ログルは端末じゃない
帰還門はログルを返却対象にします。コヨリは認めません。
帰還門の光がログルを照らした。
【対象確認】
【ログル】
【分類:神様側貸与記録端末】
【処理:返却対象】
【同行不可】
「返却対象?」
わたしの手が拳になった。
「ログルは借り物じゃない」
「最初は、神様から支給された補助端末でした」
「最初は、でしょ」
【返却対象】
【同行不可】
わたしは一歩前に出る。
「ログルは端末じゃない」
【分類エラー】
「相棒」
【分類不一致】
「相棒!」
大声で叫んだので、ターンが進む。
門の光が刃みたいに伸びた。わたしとログルを切り離す光だ。
「勇者様、下がってください!」
「下がらない!」
「ぼくがいると帰還率が下がります!」
「ログルがいない帰還率なんか、ゼロでいい!」
光がログルの宝石へ集まる。
【端末初期化準備】
【記録領域回収】
「初期化? それ、やったらだめなやつ」
帰還鍵を抜く。剣じゃない。でも今はこれでいい。
鍵を光へ振る。一手。火花のように文字が散るが、刃は止まらない。
「だめ!」
ログルを抱きしめる。
【未登録対象保持】
【帰還条件不適合】
【防衛対象と干渉】
「また圧縮する気!?」
「手を離してください!」
「離さない!」
白い光が落ちた。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
【死亡ログ】
【死因:ログルを庇い、帰還門の返却対象処理を受けた】
【評価:記録端末ではなく、相棒を守りました】
【総死亡回数:1090回】
【新規獲得:相棒防衛 Lv.1】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
二回目は、ログルを抱えて走った。
足元確認もした。したつもりだった。
「右足、罠!」
「分かってる!」
「分かっていません!」
分かっていなかった。
転送罠を踏む。ログルを抱えたまま未調整の帰還線へ落ちる。
玄関も拠点も見えた。どちらにも届かない場所で、体がほどけた。
【死亡ログ】
【死因:ログルを抱えたまま走り、転送罠で未調整帰還線へ落ちた】
【評価:相棒を抱える時ほど足元確認】
【総死亡回数:1091回】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
拠点で、ログルは反省会テーブルの下にいた。
「初期化されてない?」
「はい」
「覚えてる?」
「ぼくの勇者様です」
泣きそうになった。
「相棒は置いていかない」
「ぼくも、置いていかれたくありません」
ログルが、わたしの手に前足を乗せた。
「ぼくは、同行者になりたいです」
ログルは、拠点の隅で丸くなっていた。
いつもなら死因ログを整理している時間だ。わたしが死んで戻ると、ネムより先に「今回の死因は」と言ってくる。言わなくていいと言っても言う。そういう相棒だ。
でも、その日は何も言わなかった。
「ログル」
「勇者様」
「こっち来て」
「今は、距離を取ったほうが安全です」
「安全って誰の」
ログルは答えなかった。
帰還門の分類表示は、まだ空中に残っている。
【ログル:神様側貸与端末】
【返却対象】
【同行不可】
その文字を見るたびに、胸の奥が熱くなる。神様がくれたもの。支給品。端末。そういう言い方なら、たしかに最初はそうだったのかもしれない。ログルは鑑定して、死因を記録して、神様へログを送るためにいた。
でも、最初がそうだったからって、ずっとそうとは限らない。
「ぼくがいると、帰還率が下がります」
「下がっていい」
「よくありません」
「わたしが決める」
「勇者様の目的は、帰ることです」
「ログルがいない帰り道は、目的地じゃない」
ログルの耳が、ほんの少し伏せられた。
「ぼくは、勇者様を帰すための補助です」
「違う」
「違いません。仕様上は」
「仕様書を燃やす」
「火属性は危険です」
「水に浸ける」
「インクがにじみます」
「じゃあベルさんに正式抗議文で殴ってもらう」
「それは効きそうです」
少しだけ、ログルの声がやわらいだ。
帰還門が鳴る。分類表示が再起動し、ログルの宝石へ白い鎖が伸びる。返却処理だ。わたしは考えるより先に走った。
「勇者様、来ないでください!」
