帰還門管理者――仲間を荷物に分類するな
帰還門管理者は、分類するだけの存在です。だから話が通じません。
帰還門の奥に、顔のない人影が立っていた。
白い布をかぶったような姿で、目も口もない。ただ、分類するためだけに作られた形だった。
周囲に札が浮かぶ。
【荷物】
【記録】
【端末】
【不要データ】
【同行不可】
見ただけで、わたしの中の怒りスイッチが押された。
【対象を分類します】
【ログル:端末】
【処理:返却】
「違う」
【再分類不可】
「できる」
【基準外】
「基準が間違ってる」
【荷物ではありませんか】
「仲間」
【記録ではありませんか】
「相棒」
【端末ではありませんか】
「ログル!」
叫んだ瞬間、床が赤くなった。大声は行動。管理者にも一手が渡る。
白い札が、刃みたいに飛んできた。
最初の札は【荷物】だった。
避けると、ハコベエ割引券に貼りつく。
【ハコベエ割引券:荷物】
「それは合ってる!」
「勇者様、今は同意しないでください」
「ごめん、正確だったから!」
次は【端末】。
まっすぐログルへ飛ぶ。
「だめ!」
わたしは前に出た。札が胸に当たり、体の奥が白くしびれる。
【分類衝突】
【勇者:端末分類不可】
【処理失敗】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
【死亡ログ】
【死因:ログルを端末分類から庇い、分類札の直撃を受けた】
【評価:仲間を荷物に分類するな】
【総死亡回数:1093回】
【新規獲得:分類拒否 Lv.1】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
二回目。
ベルが書類で札を弾き、ゼルドが【荷物】札を斬る。ログルは宝石で【記録】札を受け流した。
管理者が新しい札を出す。
【不要データ】
札は、死因ログ圧縮束へ飛んだ。
「それもだめ!」
わたしは帰還鍵で叩いた。札は割れた。けれど、破片が思い出ログ棚へ飛び、ミーナの名前が薄くなる。
「やめろおおおおおおおお!」
管理者の手が頭に触れた。
記憶の奥が白くなる。食べ物をくれた手、木剣を渡した少年、死んだあとも消えなかった拠点の椅子。そういうものを、ただの不要データとして削られる感覚がした。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
【死亡ログ】
【死因:不要データ札の破片を受け、思い出ログ防衛に失敗した】
【評価:削除対象ではありません】
【総死亡回数:1094回】
【更新:相棒防衛 Lv.1】→【相棒防衛 Lv.2】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
三回目。
わたしは叫ばなかった。怒りは行動に変える。
管理者が【端末】札を出す。
ログルが一歩前へ出た。
「ぼくは、端末として作られました。でも、今は自分で選びます。ぼくは、コヨリ様と同行します」
【自己意志を確認】
【分類保留】
ベルが書類を叩き込み、ゼルドが魔王印を押す。
わたしは分類拒否札を管理者へ向けた。
「仲間を荷物に分類するな」
【審査継続】
【同行者分類:保留】
「保留で喜ぶの、役所っぽくていや」
「ですが、生きています」
「それは最高」
そう言った次の一手で、管理者は別の札を出した。
【仮保留対象:回収】
「最高じゃなかった!」
白い鎖がログルの足元へ伸びる。わたしは分類拒否札を投げようとした。だが、指先が震えて、一拍遅れる。
一拍。
ローグライクの一拍は、だいたい命取りだ。
鎖がログルの宝石に触れた瞬間、わたしは飛び込んだ。
分類札、書類、魔王印、死因ログの文字がぐちゃぐちゃに混ざり、視界が白く潰れる。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
【死亡ログ】
【死因:仮保留対象の回収処理へ割り込み、ログルの分類鎖を肩代わりした】
【評価:一拍遅れましたが、届きました】
【総死亡回数:1095回】
【更新:相棒防衛 Lv.2】→【相棒防衛 Lv.3】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
四回目。
帰還門管理者は、まだそこにいた。人の形をしていない。白い箱のような輪郭に、文字だけが浮いている。顔はない。声もない。ただ分類する。そこに悪意は見えない。だからこそ、余計に腹が立った。
【対象を分類します】
【勇者コヨリ:帰還対象】
【ログル:記録端末】
【ゼルド:魔王個体】
【ベル:魔王軍秘書個体】
【死因ログ:記録束】
【思い出ログ:不要データ候補】
「不要データって言うな」
管理者は反応しない。怒られ慣れていないのではなく、怒られるという概念を持っていない感じだった。
