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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第28章 帰還同行シード――持ち帰り枠が足りません

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神様に見つかった――管理画面通知

死亡なし。帰還門は仮接続しました。そして通知は飛びます。


 帰還門は、完全には閉じなかった。

 拠点の中央に細い光の線だけを残して、息をひそめているように見えた。


 わたしは、その線の前に座っていた。

 肩にはログルがいる。左にはゼルドが立ち、右ではベルが書類の束を整えている。ネムは死亡受付側の窓を半分だけ開け、ハコベエ箱は店先で【本日噛みません】の札を貼られていた。


「ログル。今、神様に見つかってない?」

「完全起動はしていません。ですが、仮接続ログが管理層へ漏れる可能性はあります」

「可能性」

「低くはありません」

「低いって言って」

「嘘になります」

「ログルの正直なところ、好きだけど今はつらい」


 ベルが書類を差し出した。


「主神様に検知された場合の抗議文案です」

「早い」

「三種類ございます。柔らかめ、強め、法的に殴る用」

「三つ目の言い方!」

「勇者様、書類は時に剣より鋭いのです」

「ベルさんが言うと本当に斬れそう」


 ゼルドは帰還門を見ていた。


「アドミニスが動くなら、余も正式に抗議する。勇者を千百回も死なせたのだ」

「魔王さん、味方だと頼もしい」

「敵でも頼もしかったであろう」

「敵の時はだいたい死んでた」

「ぐぬ」


 ネムが手を挙げる。


「死亡受付側も、処理件数の異常増加について報告できます」

「わたしの死亡回数が証拠になるやつ」

「はい。とても分厚い証拠です」

「分厚くしたくなかった!」


 少し笑いが起きた。

 怖いのに、笑えた。


 帰れる場所が見えた。

 でも、まだ帰らない。

 それは一人で決めたわけではない。


 ログルは肩で尻尾を丸めている。ゼルドは魔王らしく腕を組みながら、胃のあたりを押さえている。ベルはいつでも主神を紙で殴れるように、角をそろえた抗議文を持っている。ネムは眠そうな顔で受付印を用意し、ハコベエ箱は余計な割引券を出さないよう、ふたを半分だけ閉じていた。