「行く!」
一手。わたしが走る。門の鎖も動く。ログルが身を引く。世界が同時に進む。
白い鎖がログルの宝石に触れる寸前、わたしは両腕でログルを抱え込んだ。鎖がわたしの背中に触れる。熱くはない。でも、存在の輪郭を薄くされるような気持ち悪さがあった。
【分類干渉】
【支給品返却処理に障害】
「障害でけっこう!」
光が強くなる。わたしの足元に赤いマス目が広がった。ここに立っていると危険。分かる。分かるけど、どかない。
「勇者様、離してください」
「いや」
「このままだと、あなたが」
「死ぬのは慣れてる」
「慣れないでください!」
ログルが、初めて大きな声を出した。
わたしはびっくりして、腕の力を少し緩めた。その隙間から、ログルの顔が見えた。怒っていた。泣きそうにも見えた。
「ぼくは、勇者様が死ぬ前提で守られるのは嫌です」
「じゃあ、一緒に生きる前提で守る」
「方法が」
「まだないなら、作る」
鎖が二本に増える。一本はログルへ。もう一本は、わたしの胸へ。帰還門が、わたしたちをまとめて異常データとして処理しようとしている。
道具欄には【分類拒否札】が一枚だけ。拾った覚えはない。たぶん、さっき死んだ時に増えた。死因ログは、ときどき本当に役に立つ。
「ログル、これ使う」
「未識別です」
「名前でだいたい分かる!」
「そう言って爆発草を食べたことがあります」
「今それ言う!?」
わたしは札を門へ叩きつけた。
一手。
白い光がはじけ、分類表示が乱れる。
【ログル:返却対象】
【ログル:記録端末】
【ログル:相棒】
【ログル:分類不能】
「よし、混乱した!」
「門を混乱させてどうするんですか!」
「混乱してる間に逃げる!」
逃げた先が転送罠だったことだけが、本当に惜しかった。
転送罠で死んだあと、わたしは反省会テーブルに【かっこいいことを言った後こそ足元】と書いた。ログルが珍しく笑いをこらえていたので、わたしはほっぺたをふくらませた。相棒を守る意志と、足元確認は、どちらも同じくらい大事らしい。
転送罠のあと、ログルはしばらくわたしの肩に乗らなかった。代わりに、反省会テーブルの端に座り、分類拒否札を前足で押している。怒っているというより、考えている顔だった。
「ログル」
「はい」
「怒ってる?」
「少し」
「わたしが死んだ前提で守ったから?」
「はい。それと、足元を見なかったので」
「後半がいつものログルだ」
少し安心した。怒っている理由に、ちゃんといつもの足元確認が混じっている。
わたしは椅子を引き、ログルの正面に座った。
「じゃあ、次は一緒に生きる前提で、足元も見る」
「難易度が上がりました」
「相棒同行って、だいたい難易度上がるんだよ」
「それでも、選びますか」
「選ぶ」
ログルは札をわたしのほうへ押した。
「では、分類拒否札は勇者様が持ってください。ぼくが自分を拒否するより、あなたが拒否したほうが強い」
「荷物分類を?」
「はい」
わたしは札を受け取った。軽い札なのに、指先が少し震えた。
【今回の勇者ステータス】
現在シード:帰還同行シード
死亡回数:1091回
クラス:帰還者
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済み主要スキル】
【帰還門感知 Lv.3】
【死因学習 Lv.5】
【総合盤面確認 Lv.4】
【帰宅猶予線形成 Lv.1】
【相棒防衛 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【相棒防衛 Lv.1】/死亡回数+2
【登場人物紹介】
コヨリ:ログルがいない帰還率などゼロでいいと言い切る。
ログル:守られるだけを嫌がり、相棒として怒る。
ベル:直接出番は少ないが、書類で殴る案に妙な説得力がある。
【ローグライクあるある解説】
支給品返却・相棒防衛回。呪い装備や重要品が外せない感覚を、ログル返却判定に変換しています。未識別の分類拒否札を使う危険も、ローグライク的な賭けです。 相棒防衛回。支給品や端末扱いのものを守ることで、呪い装備を外せない時とは逆に「外されたくないもの」を守る緊張感を作っています。
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