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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第28章 帰還同行シード――持ち帰り枠が足りません

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同行者数3――もう通路が無理

ログル、ゼルド、ベル。強い。賢い。頼もしい。そして詰まる。


 帰還門は、実地試験を要求した。


【同行者数:3】

【試験内容:隊列維持】

【注意:通路幅は変更されません】


「変更して!」

「勇者様、無理です」

「三人連れて一マス通路は無理だよ!」


 ログルは肩。ベルは書類束を抱え、ゼルドは最後尾でマントを畳んでいる。

「魔王さん、今日マント小さい」

「余は学習した」

「えらい」

「魔王に向かって、えらいと言う幼女」


 最初の部屋は順調だった。

 ゼルドが敵を倒し、ベルが床を確認し、ログルが罠を読む。


 問題は通路から。


 前から盾コボルト。

 後ろから巡回番犬。

 横は壁。

 足元に罠反応。


「下がる!」


 背中にベルの書類束が当たる。


「ベルさん、下がって!」

「後方に魔王様がいらっしゃいます」

「魔王さん!」

「余の後方に番犬がいる」

「もう渋滞!」


【現在の盤面】

コヨリ:Lv1/HP15/15

前方:盾コボルト

後方:ベル、ゼルド、番犬

通路幅:一マス

所持品:【場所替えの杖 残り1回】

注意:杖を振る腕の可動域が不足


「可動域!」

「ベル様の書類束が右腕に干渉しています」

「ベルさん、書類!」

「正式書類ですので折れません」

「命は折れる!」


 盾コボルトがじりじり近づく。

 場所替えの杖を斜めに構えたら、書類に当たって一枚落ちた。


【落とし物判定】

【拾いますか?】


「拾わない!」

「勇者様、ベル様の正式書類です」

「今は拾わない!」


 ベルが震える。

「正式書類が床に」

「ベルさん耐えて!」


 その一手で、盾コボルトが押した。

 わたしが下がり、ベルが下がり、ゼルドが下がれず、番犬が詰まる。

 全員が通路にぎゅっと圧縮された。


「ぐえ」

「勇者様!」

「幼き勇者!」

「書類が!」

「今そこじゃない!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【死亡ログ】

【死因:同行者数3で通路が詰まり、場所替えの杖を振る腕も塞がった】

【評価:通路幅は仲間の絆で広がりません】

【総死亡回数:1092回】

【新規獲得:同行人数制限 Lv.1】


 拠点で、ログルが地図を描いた。通路に丸が四つ並び、どう見ても詰まっている。

「同行者が増えるほど、戦闘力は上がりますが、自由マスが減ります」

「仲間って難しい」

「はい」

「でも、一人が正解じゃない」

「はい」


 わたしは地図に書いた。


【連れていく人数を、ちゃんと選ぶ】


 三人同行は、見た目だけなら心強かった。

 前にわたし。肩にログル。後ろにベル。さらにその後ろにゼルド。戦力、知識、書類、威圧感。これだけそろえば、普通の冒険なら勝ち確定のはずだ。


 ただし、通路が一マス幅でなければ。


「止まって」


 わたしが言うと、全員が止まった。そこまではいい。問題は、再び動き出す順番だった。


「前に敵。後ろに魔王さん。ベルさん、書類を横に広げない。ログル、尻尾が視界に入ってる」

「すみません」

「申し訳ございません」

「余はこれ以上縮めぬ」

「知ってる!」


 前方には、盾コボルト二体と眠り粉コウモリ。眠り粉コウモリは、放置すると部屋全体に眠り粉を撒く。盾コボルトは通路を塞ぐ。ローグライクの敵は、単体では弱そうでも、組み合わせると急に性格が悪くなる。


 わたしは道具欄を開いた。


【混乱の巻物】

【場所替えの杖】

【眠り玉】

帰還鍵(ホームキー)

