魔法で罠を起動したら、罠の方が賢かった
遠くから罠を起動すれば安全。
そう思った時点で負けです。
王都の罠は、横の部屋まで友達を呼びます。
罠街区は、静かだった。
静かなのに、うるさい。
床にスイッチ。壁に矢穴。天井に網。角に油壺。石像の口に小さな針。
何も動いていないのに、全部が「踏んで」と言っている気がする。
「ログル。帰りたい」
「目的としては正しいです」
「今すぐ帰りたい」
「まずはこの街区を抜けましょう」
「王都、歩くだけで心が削れる!」
トラッパは、楽しそうに床を見ていた。
「いい罠が多い」
「感想が怖い!」
「ここは防犯中枢に近い。全部つながってる」
スリップが壁ぎわを歩く。
「普通に進むと踏む。解除しようとして近づくと踏む。だから遠くから動かす」
わたしは、こども杖を握った。
「ころころ火球なら、遠くのスイッチを押せる」
「勇者様。火の周囲に油床がないか確認してください」
「確認済み。火皿もない。旗の影もない。歓迎マットもない」
「よろしい」
杖を振る。
「ころころ火球!」
小さな火球が床を転がり、遠くのスイッチを押した。
かちり。
横の落とし穴が開き、警備人形がすとんと落ちる。
「見た!? ログル! 今のすごく攻略っぽかった!」
「はい。罠を踏まずに起動できました」
「罠師っぽい!」
「調子に乗ると危険です」
「分かってる。わたしは慎重な幼女勇者」
その三分後、慎重な幼女勇者は調子に乗った。
次の部屋には、床に細い金属線が走っていた。壁の穴が七つ。天井には網。奥に警備人形が三体。
「部屋鳴り雷で全部止められるのでは?」
わたしは言った。
トラッパが首を振る。
「雷はやめた方がいい。床、隣までつながってる」
ログルも言う。
「勇者様。楽に済ませようとする時ほど、死亡ログが増えます」
「でも一回で済むよ?」
「何が一回で済むかが問題です」
わたしは杖を掲げた。
「部屋鳴り雷!」
雷が部屋に広がった。
警備人形が止まる。
「やった!」
床の金属線が光った。
隣の部屋も光った。
その隣も光った。
壁の向こうから、かち、かち、かち、かち、と大量の音がした。
「ログル」
「王都罠ネットワークが起動しました」
「言葉がかっこいいのに最悪!」
矢。網。ばね。油床。回転扉。警備人形。バケツ。なぜか紙吹雪。
「一回で済んだ! 全部一回で来た! そういう意味じゃなああああああああい!」
【死亡ログ】
死亡回数:34回目
死亡時レベル:Lv5
死因:【部屋鳴り雷で王都罠ネットワークをまとめて起動した】
評価:【一回で済ませようとすると、全部来ます】
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
再挑戦。
わたしは杖を持ったまま、深呼吸した。
「雷は?」
「使わない」
「床配線は?」
「疑う」
「楽に済ませる?」
「済ませない」
「よろしい」
ログル先生である。
今度は火球を床スイッチだけに転がす。霜ふり床で警備人形を滑らせる。小石で壁の矢を先に撃たせる。安全確認棒で隠しスイッチをつつく。
一手ごとに、世界が動く。
でも、前より見える。
火球を撃つ場所。逃げる場所。敵が動く先。罠が起きる順番。
「トラッパ。ここ、落とし穴をこっち向きに直せる?」
「できる」
「スリップ、警備人形をこっちへ引いて」
「おう」
「ログル、床配線がないか見て」
「右壁に雷線。左は安全です」
警備人形が一歩。
わたしが一歩。
霜ふり床で滑る。
落とし穴へ落ちる。
勝った。
「君、罠を怖がってるけど、ちゃんと見てる」
トラッパが言った。
「怖がらないと死ぬからね!」
「それはいい罠師の第一歩」
ログルの宝石が光る。
【新規獲得:遠隔起動 Lv.1】
【新規獲得:罠配線警戒 Lv.1】
【レベルアップ:罠感知 Lv.2→罠感知 Lv.3】
「Lv6になりました」
「HP増えた?」
「最大HP39です」
「でも油断したら死ぬ?」
「はい」
「王都で油断という言葉、存在しない!」
罠街区の奥に、地下へ続く階段が見えた。
階段の上には、扉の形をした石碑がある。
その石碑を見た瞬間、胸の奥が少しだけ鳴った。
帰る。
白い拠点の壁に書いた文字を思い出す。
「ログル。あれ、反応してる?」
「はい。弱いですが、帰還因子に似ています」
「行こう」
スリップが肩をすくめた。
「地下はドアまで性格悪いぜ」
「ドアは普通、性格ないんだよ!」
【今回の死亡ログ】
死亡時レベル:Lv5
死亡時HP:0/36
死亡時満腹度:43/100
今回の死因:【部屋鳴り雷で王都罠ネットワークをまとめて起動した】
評価:【一回で済ませようとすると、全部来ます】
ロスト:【雷避けの布】【拾った鉄釘】【未識別の腕輪】
【今回の勇者ステータス】
現在シード:シード027
再挑戦後レベル:Lv6
最大HP:39
現在HP:31/39
死亡回数:34回
クラス:罠師候補
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
【獲得済みスキル】
【恐怖耐性 Lv.1】
【危険察知 Lv.2】
【足元確認 Lv.3】
【罠感知 Lv.3】
【未識別警戒 Lv.3】
【魔法安全確認 Lv.1】
【属性識別 Lv.1】
【罠移設 Lv.1】
【今回の新規獲得・更新】
新規獲得:【遠隔起動 Lv.1】
新規獲得:【罠配線警戒 Lv.1】
レベルアップ:【罠感知 Lv.2】→【罠感知 Lv.3】
統合候補:【ワイヤー確認 Lv.1】+【連鎖罠警戒 Lv.1】+【罠配線警戒 Lv.1】→【盤面確認 Lv.1】
【登場人物紹介】
トラッパ:罠配線を読める罠職人。雷を嫌がる理由はだいたい正しい。
スリップ:警備人形を誘導できるが、たまに自分も誘導される盗賊少年。
コヨリ:魔法で罠を起動する楽しさと怖さを両方覚えた幼女勇者。
少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援していただけると嬉しいです!




