同行者登録最終試験――ログルだけを選ぶ
同行者枠はひとり。だから、ログルを選びます。
帰還門の前に、白い円が三つ浮かんだ。
【同行者】
【接続者】
【記憶因子】
前は全部、荷物扱いだった。
今は少しだけ分類が増えている。ベルの書類が効いたのだ。紙、強い。
【同行者枠:1】
【登録対象を選択してください】
【ログル】
【ゼルド】
【ベル】
【ハコベエ箱】
「ハコベエ箱、候補に入ってる」
「商業的価値が認められました」
「うれしくない方向で強い!」
候補を見た。
ゼルドは強い。でも、拠点側で門を守る。
ベルは有能。でも、法務担当として残るほうが強い。
ハコベエ箱は便利だけど、店判定で死ぬ未来しか見えない。
ログル。
「ログル」
「はい」
「来て」
ログルは迷わず歩いてきた。
帰還門の文字が揺れる。
【登録対象:ログル】
【分類:記録端末】
【警告:同行者分類と矛盾】
ベルが書類を掲げる。
「異議あり。記録端末人格化証明、勇者相棒関係継続申立書、魔王側承認書、死亡受付側証明書を提出済みです」
ゼルドが魔王印を掲げる。
「余も承認した」
ネムが小窓から判子を見せる。
「ログルさんは、ただの端末にしては心配しすぎます」
【再分類中】
わたしはログルを抱きたいのを我慢した。
抱っこすると未登録保持判定で死ぬ。覚えた。えらい。
ログルは自分で、わたしの横に立つ。
「ぼくは、同行者として登録されたいです」
【対象発話を確認】
【自己意志あり】
「ログル、もう一回」
「ぼくは、コヨリ様と一緒に帰りたいです」
泣きそうになった。
でも今泣いたら、神様の仕様が水分過多とか言い出しそうなので我慢した。
【登録対象:ログル】
【分類変更申請:受理】
【同行者枠:仮登録】
次に接続者登録。
ゼルドは拠点側門番。ベルは法務担当。ネムは死亡処理証人。ハコベエは商業接続箱。
「通った!?」
「通りました」
「なんで!?」
「割引券が強すぎます」
最後に、思い出ログ棚が光った。
ミーナ、カイ、いろんなシードで出会った人たちの名前が、細い線になって門へつながる。
【記憶因子:接続】
連れていけない。
でも、なかったことにはしない。
「次は、通ります」
ログルが言った。
「一緒にね」
「はい。一緒に」
同行者登録最終試験の入口には、白い枠が二つあった。
一つは、わたし用。もう一つは、同行者用。とても単純な形だ。単純すぎて、逃げ道がない。
【同行者枠:1】
【登録対象を選択してください】
枠の前に立つと、拠点の記録が次々に浮かんだ。ゼルド。ベル。ネム。ミーナ。カイ。ピヨラ。ハコベエ。リュシア。今まで出会った人たちの記録が、白い札になって揺れている。
全部、選びたくなる。
「ログル」
「はい」
「こういう選択画面、嫌い」
「宝箱を選ぶ時は、わりと楽しそうですが」
「宝箱は噛むから嫌い!」
「選択理由が複雑です」
わたしはまず、ゼルドの札に触れた。黒い光が広がり、魔王城の執務室が一瞬見える。疲れた魔王が、神様の仕様変更通知を読んで胃を押さえている。
【ゼルド:拠点側門番候補】
【同行時リスク:通路詰まり/威圧起床/魔王存在値過多】
「魔王存在値過多って何」
「存在感が大きいということかと」
「たしかに」
ベルの札に触れる。紙の音が重なり、眼鏡の奥の鋭い目が見えた。
【ベル:法務接続候補】
【同行時リスク:書類枠圧迫/正式抗議文保護行動/店舗判定過敏】
「ベルさん、後ろ二つが強すぎる」
「ベル様らしいです」
ミーナの札に触れると、パンの匂いがした。カイの札には、木剣の感触があった。ネムの札は眠そうで、ハコベエの札は噛もうとしたので、すぐ手を離した。
「みんな、同行者じゃないとだめかな」
「いいえ」
ログルの声は、静かだった。
「思い出ログ、拠点側接続、死亡処理証人、法務担当、門番。形を変えれば、消えずにつながる方法があります」
「ログルは?」
「ぼくは」
ログルは自分の札を見た。
【ログル:分類未定】
【候補:記録端末/荷物/相棒】
「ぼくは、まだ決まっていません」
「決める」
わたしはログルの札をつかんだ。
その瞬間、床のマス目が赤くなる。帰還門が警告を出す。
【注意:ログル登録により帰還成功率が低下します】
