同行者枠1――ログル仮承認
ログル、仮承認。仮でも、荷物ではありません。
帰還門の光が、ログルの足元に丸い輪を作った。
【同行者枠:1】
【登録対象:ログル】
【分類審査:最終】
【状態:仮承認待ち】
「ログル、入って」
「はい」
ログルは輪の中に入る。
ベルは書類を構え、ゼルドは門の柱に手を置き、ネムは死亡受付側で判子を持つ。
ハコベエ箱は試食禁止の札を貼られ、今日は本当に静かだった。
【対象確認】
【旧分類:神様側貸与記録端末】
【新分類申請:同行者】
【確認:自己意志】
「ぼくは、コヨリ様と同行します」
【確認:勇者意志】
「ログルは、わたしの同行者。相棒。荷物でも端末でもない。一緒に帰る」
【確認:拠点側承認】
ゼルドが魔王印を掲げる。
「魔王ゼルド、承認する。ログルは勇者の相棒である」
ベルが書類を差し出す。
「分類修正に異議はございません。むしろ旧分類に異議があります」
ネムが判子を押す。
「死亡受付側も承認します。ログルさんがいないと、コヨリさんの死亡受付で会話が荒れます」
「そこ理由!?」
【再分類中】
長い。
長い長い長い。
光の中に、死因ログと成功ログが浮かぶ。
黒狼、ミミック、罠、時間、帰還門。
初めて罠を避けた時。ミーナのパンを残した時。ゼルドと休戦した時。ベルが書類で神様に殴りかかった時。
【分類:相棒】
「ほら」
ログルがこちらを見る。
「荷物じゃない」
「......はい」
「端末じゃない」
「はい」
「相棒」
「はい。相棒です」
【同行者枠:1】
【ログル同行:仮承認】
その瞬間、帰還門の奥がひずんだ。
「仮承認で帰還線が再計算されています」
「今!?」
「今です」
【帰還線揺れ】
【足元注意】
【次の一手:静止推奨】
「動かない!」
全員止まる。
なのに、ハコベエ割引券だけがアイテム欄でぴょこっと跳ねた。
「お前ええええええええ!」
叫んだので、ターンが進んだ。
「あ」
「勇者様」
帰還線が跳ね、足元が半歩ずれる。
その半歩が死因になった。
【死亡ログ】
【死因:ログル仮承認直後にハコベエ割引券へ反応し、帰還線揺れで足元をずらした】
【評価:仮承認中は割引券を無視しましょう】
【総死亡回数:1099回】
【新規獲得:相棒同行意志 Lv.1】
拠点で、ログルの宝石に文字が残っていた。
【ログル同行:仮承認】
「よかった」
「はい」
「割引券はあとで封印する」
「商業接続が抵抗するかと」
「強すぎる!」
同行者枠の白い札が、一枚だけ光っていた。
昨日までは「0」と表示されていた場所だ。何度見ても、そこに「1」とある。たった一つの数字なのに、わたしはずっと見ていられた。
【同行者枠:1】
【登録対象:ログル】
【分類:相棒】
【承認:仮】
「仮」
わたしはそこだけ指差した。
「仮って何」
「正式承認前の状態です」
「分かる。分かるけど、むかつく」
「ぼくは、仮でもうれしいです」
ログルは静かに言った。いつもなら「油断しないでください」とか「仮は仮です」とか言いそうなのに、今日はそれを言わない。
わたしは少し照れたので、わざとえらそうに腕を組んだ。
「ほら。荷物じゃない」
「はい」
「端末でもない」
「はい」
「相棒」
「......はい。相棒です」
その返事だけで、千回死んだぶんの何かが少し報われた気がした。
もちろん、神様のクソゲーは、そこで感動だけさせてはくれない。
【注意:仮承認状態では帰還門が不安定です】
【注意:同行者が離れた場合、承認が解除されます】
【注意:同行者が近すぎる場合、接触事故が発生します】
「距離感めんどくさ!」
「近すぎても離れすぎてもだめなようです」
「相棒判定が繊細!」
試験床には、二本の青い線が引かれていた。一本はわたし用。もう一本はログル用。二人で並んで歩き、一定距離を保ったまま帰還門の前まで進むらしい。簡単そうに見える。簡単そうに見えるものは、だいたい罠だ。
「ログル、歩幅」
「ぼくは小さいので、二歩で勇者様の一歩程度です」
「じゃあ、わたしがゆっくり」
「床に時間制限があります」
「ゆっくりさせて!」
床の端に、薄く数字が出た。
