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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第28章 帰還同行シード――持ち帰り枠が足りません

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ログルは端末じゃない

帰還門はログルを返却対象にします。コヨリは認めません。

 帰還門の光がログルを照らした。


【対象確認】

【ログル】

【分類:神様側貸与記録端末】

【処理:返却対象】

【同行不可】


「返却対象?」


 わたしの手が拳になった。


「ログルは借り物じゃない」

「最初は、神様から支給された補助端末でした」

「最初は、でしょ」


【返却対象】

【同行不可】


 わたしは一歩前に出る。


「ログルは端末じゃない」

【分類エラー】

「相棒」

【分類不一致】

「相棒!」


 大声で叫んだので、ターンが進む。

 門の光が刃みたいに伸びた。わたしとログルを切り離す光だ。


「勇者様、下がってください!」

「下がらない!」

「ぼくがいると帰還率が下がります!」

「ログルがいない帰還率なんか、ゼロでいい!」


 光がログルの宝石へ集まる。


【端末初期化準備】

【記録領域回収】


「初期化? それ、やったらだめなやつ」


 帰還鍵を抜く。剣じゃない。でも今はこれでいい。

 鍵を光へ振る。一手。火花のように文字が散るが、刃は止まらない。


「だめ!」


 ログルを抱きしめる。


【未登録対象保持】

【帰還条件不適合】

【防衛対象と干渉】


「また圧縮する気!?」

「手を離してください!」

「離さない!」


 白い光が落ちた。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【死亡ログ】

【死因:ログルを庇い、帰還門の返却対象処理を受けた】

【評価:記録端末ではなく、相棒を守りました】

【総死亡回数:1090回】

【新規獲得:相棒防衛 Lv.1】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 二回目は、ログルを抱えて走った。

 足元確認もした。したつもりだった。


「右足、罠!」

「分かってる!」

「分かっていません!」


 分かっていなかった。

 転送罠を踏む。ログルを抱えたまま未調整の帰還線へ落ちる。

 玄関も拠点も見えた。どちらにも届かない場所で、体がほどけた。


【死亡ログ】

【死因:ログルを抱えたまま走り、転送罠で未調整帰還線へ落ちた】

【評価:相棒を抱える時ほど足元確認】

【総死亡回数:1091回】


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 拠点で、ログルは反省会テーブルの下にいた。


「初期化されてない?」

「はい」

「覚えてる?」

「ぼくの勇者様です」


 泣きそうになった。

「相棒は置いていかない」

「ぼくも、置いていかれたくありません」


 ログルが、わたしの手に前足を乗せた。


「ぼくは、同行者になりたいです」


 ログルは、拠点の隅で丸くなっていた。

 いつもなら死因ログを整理している時間だ。わたしが死んで戻ると、ネムより先に「今回の死因は」と言ってくる。言わなくていいと言っても言う。そういう相棒だ。


 でも、その日は何も言わなかった。


「ログル」

「勇者様」

「こっち来て」

「今は、距離を取ったほうが安全です」

「安全って誰の」


 ログルは答えなかった。


 帰還門の分類表示は、まだ空中に残っている。


【ログル:神様側貸与端末】

【返却対象】

【同行不可】


 その文字を見るたびに、胸の奥が熱くなる。神様がくれたもの。支給品。端末。そういう言い方なら、たしかに最初はそうだったのかもしれない。ログルは鑑定して、死因を記録して、神様へログを送るためにいた。