 思い出ログ棚では、ミーナやカイの名前が静かに光っている。

 持ち帰るんじゃない。

 つなぐ。


 わたしは壁の【帰る】の下に、さっき書いたばかりの文字を見上げた。


【つないで帰る】


「ログル」

「はい」

「これ、字、曲がってない?」

「少し曲がっています」

「そこは励まして」

「ですが、勇者様らしい字です」

「それは、励まし?」

「はい」


 ログルの声が、そこで低くなった。


「管理画面側に、反応があります」


 拠点の奥。

 ずっと閉じていた管理画面の扉が、白く光った。


 空気が変わる。

 きれいで、軽くて、人の痛みを置いてきたような光。


「ログル。通知、飛んだ?」

「......はい」


 管理画面の扉に、文字が浮かぶ。


【管理画面通知】

【帰還門仮接続を検知】

【接続元:拠点外領域】

【対象:勇者コヨリ】

【同行者:ログル】


 ログルの名前が、同行者として表示されている。

 それはうれしい。うれしいのに、背筋が冷える。


 ベルが、書類束を抱え直した。

「同行者表示、確認しました。記録端末ではありません」

「そこ、大事」

「はい。大変、大事です」


 ゼルドが一歩前へ出る。

「魔王側承認者として、余もここにいる」


 ネムが眠そうに判子を持ち上げた。

「死亡受付側証人として、ぼくもいます」


 ハコベエ箱がふたを開ける。

「商業接続箱として」

「今は黙って」

「噛みませんので」

「黙ってえらい、まであと一歩!」


 いつも通りのツッコミが出た。

 それだけで、少しだけ怖くなくなった。


 扉の向こうで、誰かが笑った気配がした。

 いつもの軽い笑い。チュートリアルで聞いた、あの声。明るくて、悪気がなさそうで、だから最悪な声。


「勇者ちゃん」


 白い扉の向こうに、主神アドミニスの影が映る。


「そこ、開けちゃったんだ」


 拠点の全員が、黙った。

 ログルの爪が、わたしの肩に少しだけ食い込む。痛くはない。けれど、ログルも怖いのだと分かった。


 わたしは帰還鍵を握った。


「ログル」

「はい」

「神様に苦情を入れる準備」

「できています」


 ベルが書類束を鳴らす。

「正式抗議文も提出可能です」


 ゼルドが笑う。

「余の分も忘れるな」


 ネムが眠そうに言う。

「死亡受付側の控えもあります」


 ハコベエ箱が口を開いた。

「割引券も」

「それはいらない!」


 扉の向こうで、アドミニスの影が首を傾げる。


「なんだか、ずいぶん賑やかになったね」


 わたしは帰還鍵を前に向けた。


「神様。今度は、こっちから仕様書出してもらうから」


 白い光が、拠点を満たした。

 でも、わたしは目をそらさなかった。


 逃げ道はまだない。打開アイテムも足りない。持ち帰り枠も、同行者枠も、全部ぎりぎり。

 でも、わたしはもう一人ではなかった。


「ログル」

「はい」

「作戦会議」

「はい。死ぬ前提ではなく、生きる前提で」


 わたしはうなずき、管理画面をにらんだ。


「神様ァ。今度こそ、仕様書出して」



 死亡受付の窓は、まだ開かない。

 ネムが判子を持ったまま、こくりと頷いた。


「今回は、受付処理なしです」

「死亡なし」

「はい。珍しいですね」

「珍しいって言わないで。わたしも分かってるけど!」


 そのやり取りで、わたしの肩から少しだけ力が抜けた。

 死なずに次の問題へ進む。

 それだけで、千百回ぶんの死因ログが、ほんの少し報われた気がした。


 管理画面の扉の前で、わたしは所持品を確認した。帰還鍵、分類拒否札の残り、ベルの抗議文写し、ログルの理由書。攻撃できるものは、ほとんどない。けれど、ここまで生き残った時だって、だいたい手持ちはぎりぎりだった。


「ログル、次の一手、なにから?」

「まず、聞くことです。動く前に、相手の仕様を引き出します」

「会話も打開アイテム?」

「相手が神様なら、かなり」


 ベルが横から一枚の書類を差し出した。


【説明不足に関する事前抗議文】


「準備よすぎない?」

「主神様相手ですので」


 ゼルドが低く笑う。


「勇者よ。今度は、余も証人だ」

「うん。逃げられないようにして」

「任せよ」


 ログルの宝石が、わたしの頬を淡く照らす。怖い時ほど、足元を見る。手持ちを見る。味方の位置を見る。神様の前でも、それは同じだ。


「勇者様。次の一手は、かなり危険です」

「知ってる」

「それでも?」

「それでも、聞く。仕様書を」


 白い扉の向こうで、アドミニスが楽しそうに息を吸った。

 わたしは一歩も動かず、でも逃げずに、その声を待った。


 ハコベエは、空気を読んだのか読んでいないのか、割引券を半分だけ口から出して止めていた。ベルがそれを無言で押し戻す。ゼルドは笑いそうになり、ネムは判子で口元を隠した。怖い場面なのに、いつもの拠点の音がする。


 それが、わたしを立たせた。


「神様」


 声は震えた。でも、消えなかった。


「わたし、もうチュートリアルの幼女じゃないから」


 アドミニスの影が、少しだけ黙る。

 その沈黙が、はじめてこっちの一手になった気がした。


 わたしは小さく息を吸った。動かないことも、一手を温存する攻略だ。今だけは、叫ぶ前に盤面を見る。

 今度こそ、聞き逃さない。


【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還同行シード

死亡回数:1100回

クラス:帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【帰還門感知 Lv.3】

【死因学習 Lv.5】

【総合盤面確認 Lv.4】

【帰宅猶予線形成 Lv.2】

【味方射線確認 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

統合:【同行者枠確認】【隊列確認】【同行者足元確認】【同行者指示】【同行人数制限】→【同行者管理 Lv.1】

統合:【持ち帰り枠確認】【持ち帰り枠整理】【接続先確認】→【帰還持ち帰り管理 Lv.1】

統合:【護衛足元確認】【同行者店内確認】【味方射線確認】→【味方事故警戒 Lv.1】

統合:【置いてけぼり拒否】【相棒防衛】【分類拒否】→【相棒同行意志 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ:帰還門を開いたことで神様に見つかっても、仕様書要求をやめない。

ログル:正式ではないが同行者として管理画面に表示される。

ゼルド:魔王側承認者として拠点に立つ。

ベル:正式抗議文で主神に備える法務担当。

ネム:死亡受付側証人として控える。

ハコベエ:商業接続箱。割引券は今いらない。

アドミニス:軽い声で帰還門接続を検知する主神。


【ローグライクあるある解説】

管理画面検知回。ダンジョンを抜けた後に上位管理者が反応する、いわば深層システム接触のクリフハンガーです。ローグライクで深く潜りすぎた結果、通常敵ではなくルールそのものが動き出す感覚を、神様の管理画面通知に置き換えています。ここでは死亡せず、次の攻略準備へつなぐための「階段を降りた先の警告音」として処理しています。


コヨリたちの次の作戦会議も見守っていただける方は、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援していただけると励みになります!

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