持ち帰るんじゃない、つなぐ
荷物にすると足りません。だから、接続に変えます。
帰還門の前に、白い枠が並んだ。
【持ち帰り枠:4】
【同行者枠:保留】
【拠点接続:未確定】
【記憶因子:未圧縮】
「ログルは同行者枠」
「はい」
「死因ログは記憶因子」
「はい」
「拠点は帰還門の片側」
「はい」
「ハコベエ割引券は」
「戻ってきています」
「なんで!」
まず、死因ログ圧縮束を門へ置く。
ログルの宝石が光り、死因図鑑室の扉が開いた。
黒狼、ミミック、罠、満腹度切れ、遠投事故、店判定、味方射線、通路詰まり。千を超える死因が紙ではなく光の線になり、わたしの手首へ絡む。
「忘れるんじゃないんだよね」
「はい。持ち方を変えるだけです」
【死因ログ圧縮束:物品枠から除外】
【記憶因子:接続】
次は拠点接続証明書。
ベルが書類を読み、ゼルドが門の柱に手を置き、ネムが死亡受付側から処理線をつなぐ。
「拠点を荷物として扱うな」
わたしは門に言った。
「ここは、わたしが死んでも残った場所。帰るために作った場所。置いていくんじゃなくて、片側にする」
【拠点接続:再判定】
床が抜けた。
「うそ!」
接続先を間違えた。拠点ではなく、ハコベエ箱の口へつながった。
「いらっしゃいませ」
「そこじゃない!」
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
【死亡ログ】
【死因:拠点接続先を誤り、ハコベエ箱の口へ帰還門をつないだ】
【評価:商業接続が強すぎます】
【総死亡回数:1096回】
【新規獲得:接続先確認 Lv.1】
二回目は、ベルの抗議文だけが帰った。
【帰還対象不一致】
白い光が弾ける。
【死亡ログ】
【死因:ベルの正式抗議文だけが先に帰還し、帰還対象不一致で弾かれた】
【総死亡回数:1097回】
三回目は、ゼルドの勤務表が元世界の玄関へ貼られかけた。
「うちの玄関に魔王軍シフト貼るなああああああ!」
【死亡ログ】
【死因:ゼルドの労働改善要求書が帰還門に混線し、元世界玄関へ魔王軍勤務表を貼りかけた】
【総死亡回数:1098回】
四回目。
ハコベエ箱には札。抗議文は別便。要求書は魔王相談窓口に固定。
死因ログは記憶因子。拠点は門の片側。
帰還鍵を差し込む。
「持ち帰るんじゃない。つなぐ」
【拠点接続:仮成立】
【記憶因子:接続維持】
【持ち帰り枠:圧縮成功】
「できた?」
「はい。できました」
【商業接続:維持】
「そこは切れてよかった!」
帰還門の前に、道具を並べるのをやめた。
代わりに、線を引くことにした。
死因ログ束から、細い記録の糸を一本。思い出ログ棚から、パンの匂いみたいな薄い金色の糸を一本。魔王相談窓口から、黒くて妙に几帳面な糸を一本。ベルの書類から、紙の端みたいに白い糸を一本。ハコベエ箱からは、なぜか値札のついた糸が出てきた。
「ハコベエ、この糸なに」
「商業接続です」
「割引ついてる」
「お得です」
「帰還門にセールを混ぜるな」
ログルの宝石が、糸の位置を示してくれる。持ち帰るのではなく、つなぐ。口で言うのは簡単だが、実際にやるとかなり面倒だった。線が絡む。接続先を間違える。思い出ログの糸がハコベエの口に吸い込まれかける。
「ミーナさんのパンの記録を商品化しないで!」
「限定パン記憶セットとして」
「しない!」
最初の失敗は、死因ログを帰還門ではなくハコベエ箱につないだ時だった。
【接続先:ハコベエ】
【死因ログ試食中】
「食べるな!」
「今のは試食です」
「死因ログを試食するなあああああ!」
死んだ。
理由は、ハコベエが死因ログの中のミミック事故を再現してしまったからだ。自分の死因で二度死ぬのは、なかなか心にくる。
二度目の失敗は、ベルの抗議文を元世界側の玄関へ送ってしまった時だった。
【接続先:元世界玄関】
【送信物:正式抗議文】
「待って! 家の郵便受けに異世界の苦情書類入れないで!」
たぶん向こう側の郵便受けが爆発した。わたしも境界反動で死んだ。ベルは「届いたなら意味があります」と少し満足そうだった。怖い。
三度目は、ゼルドの労働改善要求書を帰還門の動力部へ差し込んだ時だ。
【動力部:労働改善要求を受理】
【帰還門:休憩に入ります】
「門が休憩した!」
「労働環境改善は重要だ」