【同行者登録申請写し】


「混乱の巻物を読む」

「味方も混乱します」

「だめ。眠り玉」

「射線上にベル様の書類があります」

「場所替え」

「替わったあと、後続が詰まります」


 詰まる。詰まる。何をしても詰まる。


 ベルが冷静に言った。


「勇者様、ここは一度後退して広い部屋へ誘導するのが合理的です」

「後退したい」

「はい」

「後ろ、魔王さん」

「余だ」

「知ってる!」


 ゼルドが一歩下がろうとした。だが、その後ろには検査門がある。検査門は、未承認同行者が逆走すると警告を出すタイプだった。


【警告:隊列逆走】


「逆走って言い方!」

「勇者様、前から来ます」


 盾コボルトが近づく。眠り粉コウモリが羽を震わせる。わたしは眠り玉を握った。投げるなら今。だが、ベルの書類が射線にかかっている。


「ベルさん、書類下げて!」

「どの束をでしょう」

「全部!」

「全部は床に触れます」

「床に触れると?」

「書類吸い込み判定の可能性が」

「またそれ!」


 ログルが肩から飛び降りようとした。


「ぼくが前に出て、射線を」

「だめ!」


 わたしが止めたせいで一手遅れる。眠り粉コウモリが羽を開いた。白い粉が通路へ流れる。ベルが書類で口元を押さえ、ゼルドがマントでわたしたちを覆おうとする。


 優しさが、さらに通路を狭くした。


「息できない!」

「粉を防いでおる!」

「マントで窒息する!」


 わたしは混乱の巻物を読んだ。もうこれしかない。味方も混乱するかもしれないが、敵も混乱する。全員でぐちゃぐちゃになれば、たぶん何か起きる。


 巻物が光る。


 盾コボルトが混乱した。眠り粉コウモリも混乱した。ベルも少し混乱し、書類をアルファベット順に並べ始めた。ゼルドは魔王なので耐えた。ログルも耐えた。


 わたしだけが、なぜか一番混乱した。


「勇者様、右です!」

「右ってどっち!?」

「手に箸を持つほうではありません!」

「箸持ってない!」


 次の一手で、わたしは場所替えの杖を振った。相手は盾コボルトではなく、後ろのゼルドだった。


 視界が変わる。

 わたしは隊列最後尾に立ち、前方にはベル、ログル、魔王、敵。通路は、もう美しいくらい詰まっていた。


「逆に悪化したああああああああ!」

 その死因ログを見たベルは、真剣な顔で隊列表を作り直した。わたしの横にログル、少し後ろにベル、広い部屋でだけゼルド。通路ではゼルド待機。ハコベエは原則置いていく。ハコベエが「噛みませんので」と抗議したが、全員一致で却下された。同行者管理とは、仲良く並ぶことではない。危ない場所では、仲良く離れることも含まれる。


 隊列表は、何度書き直しても変な形になった。普通なら前衛、後衛、支援役で並べるのだと思う。けれど、わたしたちの場合、前衛が魔王で大きすぎ、支援役が書類を守りすぎ、相棒が小さすぎる。


「ログル、理想隊列ってある?」

「あります」

「見せて」


 ログルの宝石から、きれいな図が浮かんだ。広い部屋なら、わたしの横にログル、後ろにベル、斜め前にゼルド。とても安全そうだ。


「通路だと?」


 図が一列になった瞬間、全部が赤く染まった。


「全滅予想みたいに赤い!」

「通路では、強い味方が強い障害物になります」

「魔王さん、聞いた?」

「聞いた。余は強い障害物」

「ちょっと誇らしそうにしないで!」


 ゼルドは咳払いをして、通路待機札を受け取った。ベルは隊列表の横に、【広い部屋で合流】と書く。ハコベエはこっそり【店で合流】と足したので、全員で消した。


 仲間を増やすほど強くなる、とは限らない。仲間をどこに置くかまで考えて、ようやく少し強くなる。


 通路待機札を渡されたゼルドは、しばらく札を裏返したり表にしたりしていた。

「余が待つことで、攻略になるのだな」

「なる」

「戦わずして役に立つのは、少し妙だ」

「ローグライクでは、戦わない判断がだいたい強い」

 ゼルドはその言葉を気に入ったらしく、札をマントの内側へ大事そうにしまった。魔王の新装備、通路待機札。見た目は弱そうだが、効果はたぶん強い。


【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還同行シード

死亡回数:1092回

クラス:帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【帰還門感知 Lv.3】

【死因学習 Lv.5】

【総合盤面確認 Lv.4】

【帰宅猶予線形成 Lv.1】

【相棒防衛 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【同行人数制限 Lv.1】


【登場人物紹介】

コヨリ:三人同行の強さより、通路幅の現実を思い知る。

ゼルド:耐久力と威圧感はあるが、隊列では壁。

ベル:混乱しても書類を整える。

ログル:右左の指示まで出すが、混乱中の幼女には難しい。


【ローグライクあるある解説】

同行者数過多回。強い味方が多いほど楽ではなく、隊列、射線、巻物誤爆、混乱事故が増える作りです。混乱中に操作を間違えて悪化するのも定番事故です。 同行者数が増えすぎて通路が終わる回です。パーティーが強くなるほど位置取りが難しくなり、場所替えの杖すら振れない密度になる事故を狙っています。


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