【記録端末は荷物枠に分類されます】
【魔王個体は同行不可】
【秘書個体は同行不可】
【不要データは削除可能】
「仲間を荷物に分類するな!」
叫んだ瞬間、床が赤くなった。大声は行動。管理者も一手進む。白い枠から細い分類線が伸びてくる。対象に触れると、ラベルを貼られるらしい。
ログルが前に出ようとした。
「ぼくが」
「下がって」
「でも」
「下がって!」
ログルが止まる。わたしは【分類拒否札】を握った。さっき死んだおかげで、札を投げる角度だけは少し分かる。死に覚えって便利。便利だけど、できれば授業料を命にしないでほしい。
「ログル、確率」
「分類拒否成功率、三割。失敗時、勇者様が荷物扱いになる可能性があります」
「幼女を荷物にするな!」
「管理者には、その区別が薄いようです」
分類線が迫る。わたしは札を投げた。
一手。
札が白い箱に貼りつき、文字が乱れた。
【ログル:記録端末】
【ログル:荷物】
【ログル:相棒】
【ログル:未定】
「よし!」
だが、管理者はすぐに再分類を始めた。
【未定項目を再判定】
白い線が三本に増える。一本はログルへ。一本は死因ログ棚へ。一本は、わたしの胸へ。
「勇者様、右」
「右、死因ログ棚!」
「左はベル様の書類です」
「どっちも踏みたくない!」
ベルの通信窓が開いた。
「勇者様、わたくしの書類は踏んでもかまいません。写しがあります」
「今だけベルさんが天使!」
「ただし、汚損報告書は後で提出していただきます」
「天使じゃなかった!」
わたしは左へ飛んだ。ベルの書類を踏む。すごく罪悪感がある。だが、分類線は外れた。死因ログ棚も守れた。ログルも無事。
そう思った時、踏んだ書類から別の魔法陣が出た。
【正式抗議文:自動提出】
「ベルさん!?」
「申し訳ございません。踏圧で起動する封印を仕込んでおりました」
「なんで書類に罠を仕込むの!?」
「法務防衛です」
抗議文が管理者へ突撃した。白い箱に紙束が貼りつき、管理者の分類文字を覆っていく。
【抗議対象:分類基準の不備】
【抗議対象:人格の荷物扱い】
【抗議対象:不要データ表記】
管理者が初めて止まった。書類が効いている。ベル、怖い。頼もしい。
「今です、勇者様!」
ログルが叫ぶ。わたしはもう一枚の分類拒否札を取り出し、管理者の中心へ叩きつけた。
【分類更新】
【ログル:相棒候補】
「候補!」
「一歩前進です!」
「ローグライクの一歩は命がけなんだよおおおおお!」
管理者の箱が割れたわけではない。ただ、文字が一つ変わった。荷物から、候補へ。
その一文字のために、わたしは三回死んだ。
でも、三回で済んだなら安いと思ってしまうあたり、だいぶ神様のクソゲーに染まっている。
割れかけた管理者の箱からは、まだ白い文字が漏れていた。荷物、端末、記録物。どれも消えたわけではない。ただ、その中に相棒候補が混ざった。
「候補って、まだ弱いよね」
「はい。正式承認ではありません」
「でも、荷物だけじゃなくなった」
「はい」
ログルは短く答えたが、宝石の光はいつもより明るい。三回死んだ価値が、少しだけそこに見えた。
ベルの抗議文は管理者の表面に貼りついたまま、ぺらぺらと追記を続けている。書類が自動で怒っている。怖い。
「ベルさんの書類、まだ戦ってる」
「法務防衛は持続効果があります」
「状態異常みたいに言わないで」
【今回の勇者ステータス】
現在シード:帰還同行シード
死亡回数:1095回
クラス:帰還者
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
【帰還門感知 Lv.3】
【死因学習 Lv.5】
【総合盤面確認 Lv.4】
【帰宅猶予線形成 Lv.1】
【相棒防衛 Lv.3】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【分類拒否 Lv.1】/死亡回数+3
更新:【相棒防衛 Lv.2】→【相棒防衛 Lv.3】
【登場人物紹介】
コヨリ:分類だけの管理者に本気で怒る。三回死んでも「相棒候補」の一文字を取りにいく。
ログル:荷物扱いから相棒候補へ一歩進む。
ベル:踏圧起動する抗議文で管理者を止める怖い法務担当。
ゼルド:魔王印で分類基準に割り込む苦労人魔王。
【ローグライクあるある解説】
分類管理者戦。敵というよりシステムそのものを相手にする回です。ラベル貼り、荷物分類、不要データ判定を、識別・分類・呪い判定のようなローグライク的怖さにしています。装備やアイテムの区分を間違えると一気に詰む、あの「表示は正しいのに納得できない」感じを、仲間分類へ置き換えています。
コヨリの分類拒否を見守っていただける方は、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!