【同期歩行試験:30ターン】
ログルは小さく息を吐いた。
「勇者様。ぼくが肩に乗るほうが」
「接触事故って出てた」
「はい」
「じゃあ並んで歩く」
一歩。わたしが進む。ログルが二歩分、小さく走る。距離は保てている。床の青い線が明るくなる。
「いける」
「油断は」
「しない!」
前方に、白い風が吹いた。軽い押し戻し風。同行者との距離を乱すタイプだ。わたしは踏ん張り、ログルは爪を床に立てる。
「ログル、右の壁!」
「はい!」
ログルが壁際へ寄る。わたしも半歩寄る。青い線が保たれる。いい。いける。
次に、床から【持ち帰り札】が一枚飛び出した。札はひらひら舞い、わたしの顔に貼りつく。
「見えない!」
「勇者様、止まってください!」
「止まるとターンは?」
「行動しなければ進みませんが、札が顔に貼りついている状態は危険です」
「顔面持ち帰り札!」
札をはがすと一手。はがさなければ前が見えない。わたしはそっと札をつまんだ。はがす。一手。
その一手で、ログルが二歩ぶん進んでしまった。距離が近づく。
【警告:同行者接触範囲】
「ログル、待って!」
「待っています!」
「世界判定が待ってくれない!」
白い風がもう一度吹いた。ログルの体がふわりと浮き、わたしの胸元へ飛んでくる。反射的に抱きとめた。
【接触事故】
【仮承認:不安定化】
「抱っこもだめなの!?」
「相棒距離としては適切ですが、試験距離としては近すぎます!」
「試験が情緒を分かってない!」
床が抜ける直前、ログルは小さく笑った。
「でも、落ちる時は一緒ですね」
「そこ喜ぶところじゃないいいいいいい!」
落ちたあと、ログルは少しだけ毛並みを整えながら、「抱きとめていただいたこと自体は、嫌ではありません」と言った。わたしは顔が熱くなったので、帰還門の距離判定に文句を言うふりをした。相棒距離と試験距離が違うなら、両方を覚えるしかない。罠の種類が増えたと思えばいい。思えばいいけど、情緒を罠扱いするのは、やっぱり納得いかなかった。
仮承認試験のあと、わたしとログルは床に線を引いて、相棒距離の練習をした。近すぎると不安定。遠すぎると同行判定が切れる。ちょうどいい距離は、思ったより狭い。
「相棒なのに、距離が大事なの変じゃない?」
「相棒だから、でしょう」
「ログルが急にいいこと言った」
「たまには言います」
わたしは一歩下がる。ログルも一歩下がる。青い線は保たれた。次に、わたしが半歩だけ前へ出る。ログルが首を傾げる。
【警告:近すぎます】
「門がうるさい!」
「ですが、正確です」
「抱っこ禁止の相棒試験、心に悪い!」
ゼルドが横で見学しながら、真顔で言った。
「余も相棒距離を測るべきか」
「魔王さんは通路距離から!」
ベルがすぐにメモを取る。相棒距離、通路距離、書類距離。帰還門攻略は、いつの間にか距離の授業になっていた。
【今回の勇者ステータス】
現在シード:帰還同行シード
死亡回数:1099回
クラス:帰還者
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
【帰還門感知 Lv.3】
【死因学習 Lv.5】
【総合盤面確認 Lv.4】
【帰宅猶予線形成 Lv.1】
【帰還持ち帰り管理 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【相棒同行意志 Lv.1】
【登場人物紹介】
コヨリ:仮でもログルが相棒分類になったことを喜ぶ。
ログル:相棒と言われて素直にうれしそうにする。
帰還門:情緒を理解しない距離感試験を出す。
【ローグライクあるある解説】
同期歩行試験回。護衛対象や同行者と距離を保つタイプのミッションは、足並みが崩れるだけで事故になります。押し戻し風、顔面札、接触判定で細かい一手のズレを死因にしています。 仮承認回。識別済みでも呪いが残る腕輪のように、「承認されたが安全ではない」状態です。同行者枠に入ったあとも、距離や判定で死ぬ緊張を残しています。
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