【注意:神様側貸与物の持ち出し判定が発生します】
【注意:同行者枠を消費します】
「うるさい」
声は小さかった。でも、ちゃんと行動判定になった。門の光が揺れる。
「成功率が下がっても、返却判定が出ても、枠を使っても、ログル」
「勇者様」
「ゼルドさんは門番。ベルさんは法務。ネムさんは死亡処理側証人。ミーナさんとカイは思い出ログ。ハコベエは......商業接続箱」
「少し迷いましたね」
「迷うよ、あれは」
わたしは札を同行者枠へ差し込んだ。
【登録対象:ログル】
【申請理由:ログルがいないと、帰ってもひとりだから】
「それ表示するなああああああああ!」
最終試験場の壁一面に、わたしの手書き理由が大きく映った。ベルの通信窓が開きかけたので、わたしは全力で閉じた。
「見ないで!」
「勇者様、すでに全員に共有されています」
「共有しないで! 泥棒判定だけでいいから共有しないで!」
ログルが、小さく笑った。
「ぼくは、うれしいです」
「笑わないで」
「はい。少しだけにします」
帰還門の白い枠が震える。
【同行者登録:審査開始】
まだ承認ではない。でも、荷物欄には入らなかった。
それだけで、わたしは少しだけ勝った気がした。
登録枠に札を差したあと、ミーナやカイの札は消えなかった。薄い光になって、思い出ログ棚へ戻っていく。わたしはそれを見て、少しだけ息を吐いた。選ばなかったから失われるわけではない。けれど、選ばなかった痛みは残る。ローグライクの持ち込み選択も、人生の選択も、空いた枠の数だけ未練が残るらしい。
壁に映された手書き理由は、しばらく消えなかった。わたしが両手で顔を隠している間に、ゼルドは真面目に読み、ベルは正式書類に転記し、ネムは受付控えに写し、ハコベエは記念商品にしようとしてベルに止められた。
「みんな忘れて!」
「勇者様、帰還門に提出された理由は記録扱いです」
「記録属性、今日だけ嫌い!」
ログルは肩の上で、声を殺して笑っていた。珍しい。腹が立つけど、少しうれしい。
「ログル」
「はい」
「そんなに笑うなら、ログルも理由書いて」
「ぼくがですか」
「そう。相棒側の理由」
ログルは困った顔をした。けれど、逃げなかった。小さな前足でペンを押さえ、少し時間をかけて紙に書く。
【勇者様が帰る道を、最後まで記録したいから】
今度は、わたしが黙った。
「......ずるい」
「何がですか」
「そういうの、ずるい」
壁の表示が、二人ぶんの理由を並べる。恥ずかしさで死にそうだったが、今回は死因ログにならなかった。
ログルの理由書は、わたしのものと一緒に封筒へ入った。二枚重ねると、ただの紙なのに少し厚くなる。
「二枚になった」
「はい」
「重くなった?」
「持ち帰り枠の重さとしては変わりません」
「そういうことじゃない」
「分かっています」
ログルが分かっていると言うと、本当に分かっている気がした。二枚ぶんの理由は、道具欄ではなく胸のほうを少し重くした。
【今回の勇者ステータス】
現在シード:帰還同行シード
死亡回数:1092回
クラス:帰還者
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
【帰還門感知 Lv.3】
【死因学習 Lv.5】
【総合盤面確認 Lv.4】
【帰宅猶予線形成 Lv.1】
【相棒防衛 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
仮登録:【ログル:同行者枠候補】
【登場人物紹介】
コヨリ:全員を選びたい気持ちを抱えながら、ログルだけを同行者枠へ入れる。
ログル:荷物ではなく相棒として申請される。
ゼルド/ベル/ネム/ミーナ/カイ/ハコベエ:同行ではなく接続や記録として残る。
【ローグライクあるある解説】
最終登録回。ローグライクの持ち込み選択画面を、仲間選択画面として見せています。全員を選べない不自由さと、ログルだけを枠に入れる決断が中心です。 ログルだけを同行者枠に入れる回です。仲間を捨てるのではなく、接続・記録・拠点側担当へ分けることで、所持枠に入れない重要物を管理しています。
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