「魔王さん、今は門に働いてほしい!」
門が休憩した結果、床が抜けた。死んだ。
四度目から、わたしは黙って接続表を作った。反省会テーブルの端に大きく書く。
【死因ログ:記憶因子】
【思い出ログ:縁因子】
【拠点:門の片側】
【ゼルド:拠点側門番】
【ベル:法務接続】
【ハコベエ:商業接続。ただし監視】
【ログル:同行者】
ログルが横から覗き込む。
「勇者様、ハコベエ様のところだけ少し感情が出ています」
「監視は必要」
「同意します」
線を引くたびに、帰還門の光が変わった。物を入れる箱だった門が、少しずつ道になっていく。死因ログ束は薄くなり、拠点証明書の紙は門の床へ溶けた。ゼルドの黒い糸は、拠点側の柱に巻きつく。ベルの白い糸は、門の縁に細かい文字を刻む。
ミーナの思い出ログから出た金色の糸は、わたしの胸元を通って門へ伸びた。パンの匂いが、ほんの少しする。
「持って帰らないのに、消えない」
「はい」
「変な感じ」
「でも、悪い感じではありません」
ログルの糸だけは、まだ宙に浮いていた。門にも、拠点にも、神様側にもつながりかけて、迷っている。
わたしはその糸を、そっと自分の手首に巻いた。
【接続先確認】
【ログル:同行者枠へ接続申請】
「これで、荷物じゃない」
「まだ仮です」
「仮でも、荷物じゃない」
門が低く鳴った。白い光の中に、初めて青い線が一本混ざった。
接続表の最後に、わたしは小さく【確認してからつなぐ】と書いた。ログルがそれを見て、満足そうにうなずく。未識別の草を飲む前に確認する。杖を振る前に方向を見る。帰還門をつなぐ前に、相手がハコベエかどうか確かめる。規模は違っても、やることは同じだった。雑に使えば、どんな便利なものでも死因になる。
接続表を作っている間、ハコベエだけが何度も線を太くしようとした。商業接続の線だけ妙に存在感が強い。ベルが細いペンで戻し、ハコベエが太いペンで足す。その攻防が三回続いたところで、ゼルドが無言で太いペンを没収した。
「商売根性までつながなくていい」
「噛みませんので」
「噛まない商売根性が一番しつこい」
ログルは表の右下に、小さな確認欄を作った。
【接続先】
【接続理由】
【接続すると誰が困るか】
「三つ目、いる?」
「かなり重要です」
「ハコベエは?」
「全員が少し困ります」
「じゃあ監視つきで」
笑いながら書ける接続もあれば、ミーナやカイのように、黙って線を引く接続もある。どれも同じ表に載った。帰るための表なのに、見れば見るほど、ここで出会った人たちの地図になっていく。
死因ログ束が薄くなる時、紙の端から小さな文字がこぼれた。黒狼、ミミック、落とし穴、満腹度切れ。嫌な名前ばかりなのに、消えるとなると少し寂しい。
「消えません。形を変えます」
ログルが先に言った。
「顔に出てた?」
「かなり」
わたしは鼻をすすり、表に【死因ログ:記憶因子へ】と書いた。死んだ回数は荷物ではない。たぶん、階段だ。
【今回の勇者ステータス】
現在シード:帰還同行シード
死亡回数:1098回
クラス:帰還者
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
【帰還門感知 Lv.3】
【死因学習 Lv.5】
【総合盤面確認 Lv.4】
【帰宅猶予線形成 Lv.1】
【帰還持ち帰り管理 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【接続先確認 Lv.1】/死亡回数+3
【登場人物紹介】
コヨリ:物を持つのではなく、線をつなぐ攻略へ切り替える。
ログル:接続先確認を補助し、最後は自分の糸をコヨリに預ける。
ハコベエ:死因ログまで商品化しかける油断ならない箱。
ベル/ゼルド:書類と門番として接続先になる。
【ローグライクあるある解説】
接続先ミス回。壺に入れ間違える、巻物を読む場所を間違える、転送先を間違える系の事故を、帰還門接続に変換しました。接続表を作ることで、攻略メモではなく場面内整理にしています。 接続先ミスで何度も死ぬ回です。場所替えや帰還の巻物の送り先を間違える事故を、拠点接続とハコベエ箱の誤接続に変換しています。
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