同行者数3――もう通路が無理
ログル、ゼルド、ベル。強い。賢い。頼もしい。そして詰まる。
帰還門は、実地試験を要求した。
【同行者数:3】
【試験内容:隊列維持】
【注意:通路幅は変更されません】
「変更して!」
「勇者様、無理です」
「三人連れて一マス通路は無理だよ!」
ログルは肩。ベルは書類束を抱え、ゼルドは最後尾でマントを畳んでいる。
「魔王さん、今日マント小さい」
「余は学習した」
「えらい」
「魔王に向かって、えらいと言う幼女」
最初の部屋は順調だった。
ゼルドが敵を倒し、ベルが床を確認し、ログルが罠を読む。
問題は通路から。
前から盾コボルト。
後ろから巡回番犬。
横は壁。
足元に罠反応。
「下がる!」
背中にベルの書類束が当たる。
「ベルさん、下がって!」
「後方に魔王様がいらっしゃいます」
「魔王さん!」
「余の後方に番犬がいる」
「もう渋滞!」
【現在の盤面】
コヨリ:Lv1/HP15/15
前方:盾コボルト
後方:ベル、ゼルド、番犬
通路幅:一マス
所持品:【場所替えの杖 残り1回】
注意:杖を振る腕の可動域が不足
「可動域!」
「ベル様の書類束が右腕に干渉しています」
「ベルさん、書類!」
「正式書類ですので折れません」
「命は折れる!」
盾コボルトがじりじり近づく。
場所替えの杖を斜めに構えたら、書類に当たって一枚落ちた。
【落とし物判定】
【拾いますか?】
「拾わない!」
「勇者様、ベル様の正式書類です」
「今は拾わない!」
ベルが震える。
「正式書類が床に」
「ベルさん耐えて!」
その一手で、盾コボルトが押した。
わたしが下がり、ベルが下がり、ゼルドが下がれず、番犬が詰まる。
全員が通路にぎゅっと圧縮された。
「ぐえ」
「勇者様!」
「幼き勇者!」
「書類が!」
「今そこじゃない!」
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
【死亡ログ】
【死因:同行者数3で通路が詰まり、場所替えの杖を振る腕も塞がった】
【評価:通路幅は仲間の絆で広がりません】
【総死亡回数:1092回】
【新規獲得:同行人数制限 Lv.1】
拠点で、ログルが地図を描いた。通路に丸が四つ並び、どう見ても詰まっている。
「同行者が増えるほど、戦闘力は上がりますが、自由マスが減ります」
「仲間って難しい」
「はい」
「でも、一人が正解じゃない」
「はい」
わたしは地図に書いた。
【連れていく人数を、ちゃんと選ぶ】
三人同行は、見た目だけなら心強かった。
前にわたし。肩にログル。後ろにベル。さらにその後ろにゼルド。戦力、知識、書類、威圧感。これだけそろえば、普通の冒険なら勝ち確定のはずだ。
ただし、通路が一マス幅でなければ。
「止まって」
わたしが言うと、全員が止まった。そこまではいい。問題は、再び動き出す順番だった。
「前に敵。後ろに魔王さん。ベルさん、書類を横に広げない。ログル、尻尾が視界に入ってる」
「すみません」
「申し訳ございません」
「余はこれ以上縮めぬ」
「知ってる!」
前方には、盾コボルト二体と眠り粉コウモリ。眠り粉コウモリは、放置すると部屋全体に眠り粉を撒く。盾コボルトは通路を塞ぐ。ローグライクの敵は、単体では弱そうでも、組み合わせると急に性格が悪くなる。
わたしは道具欄を開いた。
【混乱の巻物】
【場所替えの杖】
【眠り玉】
【帰還鍵】
【同行者登録申請写し】
「混乱の巻物を読む」
「味方も混乱します」
「だめ。眠り玉」
「射線上にベル様の書類があります」
「場所替え」
「替わったあと、後続が詰まります」
詰まる。詰まる。何をしても詰まる。
ベルが冷静に言った。
「勇者様、ここは一度後退して広い部屋へ誘導するのが合理的です」
「後退したい」
「はい」
「後ろ、魔王さん」
「余だ」
「知ってる!」
ゼルドが一歩下がろうとした。だが、その後ろには検査門がある。検査門は、未承認同行者が逆走すると警告を出すタイプだった。
【警告:隊列逆走】
「逆走って言い方!」
「勇者様、前から来ます」
盾コボルトが近づく。眠り粉コウモリが羽を震わせる。わたしは眠り玉を握った。投げるなら今。だが、ベルの書類が射線にかかっている。
「ベルさん、書類下げて!」
「どの束をでしょう」
「全部!」
「全部は床に触れます」
