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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第28章 帰還同行シード――持ち帰り枠が足りません

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帰還門管理者――仲間を荷物に分類するな

帰還門管理者は、分類するだけの存在です。だから話が通じません。



 帰還門の奥に、顔のない人影が立っていた。

 白い布をかぶったような姿で、目も口もない。ただ、分類するためだけに作られた形だった。


 周囲に札が浮かぶ。


【荷物】

【記録】

【端末】

【不要データ】

【同行不可】


 見ただけで、わたしの中の怒りスイッチが押された。


【対象を分類します】

【ログル:端末】

【処理:返却】


「違う」


【再分類不可】


「できる」


【基準外】


「基準が間違ってる」


【荷物ではありませんか】

「仲間」

【記録ではありませんか】

「相棒」

【端末ではありませんか】

「ログル!」


 叫んだ瞬間、床が赤くなった。大声は行動。管理者にも一手が渡る。

 白い札が、刃みたいに飛んできた。


 最初の札は【荷物】だった。

 避けると、ハコベエ割引券に貼りつく。


【ハコベエ割引券:荷物】


「それは合ってる!」

「勇者様、今は同意しないでください」

「ごめん、正確だったから!」


 次は【端末】。

 まっすぐログルへ飛ぶ。


「だめ!」


 わたしは前に出た。札が胸に当たり、体の奥が白くしびれる。


【分類衝突】

【勇者:端末分類不可】

【処理失敗】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【死亡ログ】

【死因:ログルを端末分類から庇い、分類札の直撃を受けた】

【評価:仲間を荷物に分類するな】

【総死亡回数:1093回】

【新規獲得:分類拒否 Lv.1】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 二回目。

 ベルが書類で札を弾き、ゼルドが【荷物】札を斬る。ログルは宝石で【記録】札を受け流した。


 管理者が新しい札を出す。


【不要データ】


 札は、死因ログ圧縮束へ飛んだ。


「それもだめ!」


 わたしは帰還鍵(ホームキー)で叩いた。札は割れた。けれど、破片が思い出ログ棚へ飛び、ミーナの名前が薄くなる。


「やめろおおおおおおおお!」


 管理者の手が頭に触れた。

 記憶の奥が白くなる。食べ物をくれた手、木剣を渡した少年、死んだあとも消えなかった拠点の椅子。そういうものを、ただの不要データとして削られる感覚がした。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【死亡ログ】

【死因:不要データ札の破片を受け、思い出ログ防衛に失敗した】

【評価:削除対象ではありません】

【総死亡回数:1094回】

【更新:相棒防衛 Lv.1】→【相棒防衛 Lv.2】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 三回目。

 わたしは叫ばなかった。怒りは行動に変える。


 管理者が【端末】札を出す。

 ログルが一歩前へ出た。


「ぼくは、端末として作られました。でも、今は自分で選びます。ぼくは、コヨリ様と同行します」


【自己意志を確認】

【分類保留】


 ベルが書類を叩き込み、ゼルドが魔王印を押す。

 わたしは分類拒否札を管理者へ向けた。


「仲間を荷物に分類するな」


【審査継続】

【同行者分類:保留】


「保留で喜ぶの、役所っぽくていや」

「ですが、生きています」

「それは最高」


 そう言った次の一手で、管理者は別の札を出した。


【仮保留対象:回収】


「最高じゃなかった!」


 白い鎖がログルの足元へ伸びる。わたしは分類拒否札を投げようとした。だが、指先が震えて、一拍遅れる。

 一拍。

 ローグライクの一拍は、だいたい命取りだ。


 鎖がログルの宝石に触れた瞬間、わたしは飛び込んだ。

 分類札、書類、魔王印、死因ログの文字がぐちゃぐちゃに混ざり、視界が白く潰れる。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【死亡ログ】

【死因:仮保留対象の回収処理へ割り込み、ログルの分類鎖を肩代わりした】

【評価:一拍遅れましたが、届きました】

【総死亡回数:1095回】

【更新:相棒防衛 Lv.2】→【相棒防衛 Lv.3】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 四回目。

 帰還門管理者は、まだそこにいた。人の形をしていない。白い箱のような輪郭に、文字だけが浮いている。顔はない。声もない。ただ分類する。そこに悪意は見えない。だからこそ、余計に腹が立った。


