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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第28章 帰還同行シード――持ち帰り枠が足りません

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同行者登録最終試験――ログルだけを選ぶ

同行者枠はひとり。だから、ログルを選びます。


 帰還門の前に、白い円が三つ浮かんだ。


【同行者】

【接続者】

【記憶因子】


 前は全部、荷物扱いだった。

 今は少しだけ分類が増えている。ベルの書類が効いたのだ。紙、強い。


【同行者枠:1】

【登録対象を選択してください】


【ログル】

【ゼルド】

【ベル】

【ハコベエ箱】


「ハコベエ箱、候補に入ってる」

「商業的価値が認められました」

「うれしくない方向で強い!」


 候補を見た。

 ゼルドは強い。でも、拠点側で門を守る。

 ベルは有能。でも、法務担当として残るほうが強い。

 ハコベエ箱は便利だけど、店判定で死ぬ未来しか見えない。


 ログル。


「ログル」

「はい」

「来て」


 ログルは迷わず歩いてきた。

 帰還門の文字が揺れる。


【登録対象:ログル】

【分類:記録端末】

【警告:同行者分類と矛盾】


 ベルが書類を掲げる。

「異議あり。記録端末人格化証明、勇者相棒関係継続申立書、魔王側承認書、死亡受付側証明書を提出済みです」


 ゼルドが魔王印を掲げる。

「余も承認した」


 ネムが小窓から判子を見せる。

「ログルさんは、ただの端末にしては心配しすぎます」


【再分類中】


 わたしはログルを抱きたいのを我慢した。

 抱っこすると未登録保持判定で死ぬ。覚えた。えらい。


 ログルは自分で、わたしの横に立つ。


「ぼくは、同行者として登録されたいです」


【対象発話を確認】

【自己意志あり】


「ログル、もう一回」

「ぼくは、コヨリ様と一緒に帰りたいです」


 泣きそうになった。

 でも今泣いたら、神様の仕様が水分過多とか言い出しそうなので我慢した。


【登録対象:ログル】

【分類変更申請:受理】

【同行者枠:仮登録】


 次に接続者登録。

 ゼルドは拠点側門番。ベルは法務担当。ネムは死亡処理証人。ハコベエは商業接続箱。


「通った!?」

「通りました」

「なんで!?」

「割引券が強すぎます」


 最後に、思い出ログ棚が光った。

 ミーナ、カイ、いろんなシードで出会った人たちの名前が、細い線になって門へつながる。


【記憶因子:接続】


 連れていけない。

 でも、なかったことにはしない。


「次は、通ります」

 ログルが言った。


「一緒にね」

「はい。一緒に」


 同行者登録最終試験の入口には、白い枠が二つあった。

 一つは、わたし用。もう一つは、同行者用。とても単純な形だ。単純すぎて、逃げ道がない。


【同行者枠:1】

【登録対象を選択してください】


 枠の前に立つと、拠点の記録が次々に浮かんだ。ゼルド。ベル。ネム。ミーナ。カイ。ピヨラ。ハコベエ。リュシア。今まで出会った人たちの記録が、白い札になって揺れている。