「床に触れると?」
「書類吸い込み判定の可能性が」
「またそれ!」
ログルが肩から飛び降りようとした。
「ぼくが前に出て、射線を」
「だめ!」
わたしが止めたせいで一手遅れる。眠り粉コウモリが羽を開いた。白い粉が通路へ流れる。ベルが書類で口元を押さえ、ゼルドがマントでわたしたちを覆おうとする。
優しさが、さらに通路を狭くした。
「息できない!」
「粉を防いでおる!」
「マントで窒息する!」
わたしは混乱の巻物を読んだ。もうこれしかない。味方も混乱するかもしれないが、敵も混乱する。全員でぐちゃぐちゃになれば、たぶん何か起きる。
巻物が光る。
盾コボルトが混乱した。眠り粉コウモリも混乱した。ベルも少し混乱し、書類をアルファベット順に並べ始めた。ゼルドは魔王なので耐えた。ログルも耐えた。
わたしだけが、なぜか一番混乱した。
「勇者様、右です!」
「右ってどっち!?」
「手に箸を持つほうではありません!」
「箸持ってない!」
次の一手で、わたしは場所替えの杖を振った。相手は盾コボルトではなく、後ろのゼルドだった。
視界が変わる。
わたしは隊列最後尾に立ち、前方にはベル、ログル、魔王、敵。通路は、もう美しいくらい詰まっていた。
「逆に悪化したああああああああ!」
その死因ログを見たベルは、真剣な顔で隊列表を作り直した。わたしの横にログル、少し後ろにベル、広い部屋でだけゼルド。通路ではゼルド待機。ハコベエは原則置いていく。ハコベエが「噛みませんので」と抗議したが、全員一致で却下された。同行者管理とは、仲良く並ぶことではない。危ない場所では、仲良く離れることも含まれる。
隊列表は、何度書き直しても変な形になった。普通なら前衛、後衛、支援役で並べるのだと思う。けれど、わたしたちの場合、前衛が魔王で大きすぎ、支援役が書類を守りすぎ、相棒が小さすぎる。
「ログル、理想隊列ってある?」
「あります」
「見せて」
ログルの宝石から、きれいな図が浮かんだ。広い部屋なら、わたしの横にログル、後ろにベル、斜め前にゼルド。とても安全そうだ。
「通路だと?」
図が一列になった瞬間、全部が赤く染まった。
「全滅予想みたいに赤い!」
「通路では、強い味方が強い障害物になります」
「魔王さん、聞いた?」
「聞いた。余は強い障害物」
「ちょっと誇らしそうにしないで!」
ゼルドは咳払いをして、通路待機札を受け取った。ベルは隊列表の横に、【広い部屋で合流】と書く。ハコベエはこっそり【店で合流】と足したので、全員で消した。
仲間を増やすほど強くなる、とは限らない。仲間をどこに置くかまで考えて、ようやく少し強くなる。
通路待機札を渡されたゼルドは、しばらく札を裏返したり表にしたりしていた。
「余が待つことで、攻略になるのだな」
「なる」
「戦わずして役に立つのは、少し妙だ」
「ローグライクでは、戦わない判断がだいたい強い」
ゼルドはその言葉を気に入ったらしく、札をマントの内側へ大事そうにしまった。魔王の新装備、通路待機札。見た目は弱そうだが、効果はたぶん強い。
【今回の勇者ステータス】
現在シード:帰還同行シード
死亡回数:1092回
クラス:帰還者
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
【帰還門感知 Lv.3】
【死因学習 Lv.5】
【総合盤面確認 Lv.4】
【帰宅猶予線形成 Lv.1】
【相棒防衛 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【同行人数制限 Lv.1】
【登場人物紹介】
コヨリ:三人同行の強さより、通路幅の現実を思い知る。
ゼルド:耐久力と威圧感はあるが、隊列では壁。
ベル:混乱しても書類を整える。
ログル:右左の指示まで出すが、混乱中の幼女には難しい。
【ローグライクあるある解説】
同行者数過多回。強い味方が多いほど楽ではなく、隊列、射線、巻物誤爆、混乱事故が増える作りです。混乱中に操作を間違えて悪化するのも定番事故です。 同行者数が増えすぎて通路が終わる回です。パーティーが強くなるほど位置取りが難しくなり、場所替えの杖すら振れない密度になる事故を狙っています。
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