ただ、管理画面の隅に、小さな文字が浮かんでいた。
【閲覧権限:勇者コヨリ】
【同伴権限:ログル】
【警告:閲覧後、未確認には戻れません】
「ネタバレ注意ってこと?」
「かなり、そうです」
「よし。こっちは千百回死んでる。今さらネタバレで傷つくと思うなよ、神様」
そう言って扉を開けた瞬間、白い光が二人を飲み込んだ。
【今回の勇者ステータス】
現在シード:管理画面シード/ネタバレシード
死亡回数:1100回(この話では増加なし)
クラス:帰還者/死因学者/拠点管理人 複合状態
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
獲得済み主要スキル:【危険察知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.3】【足元確認 Lv.3】【射線確認 Lv.2】【満腹度管理 Lv.2】【帰還接続管理 Lv.1】【相棒同行意志 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【管理画面警戒 Lv.1】
拠点施設:【椅子】【死因図鑑室】【鑑定机】【厨房】【思い出ログ棚】【罠訓練場】【魔物休憩所】【シード地図室】【反省会テーブル】【拠点酒場】【魔王相談窓口】【魔王軍資料室】【死因研究室】【仕様書保管棚】【一フレーム道場】【帰還門建設予定地】【管理画面の扉】
【登場人物紹介】
・この話の焦点:神様に見つかった直後なので、全員の立場が「管理画面と向き合う側」に変わっています。
・コヨリ:神様の仕様書を読む側に回った幼女勇者。怒りと怖さを抱えつつ、帰る意志だけは曲げない。
・ログル:解析神獣。端末扱いから相棒へ再分類されつつある。冷静だが、もう完全に情がある。
・アドミニス:主神。世界を救いたかった目的は本物だが、説明不足と死亡ログ運用が最悪すぎるクソ運営。
【ローグライクあるある解説】
ボス前で一歩下がる、警告ログを見てから触る、未確定床を踏まない、という「一手を惜しまない安全確認」を拠点側で処理。最終盤でも基本は一歩確認です。
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