 でも、最初がそうだったからって、ずっとそうとは限らない。


「ぼくがいると、帰還率が下がります」

「下がっていい」

「よくありません」

「わたしが決める」

「勇者様の目的は、帰ることです」

「ログルがいない帰り道は、目的地じゃない」


 ログルの耳が、ほんの少し伏せられた。


「ぼくは、勇者様を帰すための補助です」

「違う」

「違いません。仕様上は」

「仕様書を燃やす」

「火属性は危険です」

「水に浸ける」

「インクがにじみます」

「じゃあベルさんに正式抗議文で殴ってもらう」

「それは効きそうです」


 少しだけ、ログルの声がやわらいだ。


 帰還門が鳴る。分類表示が再起動し、ログルの宝石へ白い鎖が伸びる。返却処理だ。わたしは考えるより先に走った。


「勇者様、来ないでください!」

「行く!」


 一手。わたしが走る。門の鎖も動く。ログルが身を引く。世界が同時に進む。


 白い鎖がログルの宝石に触れる寸前、わたしは両腕でログルを抱え込んだ。鎖がわたしの背中に触れる。熱くはない。でも、存在の輪郭を薄くされるような気持ち悪さがあった。


【分類干渉】

【支給品返却処理に障害】


「障害でけっこう!」


 光が強くなる。わたしの足元に赤いマス目が広がった。ここに立っていると危険。分かる。分かるけど、どかない。


「勇者様、離してください」

「いや」

「このままだと、あなたが」

「死ぬのは慣れてる」

「慣れないでください!」


 ログルが、初めて大きな声を出した。

 わたしはびっくりして、腕の力を少し緩めた。その隙間から、ログルの顔が見えた。怒っていた。泣きそうにも見えた。


「ぼくは、勇者様が死ぬ前提で守られるのは嫌です」

「じゃあ、一緒に生きる前提で守る」

「方法が」

「まだないなら、作る」


 鎖が二本に増える。一本はログルへ。もう一本は、わたしの胸へ。帰還門が、わたしたちをまとめて異常データとして処理しようとしている。


 道具欄には【分類拒否札】が一枚だけ。拾った覚えはない。たぶん、さっき死んだ時に増えた。死因ログは、ときどき本当に役に立つ。


「ログル、これ使う」

「未識別です」

「名前でだいたい分かる!」

「そう言って爆発草を食べたことがあります」

「今それ言う!?」


 わたしは札を門へ叩きつけた。


 一手。


 白い光がはじけ、分類表示が乱れる。


【ログル:返却対象】

【ログル:記録端末】

【ログル:相棒】

【ログル:分類不能】


「よし、混乱した!」

「門を混乱させてどうするんですか!」

「混乱してる間に逃げる!」


 逃げた先が転送罠だったことだけが、本当に惜しかった。

 転送罠で死んだあと、わたしは反省会テーブルに【かっこいいことを言った後こそ足元】と書いた。ログルが珍しく笑いをこらえていたので、わたしはほっぺたをふくらませた。相棒を守る意志と、足元確認は、どちらも同じくらい大事らしい。


 転送罠のあと、ログルはしばらくわたしの肩に乗らなかった。代わりに、反省会テーブルの端に座り、分類拒否札を前足で押している。怒っているというより、考えている顔だった。


「ログル」

「はい」

「怒ってる?」

「少し」

「わたしが死んだ前提で守ったから?」

「はい。それと、足元を見なかったので」

「後半がいつものログルだ」


 少し安心した。怒っている理由に、ちゃんといつもの足元確認が混じっている。


 わたしは椅子を引き、ログルの正面に座った。


「じゃあ、次は一緒に生きる前提で、足元も見る」

「難易度が上がりました」

「相棒同行って、だいたい難易度上がるんだよ」

「それでも、選びますか」

「選ぶ」


 ログルは札をわたしのほうへ押した。


「では、分類拒否札は勇者様が持ってください。ぼくが自分を拒否するより、あなたが拒否したほうが強い」

「荷物分類を?」

「はい」


 わたしは札を受け取った。軽い札なのに、指先が少し震えた。


【今回の勇者ステータス】

現在シード:帰還同行シード

死亡回数:1091回

クラス:帰還者

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション


【獲得済み主要スキル】

【帰還門感知 Lv.3】

【死因学習 Lv.5】

【総合盤面確認 Lv.4】

【帰宅猶予線形成 Lv.1】

【相棒防衛 Lv.1】


【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【相棒防衛 Lv.1】/死亡回数+2


【登場人物紹介】

コヨリ:ログルがいない帰還率などゼロでいいと言い切る。

ログル:守られるだけを嫌がり、相棒として怒る。

ベル:直接出番は少ないが、書類で殴る案に妙な説得力がある。


【ローグライクあるある解説】

支給品返却・相棒防衛回。呪い装備や重要品が外せない感覚を、ログル返却判定に変換しています。未識別の分類拒否札を使う危険も、ローグライク的な賭けです。 相棒防衛回。支給品や端末扱いのものを守ることで、呪い装備を外せない時とは逆に「外されたくないもの」を守る緊張感を作っています。


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