 全部、選びたくなる。


「ログル」

「はい」

「こういう選択画面、嫌い」

「宝箱を選ぶ時は、わりと楽しそうですが」

「宝箱は噛むから嫌い!」

「選択理由が複雑です」


 わたしはまず、ゼルドの札に触れた。黒い光が広がり、魔王城の執務室が一瞬見える。疲れた魔王が、神様の仕様変更通知を読んで胃を押さえている。


【ゼルド:拠点側門番候補】

【同行時リスク:通路詰まり/威圧起床/魔王存在値過多】


「魔王存在値過多って何」

「存在感が大きいということかと」

「たしかに」


 ベルの札に触れる。紙の音が重なり、眼鏡の奥の鋭い目が見えた。


【ベル:法務接続候補】

【同行時リスク:書類枠圧迫/正式抗議文保護行動/店舗判定過敏】


「ベルさん、後ろ二つが強すぎる」

「ベル様らしいです」


 ミーナの札に触れると、パンの匂いがした。カイの札には、木剣の感触があった。ネムの札は眠そうで、ハコベエの札は噛もうとしたので、すぐ手を離した。


「みんな、同行者じゃないとだめかな」

「いいえ」


 ログルの声は、静かだった。


「思い出ログ、拠点側接続、死亡処理証人、法務担当、門番。形を変えれば、消えずにつながる方法があります」

「ログルは?」

「ぼくは」


 ログルは自分の札を見た。


【ログル:分類未定】

【候補:記録端末/荷物/相棒】


「ぼくは、まだ決まっていません」

「決める」


 わたしはログルの札をつかんだ。

 その瞬間、床のマス目が赤くなる。帰還門が警告を出す。


【注意:ログル登録により帰還成功率が低下します】

【注意:神様側貸与物の持ち出し判定が発生します】

【注意:同行者枠を消費します】


「うるさい」


 声は小さかった。でも、ちゃんと行動判定になった。門の光が揺れる。


「成功率が下がっても、返却判定が出ても、枠を使っても、ログル」

「勇者様」

「ゼルドさんは門番。ベルさんは法務。ネムさんは死亡処理側証人。ミーナさんとカイは思い出ログ。ハコベエは......商業接続箱」

「少し迷いましたね」

「迷うよ、あれは」


 わたしは札を同行者枠へ差し込んだ。


【登録対象:ログル】

【申請理由:ログルがいないと、帰ってもひとりだから】


「それ表示するなああああああああ!」


 最終試験場の壁一面に、わたしの手書き理由が大きく映った。ベルの通信窓が開きかけたので、わたしは全力で閉じた。


「見ないで!」

「勇者様、すでに全員に共有されています」

「共有しないで! 泥棒判定だけでいいから共有しないで!」


 ログルが、小さく笑った。


「ぼくは、うれしいです」

「笑わないで」

「はい。少しだけにします」


 帰還門の白い枠が震える。


【同行者登録:審査開始】


 まだ承認ではない。でも、荷物欄には入らなかった。

 それだけで、わたしは少しだけ勝った気がした。

 登録枠に札を差したあと、ミーナやカイの札は消えなかった。薄い光になって、思い出ログ棚へ戻っていく。わたしはそれを見て、少しだけ息を吐いた。選ばなかったから失われるわけではない。けれど、選ばなかった痛みは残る。ローグライクの持ち込み選択も、人生の選択も、空いた枠の数だけ未練が残るらしい。


 壁に映された手書き理由は、しばらく消えなかった。わたしが両手で顔を隠している間に、ゼルドは真面目に読み、ベルは正式書類に転記し、ネムは受付控えに写し、ハコベエは記念商品にしようとしてベルに止められた。


「みんな忘れて!」

「勇者様、帰還門に提出された理由は記録扱いです」

「記録属性、今日だけ嫌い!」


 ログルは肩の上で、声を殺して笑っていた。珍しい。腹が立つけど、少しうれしい。


「ログル」

「はい」

「そんなに笑うなら、ログルも理由書いて」

「ぼくがですか」

「そう。相棒側の理由」


 ログルは困った顔をした。けれど、逃げなかった。小さな前足でペンを押さえ、少し時間をかけて紙に書く。


【勇者様が帰る道を、最後まで記録したいから】


 今度は、わたしが黙った。


「......ずるい」

「何がですか」

「そういうの、ずるい」


 壁の表示が、二人ぶんの理由を並べる。恥ずかしさで死にそうだったが、今回は死因ログにならなかった。


 ログルの理由書は、わたしのものと一緒に封筒へ入った。二枚重ねると、ただの紙なのに少し厚くなる。

「二枚になった」

「はい」

「重くなった?」

「持ち帰り枠の重さとしては変わりません」

「そういうことじゃない」

「分かっています」

 ログルが分かっていると言うと、本当に分かっている気がした。二枚ぶんの理由は、道具欄ではなく胸のほうを少し重くした。


【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還同行シード

死亡回数:1092回

クラス:帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【帰還門感知 Lv.3】

【死因学習 Lv.5】

【総合盤面確認 Lv.4】

【帰宅猶予線形成 Lv.1】

【相棒防衛 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

仮登録:【ログル:同行者枠候補】


【登場人物紹介】

コヨリ:全員を選びたい気持ちを抱えながら、ログルだけを同行者枠へ入れる。

ログル:荷物ではなく相棒として申請される。

ゼルド/ベル/ネム/ミーナ/カイ/ハコベエ:同行ではなく接続や記録として残る。


【ローグライクあるある解説】

最終登録回。ローグライクの持ち込み選択画面を、仲間選択画面として見せています。全員を選べない不自由さと、ログルだけを枠に入れる決断が中心です。 ログルだけを同行者枠に入れる回です。仲間を捨てるのではなく、接続・記録・拠点側担当へ分けることで、所持枠に入れない重要物を管理しています。


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