【対象を分類します】

【勇者コヨリ:帰還対象】

【ログル:記録端末】

【ゼルド:魔王個体】

【ベル:魔王軍秘書個体】

【死因ログ:記録束】

【思い出ログ:不要データ候補】


「不要データって言うな」


 管理者は反応しない。怒られ慣れていないのではなく、怒られるという概念を持っていない感じだった。


【記録端末は荷物枠に分類されます】

【魔王個体は同行不可】

【秘書個体は同行不可】

【不要データは削除可能】


「仲間を荷物に分類するな!」


 叫んだ瞬間、床が赤くなった。大声は行動。管理者も一手進む。白い枠から細い分類線が伸びてくる。対象に触れると、ラベルを貼られるらしい。


 ログルが前に出ようとした。


「ぼくが」

「下がって」

「でも」

「下がって!」


 ログルが止まる。わたしは【分類拒否札】を握った。さっき死んだおかげで、札を投げる角度だけは少し分かる。死に覚えって便利。便利だけど、できれば授業料を命にしないでほしい。


「ログル、確率」

「分類拒否成功率、三割。失敗時、勇者様が荷物扱いになる可能性があります」

「幼女を荷物にするな!」

「管理者には、その区別が薄いようです」


 分類線が迫る。わたしは札を投げた。


 一手。


 札が白い箱に貼りつき、文字が乱れた。


【ログル:記録端末】

【ログル:荷物】

【ログル:相棒】

【ログル:未定】


「よし!」


 だが、管理者はすぐに再分類を始めた。


【未定項目を再判定】


 白い線が三本に増える。一本はログルへ。一本は死因ログ棚へ。一本は、わたしの胸へ。


「勇者様、右」

「右、死因ログ棚!」

「左はベル様の書類です」

「どっちも踏みたくない!」


 ベルの通信窓が開いた。


「勇者様、わたくしの書類は踏んでもかまいません。写しがあります」

「今だけベルさんが天使!」

「ただし、汚損報告書は後で提出していただきます」

「天使じゃなかった!」


 わたしは左へ飛んだ。ベルの書類を踏む。すごく罪悪感がある。だが、分類線は外れた。死因ログ棚も守れた。ログルも無事。


 そう思った時、踏んだ書類から別の魔法陣が出た。


【正式抗議文:自動提出】


「ベルさん!?」

「申し訳ございません。踏圧で起動する封印を仕込んでおりました」

「なんで書類に罠を仕込むの!?」

「法務防衛です」


 抗議文が管理者へ突撃した。白い箱に紙束が貼りつき、管理者の分類文字を覆っていく。


【抗議対象:分類基準の不備】

【抗議対象:人格の荷物扱い】

【抗議対象:不要データ表記】


 管理者が初めて止まった。書類が効いている。ベル、怖い。頼もしい。


「今です、勇者様!」


 ログルが叫ぶ。わたしはもう一枚の分類拒否札を取り出し、管理者の中心へ叩きつけた。


【分類更新】

【ログル:相棒候補】


「候補!」

「一歩前進です!」

「ローグライクの一歩は命がけなんだよおおおおお!」


 管理者の箱が割れたわけではない。ただ、文字が一つ変わった。荷物から、候補へ。


 その一文字のために、わたしは三回死んだ。

 でも、三回で済んだなら安いと思ってしまうあたり、だいぶ神様のクソゲーに染まっている。


 割れかけた管理者の箱からは、まだ白い文字が漏れていた。荷物、端末、記録物。どれも消えたわけではない。ただ、その中に相棒候補が混ざった。


「候補って、まだ弱いよね」

「はい。正式承認ではありません」

「でも、荷物だけじゃなくなった」

「はい」


 ログルは短く答えたが、宝石の光はいつもより明るい。三回死んだ価値が、少しだけそこに見えた。


 ベルの抗議文は管理者の表面に貼りついたまま、ぺらぺらと追記を続けている。書類が自動で怒っている。怖い。


「ベルさんの書類、まだ戦ってる」

「法務防衛は持続効果があります」

「状態異常みたいに言わないで」


【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還同行シード

死亡回数:1095回

クラス:帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【帰還門感知 Lv.3】

【死因学習 Lv.5】

【総合盤面確認 Lv.4】

【帰宅猶予線形成 Lv.1】

【相棒防衛 Lv.3】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【分類拒否 Lv.1】/死亡回数+3

更新:【相棒防衛 Lv.2】→【相棒防衛 Lv.3】


【登場人物紹介】

コヨリ:分類だけの管理者に本気で怒る。三回死んでも「相棒候補」の一文字を取りにいく。

ログル:荷物扱いから相棒候補へ一歩進む。

ベル:踏圧起動する抗議文で管理者を止める怖い法務担当。

ゼルド:魔王印で分類基準に割り込む苦労人魔王。


【ローグライクあるある解説】

分類管理者戦。敵というよりシステムそのものを相手にする回です。ラベル貼り、荷物分類、不要データ判定を、識別・分類・呪い判定のようなローグライク的怖さにしています。装備やアイテムの区分を間違えると一気に詰む、あの「表示は正しいのに納得できない」感じを、仲間分類へ置き換えています。


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